
「遠方の不動産を親から相続し、使う予定がないまま毎年の固定資産税だけ支払っている」というお悩みを抱えている方がいらっしゃるかもしれません。
2023年4月に始まった「相続土地国庫帰属制度」は、相続した不要な土地を国に引き取ってもらえる制度として、さまざまなメディアで紹介されてきました。制度開始から5,500件以上の申請があり、これまでに2,700件以上の土地について国庫帰属が承認されています。
しかし、承認を受けられなかったケースも一定数あるため、「思っていたより使いにくい制度だ」と感じる方もいるかもしれません。この制度は、正しく使えば有効な手段ですが、すべての土地が引き取ってもらえるわけではない点を理解することが重要です。
今回のコラムでは、相続土地国庫帰属制度の概要や、申請が却下・不承認となるポイント、引き取りが認められない場合の対応などを、相続問題に詳しい弁護士が解説します。不動産を相続する予定がある方や、相続した不動産の処分にお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。
2023年4月に相続土地国庫帰属制度がスタートしてから3年以上が経過し、利用実績に関するデータも蓄積されてきました。
法務省の統計によると、申請件数の累計は2026年5月末時点で5,545件。このうち国庫帰属が認められた件数は2,763件で、申請件数全体に対する承認件数の割合は約49.8%となります。
申請数に対し、半数近くに国庫帰属が認められているため、利用しやすい制度のように感じるかもしれません。しかし、申請後の却下件数は81件、不承認件数は85件で、却下や不承認が見込まれることなどを理由に申請を取り下げた件数も355件と、承認を得るハードルは決して低くない点に注意が必要です。
却下・不承認となった際も、原因を改善して再申請することで承認される可能性があります。しかし、改善が難しい状況であり、承認される見込みが低い場合は、売却や譲渡など別の処分方法も視野に入れなければなりません。
不要な不動産の処分をスムーズに進めるためにも、相続土地国庫帰属制度について正しく理解することが重要です。
「相続土地国庫帰属制度」について、名前を聞いたことがあっても制度の詳細までは知らない方や、そもそも名前を初めて知ったという方もいるでしょう。
制度が創設された背景や、基本的な仕組みについて解説します。
日本では、不動産登記簿などから土地の所有者を把握できない、または、所有者は把握できても所在不明で連絡が取れない「所有者不明土地」が社会問題となっています。
政府によれば、全国の土地のうち、不動産登記簿のみでは所有者の所在が判明しない所有者不明土地の割合は約23%。その面積の合計は九州より広いといわれています(参照:政府広報オンライン)。
所有者不明土地のリスクとして、周辺環境や治安の悪化、防災対策工事や再開発の阻害などが挙げられます。
特に、使う予定がないまま相続した土地は、管理にかかる手間や費用の負担感から放置される懸念があるため、将来的な所有者不明土地の発生を回避する方策として相続土地国庫帰属制度が創設されました。
相続土地国庫帰属制度は、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した人が、国に対して土地の引き取り(国庫帰属)を求めることができる制度です。
制度が始まった2023年4月以前に相続した土地も制度の対象となるため、たとえ相続したのが数十年前でも引き取りを求めることができます。
ただし、あくまでも相続や遺贈によって取得した土地が対象なので、売買など相続以外によって自ら取得した土地は対象外です。また、法人も制度を利用することができません。
引き取りを求める際は、以下のような流れで手続きが進みます。
土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の窓口、
または郵送により承認申請書などを提出する
↓
法務局が必要に応じて現地調査などを行ったうえで、承認するかどうかを判断する
↓
承認を受けた後、一定の負担金を国に納付した時点で土地の所有権が国庫に帰属する
なお、共有している土地でも制度の利用が可能です。また、売買など相続以外で持ち分を取得した場合でも、共有者の中に相続によって取得した人がいれば制度を利用できます。
ただし、共有者全員が共同で申請しなければならない点に注意が必要です。
「相続放棄」を利用すれば、相続土地国庫帰属制度を利用しなくても不要な土地を手放すことができると考える人がいるかもしれません。
確かに、財産を相続する権利を手放す相続放棄の利用により、不要な土地を相続する必要がなくなります。
