罪を犯した未成年に対する少年法の改正案が5月21日、参議院の本会議で可決し、成立しました。
具体的には、18、19歳の者が特定の犯罪を行った場合、「特定少年」として位置付けられ、成人と同様の刑事手続きを経る検察官送致の対象となる犯罪が拡大されました。
改正法の施行日は2022年の4月を予定しています。
そこで今回のコラムでは、改正された少年法の中身と改正の経緯や、改正に対する批判などについて弁護士が解説します。
少年法は、未成年、つまり20歳未満の少年・少女が刑事事件を起こした際の処遇について規定しています。
そして、少年法の基本的な考え方としては、成人と同様の刑事手続きを行うのではなく、家庭裁判所が、本人の更生と少年院送致を行うなどの処置を講ずることを目的としています。
少年法
第一条 この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
まず、20歳未満の少年・少女が刑事事件を起こした場合、事件は家庭裁判所へ送られます。
そして、家庭裁判所の調査官が、事件を起こした少年・少女の家庭環境や非行に至った経緯を調べ、少年院への送致や、児童相談所・児童養護施設への送致、保護観察処分などの方針を決定します(いわゆる家裁送致)。
また、14歳未満の者が刑事事件を起こしても刑事責任は問われないと規定されています。
この点、家裁送致の対象となるのは、20歳未満の少年・少女が刑事事件を起こしたときという原則は変わりません。
しかし、検察官に送致する、つまり成人と同様に刑事事件として罰せられる対象が異なります。
これまでは、16歳以上で、かつ、故意に被害者を死亡させた場合のみ検察官への送致の対象となっていました。
しかし、今回の改正では、18、19歳を「特定少年」として位置付け、特定少年が、1年以上の懲役または禁錮に該当する事件(強制性交罪や強盗罪、放火罪など)を起した場合にも、検察官への送致対象とし、その対象犯罪を広げることとしました。
また、犯罪を行った者に対する報道規制についても、変更となりました。
これまでは、本人の社会復帰を妨げるとして、本人が特定される形での本名や写真などの掲載は禁止とされてきました。
ところが、今回の改正では、特定少年が起訴(略式起訴を除く)された段階で、本名や顔写真などの公開・報道が解禁されるようになりました。
改正点 | 現行法 | 改正法 |
---|---|---|
対象年齢 | 20歳未満 | 20歳未満 ※18、19歳を特定少年と位置づけ、検察官送致への対象とする |
検察官送致の対象事件 | 16歳以上で故意により人を死亡させた加害者 | 特定少年が1年以上の懲役あるいは禁固に該当する行為をした加害者 |
家庭裁判所送致の対象 | 20歳未満の少年・少女が起こした事件全件 | 変更なし |
加害者の氏名等の公開 | 加害者が特定される情報は非公開 | 特定少年が起訴(略式起訴を除く)された段階で公開 |
少年・少女が起こす犯罪の低年齢化および凶悪化が社会問題ともなり、少年法の対象年齢を20歳未満から引き下げるべきという議論は、昔から繰り返し行われてきました。
そして、政府与党はプロジェクトチームを組織し、法務省も勉強会も立ち上げるなど、議論を繰り返し行ってきました。
その結果、少年法の対象年齢を一律に引きさげるのではなく、一定の年齢に達し、かつ重大な罪を犯した者を改正の対象とする案にまとまりました。
つまり、成人としての責任を重視する一方で、教育更生も大切にするというバランスを取った内容となっています。
また、今回の改正は、民法上の成人年齢や選挙権の年齢が、20歳から18歳に引き下げられたことも追い風となりました。
つまり、法律によって異なる「成人」の年齢を、できるだけ統一して整合性を保つべきという意見を尊重する形となりました。
今回の改正の特徴は、特定少年についても、いったん家裁へ送致され、家庭裁判所による調査が行われることです。
これは、まだ未成熟な少年・少女が犯罪を行った場合、その家庭環境や、犯罪行為に至った経緯を調べることにより、「更生につながる可能性が高い(可塑性がある)」と指摘されているからです。
実際、大人が犯罪を行って刑務所に入った場合の再犯率は50%以上であるのに対し、少年・少女の再犯率は約30%にとどまるとされています。
このことから、起訴された段階で氏名などの報道が認められるようになった改正部分については、「一度世の中に出た情報は、なかなか消せない」「非行を犯した少年・少女が罪を改め、職に就こうとしても、名前をインターネット上で検索することで、過去の犯罪歴がすぐにわかってしまい、更生のチャンスを奪いかねない」との批判があります。
しかし、厳罰化を求める側からは、実名報道がされた方が、非行少年・少女が、実名が公表されてしまうのを恐れ、犯罪行為を思いとどまらせる効果があるという、犯罪抑止力を期待する声もあります。
特に犯罪の被害に遭った遺族からは「加害者の更生のチャンスというが、生きていくチャンスを奪われた家族は二度と戻ってこない」「亡くなった家族の氏名は公開され、色々と風評被害に遭うのに、加害者の氏名は公開されず、保護されるのはおかしい」との批判が根強く残っています。
今回の改正では、被害者側の意見が反映され、特定少年が大人と同様の刑事罰を受けるように改正されたことから、厳罰化されたという見方が強いとされています。
しかし、仮に大人と同様の刑事裁判を受けたとしても、罰金や執行猶予しか科せられなかった場合、従前の少年法の運営通りに、少年院への送致や保護観察処分とした方が、「加害者の更生」および「犯罪の再犯防止」の双方に役立つという指摘もされています。
今回の改正によって、少年犯罪が増加するのか減少するのか、また、どのような少年犯罪が増減し、その社会的背景には何があるのか、など今後の世の中の推移を見守っていく必要がありそうです。
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取扱業務(少年事件)