高齢化の進展により、認知症患者が増加しています。認知症になると、銀行口座が凍結される、保険の解約や不動産の売買ができないなど、財産の管理や契約などに関する手続きを自身で行えなくなる可能性があります。
この点、認知症などによって判断能力が失われても、財産を安心して管理するための手段のひとつが「成年後見制度」の利用です。成年後見制度により、判断能力が失われた人の代わりに財産の管理や契約などを行う「成年後見人」を選任し、財産や利益を守ることができます。
ただし、成年後見制度には数多くの課題が指摘されており、決して多くの人が制度を利用している状況ではありません。そのため制度を有効活用し、安心して財産を守るには、誰を成年後見人に選任するかについて、慎重に判断することが重要です。
今回のコラムでは、成年後見制度の概要や問題点を弁護士が詳しく解説します。また、成年後見人に弁護士を選任する意義も説明しますので、制度の利用をお考えの方は最後までお読みください。
成年後見制度とは、認知症などが原因で判断能力が不十分になった際の生活や財産を守るため、成年後見人による支援を受けられる制度です。十分な判断能力がなくなっても、後見人が財産の管理や契約の手続きなどを代行してくれるため、財産が守られ、不利益を受けることを回避できます。
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
それぞれの制度について解説します。
認知症などによって判断能力が失われた人の財産管理などを行うため、家庭裁判所が後見人や保佐人などを選任する制度です。すでに判断能力が失われている場合、次に説明する任意後見制度を利用できなくなるので、法定後見制度を利用することになります。
法定後見制度は、判断能力がどの程度、失われているかに応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類に分類されます。
将来的に判断能力が失われることに備え、信頼できる人をあらかじめ任意後見人に指定しておく制度です。
制度を利用するには、判断能力が十分に備わっている段階で、任意後見人に指定したい人と任意後見契約を結び、公正証書を作成します。そのため、判断能力が失われた後では、任意後見制度を利用できません。
判断能力が失われた後は、任意後見人の活動をチェックする「任意後見監督人」の選任を家庭裁判所に申し立てます。任意後見監督人が選任されると、任意後見人による支援がスタートします。
任意後見人に付与される代理権の範囲は、契約の締結時にある程度、自由に決めることができます。たとえば、法定後見制度の後見人などに任せられるのはあくまでも財産の管理ですが、任意後見人には資産運用や相続対策まで任せることが可能です。
一方で任意後見人には、法定後見制度の後見人や保佐人などに認められる取消権や同意権がありません。そのため、判断能力が失われた人が任意後見人の了解を得ずに財産を処分しても、取り消すことができないため注意が必要です。
成年後見制度の利用には、判断能力が失われても財産を守ることができる、必要な契約を締結できるなど、さまざまなメリットがあります。
具体的なメリットを理解するために、まずは成年後見人の役割を理解しておきましょう。成年後見人は、判断能力が失われた人のために、財産の管理や契約の手続きなどに関する次のような業務を行います。
さまざまな業務を成年後見人に任せられるため、次のようなメリットが期待できます。
成年後見制度は、認知症などで判断能力が失われた人の財産を守るための手段として、重要な役割を果たすと考えられます。しかし、現状では決して多くの人に利用されている制度ではありません。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、2022年の認知症患者数は約443万人。高齢化に伴い患者数の増加が見込まれており、2040年には約584万人になると推計されています。
一方、最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」によると、成年後見制度の利用者数は2019年末で約22.4万人、2023年末で約24.9万人です。利用者は増加傾向にあるものの、認知症患者数に比べると非常に少数にとどまっています。
利用が進まない背景として、成年後見制度に対して次のような問題点が指摘されています。
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に申し立てる必要があり、手続きを進めるのに大きな負担がかかる場合があります。
まず、成年後見人による支援を受ける人(被後見人)と後見人の候補者の住民票や戸籍謄本、被後見人の財産や収支に関する資料、医師の診断書など、数多くの書類を集め、申立書とともに提出しなければなりません。
また、被後見人の判断能力を医学的に判断するため、鑑定が行われる場合があります。
鑑定は結果が出るまでに1~2か月ほどかかり、費用として10万円ほど必要です。しかし、被後見人の症状によってはさらに期間が長期化し、費用も高額になる可能性があります。
このように、制度を利用するには数多くの書類を集めるほか、利用開始までに時間がかかり、高額な費用を負担する必要があるのです。
成年後見制度は、あくまでも被後見人の財産を守ることを目的とした制度です。そのため、子どもの支援など、家族の生活を支えるためでも、被後見人の財産を柔軟に使うことができなくなる可能性があります。
もし、被後見人が自身の財産を家族のために使うことを希望していても、本人の意思が反映されない場合もあるでしょう。
