企業による違法行為などを、従業員が企業内に設けられた内部通報窓口や行政機関、報道機関などに通報することを「公益通報」といいます。
公益通報を行なった従業員(通報者)が、通報したことを理由に降格や解雇といった不利益を受けることがないよう、通報者を保護するルールなどを定めた法律が「公益通報者保護法」です。
2004年に成立し、2006年に施行されてから、大企業を中心に内部通報窓口の整備が進みましたが、保護の対象となる通報者や要件が限定的といった問題点などが指摘され、施行後も企業の不祥事が相次いで発覚しました。
公益通報をより実効性のある制度にするため、消費者庁などで法改正の検討が始まり、内部通報の体制整備の義務化や、保護対象となる通報者の拡大などの施策が盛り込まれた改正公益通報者保護法が2020年に成立しました。
そして、2022年6月から施行されます。
そこで今回のコラムでは、公益通報者保護法の改正ポイントを解説します。
法改正に適切に対応しないとペナルティを科される可能性もありますので、ぜひ最後までお読みください。
改正公益通報者保護法には、内部通報の体制整備の義務化や、保護される通報者の範囲や要件の拡大といった様々なポイントがあります。
主な改正ポイントは次の通りです。
1-1. 内部通報に適切に対応できる体制整備を義務化
体制整備の義務化は、従業員が300人を超える企業が対象(300人以下は努力義務)です。
たとえば、次のような対応が必要となります。
また、内部通報を受け、必要な調査や是正を実施する業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)も指定しなければなりません。
これらの体制整備に対応しない場合、行政機関から指導や勧告を受け、勧告にも従わない場合は企業名の公表といったペナルティを受ける可能性があります。
体制整備の具体的な内容は、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説」に記載されているので、確認するようにしましょう。
1-2. 公益通報対応業務従事者に対する守秘義務を創設
先に説明した公益通報対応業務従事者に対し、正当な理由なく、公益通報者を特定できる情報を漏らしてはならないという守秘義務が定められました。
この守秘義務は過去に公益通報対応業務従事者だった人も対象です。
守秘義務に違反すると、30万円以下の罰金を科せられます。
「正当な理由」は本人の同意がある場合や、調査を行う上で必要な範囲で情報共有を行なう場合などが考えられます。
「公益通報者を特定できる情報」は、氏名や社員番号などが該当します。
1-3. 行政機関や報道機関への通報の保護要件を緩和
行政機関や報道機関などへの公益通報について、通報をしたことを理由に通報者が企業から解雇を言い渡されても、解雇が無効となる保護要件が緩和されました。
行政機関に公益通報した際に通報者が保護されるのは、通報の対象となる事実があると「信じるに足りる相当の理由がある場合」のみでした。
ただ、この要件では保護対象となるかの判断が難しいことから、改正後は、通報の対象となる事実があると考え、「通報者の氏名・住所等所定の事項を記載した書面(電子メールを含む)を提出する場合」も保護されます。
また、報道機関などへの公益通報については、これまで次の場合が保護要件となっていました。
(1)通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある
(2)次のいずれかに該当する
①公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある
②公益通報をすれば、通報対象事実に関する証拠が隠滅・偽造・変造されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある
③生命・身体に対する危害が発生した、または急迫した危険があると信じるに足りる相当の理由がある
④企業から正当な理由なく内部通報しないことを要求された
⑤内部通報したが、通報から20日が経過しても企業が正当な理由なく調査を行わない
改正後は、(2)の要件に「事業者が通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らすと信じるに足りる相当の理由がある」が追加されます。
さらに、(2)の③についても「生命・身体に対する危害」だけでなく、「財産に対する回復困難または重大な損害」も保護の対象となります。
1-4. 保護される通報者の対象などを拡大
これまでは従業員(派遣労働者を含む)のみが保護の対象となっていましたが、改正後は退職から1年以内の退職者や、取締役や執行役員といった役員も保護の対象となりました。
保護の対象となる通報の内容についても、これまでは刑事罰の対象となる犯罪行為の事実だけでしたが、過料(行政罰)の対象となる行為も追加されます。
また、保護の内容も拡大されます。
これまでは、通報を理由とした解雇の無効、減給や降格といった不利益な取り扱いの禁止などに限定されていましたが、改正後は、公益通報を理由とした通報者に対する損害賠償請求も禁止となります。
内部通報に適切に対応できる体制整備について、従業員が300人以下の企業は努力義務であり、対応しなくてもペナルティを科されるわけではありません。
そのため、コストの発生を避ける観点から、体制整備に取り組む必要がないと考えている中小企業の経営者もいるかもしれません。
しかし、内部通報窓口の設置と従事者の指定といった適切な対応を講じることで、不祥事の予防や拡大の防止などに繋がるメリットがあります。
また、最近ではコンプライアンスやコーポレート・ガバナンスが重視されるようになっており、企業の信頼性や価値を高める上でも、内部通報制度の整備は重要な取り組みのひとつです。
特に、IPO(新規上場)を目指している場合は、上場申請の審査過程でコーポレート・ガバナンスの取組みに関する報告が求められるので、体制整備は必須と考えてよいでしょう。
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