しかし、亡くなった方が不動産以外に預貯金や株式など、多くの財産を残していても、すべての財産を相続できなくなる点に注意しなければなりません。つまり、「土地はいらないけど、預貯金は相続したい」など、特定の財産のみを相続放棄することはできないのです。
一方、相続土地国庫帰属制度は、すでに相続した土地を国に引き渡すことができる制度なので、相続放棄とは異なり、ほかの財産を相続したうえで、不要な土地だけを手放すことができます。
また、相続放棄の手続きには「相続開始を知った時から3か月以内」という期限がありますが、相続土地国庫帰属制度では数十年前に相続したような土地も対象となります。
相続財産に不要な土地が含まれている場合、相続土地国庫帰属制度は相続放棄よりも使い勝手が良いと感じるかもしれません。しかし、相続土地国庫帰属制度はあくまでも、所有者不明土地問題の防止が目的であり、相続した土地ならすべて引き取ってもらえる制度ではない点に注意が必要です。
引き取りが認められる土地には厳格な条件が定められており、条件を満たしていなければ申請が「却下」されてしまいます。また、却下される事由がなくても、土地の状況によっては「不承認」と判断され、やはり引き取りが認められません。
制度の利用には承認申請書のほか、複数の添付書類の提出が求められ、土地一筆あたり1万4,000円の審査手数料も納付する必要があります。手続きにかかる手間と費用を無駄にしないためにも、却下・不承認となる事由を把握しておきましょう。
一定の事由に該当する場合、申請してもすぐに「却下」されてしまいます。具体的には、次のような土地が却下の対象となります。

却下の事由に該当するケースは門前払いにも近い状況であり、却下されても手数料は返還されないため注意しましょう。権利関係や土壌汚染など、目に見えない問題を抱えている可能性もあるため、丁寧な確認が必要です。
却下事由に該当しない土地でも、申請後に実施される現地調査の結果などによって不承認となるケースもあります。
ポイントは、やはり土地の管理・処分に過分な費用や労力がかかると判断されるかどうかです。たとえば、次のような土地は不承認となる可能性があります。

却下に該当する事由がなくても、思わぬ原因で不承認となる可能性があります。却下されるかどうかだけでなく、不承認となる事由に該当しないかも確認しましょう。
建物や障害物の有無のように、外から見て分かりやすい問題であれば、申請が承認されるかどうかの判断が容易かもしれません。
一方、権利や利用に関する問題は、一見すると何の問題もない土地だと勘違いしてしまう可能性があるため注意が必要です。また、長年にわたって問題を抱えている場合、解決に時間を要するかもしれません。
権利や利用に関する問題として、次のようなケースが考えられます。
権利や利用実態の確認、権利者や利用者との話し合いなどは、法律の知識がないと適切に対応することは非常に困難です。相続問題に詳しい弁護士に相談し、対応を任せることをおすすめします。
共有している土地の国庫帰属を求める場合は、申請前の確認が大切です。
共有している土地も制度の対象ですが、共有者全員が共同で申請しなければなりません。もし、相続登記(土地の名義変更)が放置されたままの場合、共有者が大人数になっていたり、一度も会ったことがない共有者が含まれたりする可能性があります。
登記や共有者の有無、人数など状況も丁寧に確認しましょう。
申請時には1筆あたり1万4,000円の審査手数料が必要となり、却下や不承認となった場合でも返還されません。
また、却下や不承認となる事由に該当しない土地でも、相続土地国庫帰属制度の利用には一定の費用がかかることを理解しておきましょう。そのため、「国に引き取ってもらえる見込みがあるか」だけでなく、「制度を利用する金銭的メリットがあるか」という視点も重要です。
建物が残っている土地は申請しても却下されるため、制度を利用するには事前に解体しなければなりません。また、地中に埋設物があると不承認の事由に該当するので、撤去が必要となることも考えられるでしょう。
建物の解体や埋設物の撤去の作業には、相当な費用がかかる可能性があります。特に空き家が残っている場合は数十万円から、構造や広さによっては数百万円の解体費用が必要です。
あらかじめ見積りを取るなどしたうえで、費用をかけてでも相続した土地を国に引き取ってもらうべきか慎重に検討することが大切です。
相続土地国庫帰属制度は、国が無償で土地を引き取る制度ではありません。
承認を受けた場合には、土地の種類や面積に応じて定められた負担金を納付する必要があります。具体的には、宅地や農地、原野や雑種地などは1筆あたり20万円です。
ただし、市街化区域など一定の区域にある宅地や農地のほか、森林は面積に応じて算定されるため、広い土地では20万円を大きく超えることがあります。相続した土地がどの区分に該当するか確認しておきましょう。