また、法定後見制度の場合、被後見人の財産を活用した資産運用や、生前贈与などの相続対策はできません。任意後見制度であれば、資産運用や生前贈与を後見人に任せることも可能ですが、権限の範囲をあらかじめ決めておく必要があります。
判断能力を失った後の財産を任せることになるため、家族や親族を後見人に選任したほうが安心と考える人も多いかもしれません。ただし、後見人としての業務にかかる負担や、後見人以外の家族や親族とのトラブルの発生などに注意が必要です。
成年後見人は預貯金の管理、不動産の管理や処分、医療・介護サービスの締結など、被後見人のために数多くの業務を行うことになります。さらに、後見人としての業務開始時は財産目録や収支予定表の作成、開始後は業務内容の定期的な報告などが求められます。
専門的な知識が求められる業務も少なくないため、後見人にとっては大きな負担となるでしょう。また、後見人にならなかった被後見人の家族や親族などから、財産の使い込みを疑われるなど、トラブルが生じるリスクもゼロではありません。
残念ながら、財産の使い込みなど、後見人による不正は実際に発生しているのも実情です。
最高裁判所が発表した「後見人等による不正事例」によると、不正事例は減少傾向にあるものの、2023年の発生件数は184件。被害総額は約7億円にものぼります。
そのため、誰を後見人に選定するかについて、慎重に判断する必要があるのです。
成年後見制度の利用を開始すると、原則として被後見人が亡くなるまで、制度の利用を終了することができません。
つまり、被後見人の不動産を処分するため、被後見人に代わって後見人が遺産分割協議に参加するためなど、特定の目的のために制度を利用することができないのです。
また、選任された後見人を交代することも簡単ではありません。後見人が交代するのは、自ら辞任を申し出るか、病気などで業務ができない、不正を行なったといった理由で解任されるケースです。
ただし、辞任や解任を認めるかどうかは家庭裁判所が判断するため、必ずしも認められるとは限りません。制度の申し立てや後見人の業務にかかる負担などを考え、制度を利用するかどうかについては、十分な検討が求められます。
成年後見制度に対して多くの問題点が指摘されている現状を受け、政府は制度改正に向けた議論を進めています。
特に、途中で制度の利用を終了できない点などを中心に話し合いが行われていますが、最終的にどのような改正が行われるかは不透明です。また、政府は2026年度までの法改正を目指しており、実際に新たな制度が始まるまでには時間がかかると考えられます。
そのため、判断能力の衰えを感じている、医師から認知症と診断されたなど、すぐにでも制度の利用を検討したい場合は、弁護士を成年後見人に指定することを視野に入れてもよいでしょう。
たとえば、次のようなケースでは、弁護士を選任することを特におすすめします。
後見人には、被後見人の財産の管理などを安心して任せられる人を選任するべきです。
しかし、特定の親族が後見人になることで、被後見人の財産を巡り、ほかの親族が疑心暗鬼になるかもしれません。不適切な人を後見人に選任した場合は、財産の使い込みが発生するリスクもあるでしょう。
そもそも、後見人の業務は非常に煩雑なので、きちんと対応できる人や、後見人になりたがる人が見つからない可能性も十分に考えられます。
このように、後見人の選任には多くのハードルがあるため、中立な第三者であり、後見人の業務に適切に対応できる弁護士を選任することには、多くのメリットがあるのです。
成年後見制度を利用するには、数多くの書類を集めるなどして家庭裁判所に申し立てる必要があります。この点、制度を熟知した弁護士であれば、スムーズに手続きを進められます。
また、被後見人の財産を巡って家族や親族間で争いがあっても、中立な第三者である弁護士であれば、被後見人の財産や利益を守るため、適切に業務を進めてくれます。
被後見人は判断能力が低下しているため、不当に高額な契約を締結したり、不必要に大量の物品を購入したりするかもしれません。さらには、詐欺業者に狙われるリスクも高くなってしまうでしょう。
法律の専門家ではない人が後見人を務めた場合、業者に連絡して契約を取り消すなど、適切な対応ができないリスクがあります。弁護士であれば、契約に関するトラブルや被害にも、適切に対応することが可能です。
被後見人の家族や親族が遠方に暮らしていると、後見人に就任しても十分な支援を行えない可能性が高いです。
被後見人の近隣で活動する弁護士に依頼すれば、安心して被後見人の支援を任せられるでしょう。
被後見人が亡くなった後は、残された財産を家族で分け合う相続手続きが始まります。この点、弁護士を後見人に選任していれば、そのまま相続手続きのサポートを依頼することが可能です。
後見人は被後見人が残した財産の詳細を把握していますし、弁護士は相続手続きにも精通しているため、スムーズに手続きを進められます。相続手続きについて相談・依頼する弁護士を新たに探す手間が省けるので、弁護士を後見人に選任するメリットは大きいでしょう。
成年後見制度の利用を検討する際は、ぜひ弁護士法人プロテクトスタンスにご相談ください。これまで、成年後見制度に関して数多くのご相談、ご依頼をお受けしており、申し立ての手続きや後見人の業務遂行などに自信があります。
また、法定後見制度の利用を申し立てる際はもちろん、判断能力の低下に不安があるため、任意後見制度の利用を検討中の方もぜひご相談ください。弊事務所の弁護士は相続手続きにも精通しており、将来的な相続の発生も見据えた手厚いサポートが可能です。
さらに、税理士や司法書士がグループ法人に在籍しているため、効果的な相続対策や、不動産を処分する際の登記手続きなど、さまざまなお悩みやご希望をワンストップでお任せいただけます。
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