なお、負担金の納付には、負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内という期限があり、納付を怠ると承認が失効してしまいます。
相続した土地の処分方法は相続土地国庫帰属制度だけではありません。売却や譲渡などの方法が利用できる可能性もあるため、費用をかけて国庫帰属を目指すべきかどうかも含めて、事前に検討しておくことが大切です。
相続土地国庫帰属制度が使えない場合や、制度の対象となったものの費用対効果に見合わない場合でも、「土地を放置する」という結論にはなりません。
むしろ、放置はリスクの高い選択です。管理が行き届かない土地は、建物の倒壊、不法侵入や不法投棄による治安の悪化などにつながり、トラブルが生じれば近隣住民から損害賠償を請求される可能性もあるでしょう。
不要な土地であっても所有者である以上は管理責任が伴うことを理解したうえで、現実的な選択肢を把握することが重要です。
一つは、「訳あり物件」や「負動産(マイナスの価値しか生まない不動産)」を専門に取り扱う不動産業者への売却です。地元の一般的な不動産業者に断られた土地でも、対応してもらえる場合があります。
専門業者に依頼しても、売却金額がゼロ円になる場合や、逆に処分費用の支払いを求められる場合もあるかもしれません。しかし、土地を放置するリスクや、費用をかけて国庫帰属を目指す負担と比べると、メリットが大きい可能性も十分に考えられます。
隣地の所有者への打診も有効な選択肢です。あなたにとっては不要な土地でも、隣地に住む人にとっては「庭を広げられる」「駐車場にできる」という価値があるかもしれません。
利用価値がある土地であれば、贈与(無償譲渡)に応じてもらえるかもしれないので、打診してみる価値はあるでしょう。
もし、遺産分割協議がまだ完了していなければ、「不要な土地を引き受ける代わりにほかの財産を多く取得する」などの方法で、親族間での調整を図る手段もあり得ます。

相続土地国庫帰属制度は、相続した不要な土地を手放すために有効な制度ですが、申請すれば必ず認められるわけではありません。却下・不承認となる事由の有無、土地の整備費用や負担金などの支払い、共有者や近隣との関係などを踏まえて幅広く検討する必要があります。
また、相続登記が行われておらず共有者が多い、登記簿上に古い権利が残っているなど、外から見ただけでは分かりにくい問題が潜んでいるケースも少なくありません。問題の有無を詳細に確認し、土地の処分を進めるためにも、早い段階から相続問題に詳しい弁護士に相談することが重要です。
弁護士に相談することで、登記簿の内容や、現地の利用状況、これまでの経緯といった複数の観点から、申請が却下・不承認となるリスクを事前に洗い出すことができます。
「この土地は境界の問題があり、まずは隣地所有者との確認が必要」「古い抵当権が残っており、抹消登記を先に進めるべき」といった具体的な見通しを得られることで、承認されないリスクを減らすことができます。
申請後に「思っていたより条件が厳しかった」と後悔しないためにも、事前の見極めに時間をかけることが、結果として手間やコストの削減につながります。
この制度を利用するうえで最も大きな障壁になりやすいのが、「人との話し合い」です。
共有名義の土地では共有者全員で共同申請が必要です。相続登記の放置によって名義人が増えている土地では、全員の合意形成が大きな壁となるでしょう。
もし、境界や利用関係が不明確であれば、近隣住民との対話が欠かせませんが、話し合うべき相手を特定し、スムーズに交渉を行うには、法的な知識が求められます。
この点、弁護士であれば、あなたの代理人として相手方との直接交渉・調整が可能です。感情的な対立が起きやすい場面でも、法的な整理をしながら落ち着いて対応を任せられます。
相続土地国庫帰属制度の申請だけにこだわらず、売却や譲渡、共有関係の整理、遺産分割の見直しなど、ほかの選択肢も含めて並行して検討できる点も、弁護士に相談するメリットです。
土地の状況や制度の利用にかかる費用と手間などを総合的に検討した結果、別の方法を選んだほうが負担を抑えられるケースは少なくありません。特定の制度に縛られず、あなたにとって最も現実的な出口を幅広く提案することができます。
土地の問題は、時間の経過とともに関係者が増え、解決がより困難になる傾向があります。2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく義務に違反した場合には過料の対象となる可能性もあるため、放置という選択は将来的なトラブルや手続きの手間を増やすだけです。
相続した土地の処分や管理でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人プロテクトスタンスへご相談ください。相続問題に詳しい弁護士が、最適な解決策を検討いたします。