2024年10月から「代表取締役等住所非表示措置」という制度がスタートします。この制度により、株式会社の登記事項証明書などに表示されている代表取締役などの住所を、一部非表示にすることが可能となります。
起業を検討しているものの、プライバシーが守られないため躊躇している方などにとって、この制度は大きなメリットになるでしょう。ただし、金融機関から融資を受ける際に不利になるなど、住所を非表示にすることにはデメリットもあるため注意が必要です。
このコラムでは、代表取締役の住所を非表示にするメリットやデメリット、非表示にする手続きなどについて、企業法務に詳しい弁護士が解説します。会社の代表取締役を務めている方や、起業をお考えの方などはぜひ最後までお読みください。
株式会社の設立時は、さまざまな事項を登記する必要がありますが、代表取締役の氏名や住所も登記事項となっています(会社法第911条3項14号)。また、引っ越しなどで代表取締役の住所が変更した際も、2週間以内に変更内容を登記する必要があります(同法第915条1項)。
代表取締役の住所まで登記するのは、会社に対して裁判を起こす際に訴状の送付先となるなど、さまざまな場面で住所が使用されるケースがあるからです。一方、手数料を払えば取得できる登記事項証明書などに住所が表示されるため、プライバシー保護の観点から住所表示の妥当性が議論されてきました。
そして、会社の登記事項や手続きなどについて定めた商業登記規則の改正により、「代表取締役等住所非表示措置」の制度が創設。2024年10月から、住所の一部を非表示にするよう、登記申請のタイミングで申し出ることができるようになりました。
代表取締役等住所非表示措置により住所が非表示になる対象者は、株式会社の代表取締役と代表執行役、代表清算人です。住所非表示措置を利用することで、代表取締役などの住所は次のように市区町村までしか表示されなくなります。
●住所表示のイメージ
【措置前】
東京都千代田区有楽町0丁目0番0号
代表取締役 ○○ ○○
↓
【措置後】
東京都千代田区
代表取締役 ○○ ○○
代表取締役等住所非表示措置を利用する最大のメリットは、代表取締役などのプライバシーを保護できる点です。住所の一部が非表示となるので、自宅を特定されるリスクが抑えられ、安心して会社経営を行うことができます。
また、起業したくても住所を知られることに抵抗感がある人にとっては、起業するハードルが下がると考えられます。たとえば、芸能人やスポーツ選手、インフルエンサーといった有名人、子どもがいる方や女性などが起業するうえで、後押しとなる制度といえるでしょう。
ただし、住所非表示措置にはデメリットも少なくありません。住所を表示することは会社に対する信頼性と関係するため、非表示にすると次のような不利益が生じる可能性があります。
金融機関は、融資に関する審査を行う際、代表取締役の資産状況や信頼性を重視します。そして、代表取締役の住所は資産状況や信頼性を審査するうえで、重要な項目のひとつになるのです。
そのため、登記事項証明書などで住所が非表示だと、審査が困難であるとして融資を拒否されたり、手続きに時間がかかったりする可能性があります。
不動産の取り引きや、法務上の手続きなどを進める際、代表取締役の住所を証明するため、登記事項証明書の提出が必要となるケースが少なくありません。住所が表示されていないと、追加の証明書が必要になるなど、取り引きや手続きの手間が煩雑化し、時間とコストがかかる可能性があります。
商談相手や取引先にとっても、代表取締役の住所は会社としての信頼性を評価するための重要な情報のひとつです。そのため、代表取締役の住所を表示していない会社とは信頼関係の構築が難しいなどと判断され、商談や契約を進められないかもしれません。
また、社員の不祥事など、会社に何らかのトラブルが発生した際、代表取締役の住所は責任者の所在を明らかにするための情報となります。住所が表示されていないことで、責任追及や問題解決が妨げられるとして、社会的な信用の低下に繋がるリスクもあるでしょう。
ただし、これから住所非表示措置が多く利用されるようになれば、「住所の非表示=信頼性が低い」というイメージには繋がらないことも考えられます。
住所を非表示にするには、株式会社の設立などを登記申請する際に、非表示を希望する旨を法務局の登記官に申し出なければなりません。
申し出にあたっては、書類の提出が必要となりますが、上場会社か上場会社以外の株式会社かによって、提出書類が異なります。提出書類を次に紹介しますが、具体的にどのような書類を提出すればよいかは、申し出を行う際に確認するようにしましょう。
株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面の提出が必要です。
次の3点の書類を提出する必要があります。
なお、3点目の書類については、一定期間内に実質的支配者リストの保管を申し出ていれば提出が不要です。
代表取締役等住所非表示措置を利用したい場合、次のような点に注意しましょう。
住所非表示措置の対象となるのは、株式会社に限られます。合同会社など、株式会社以外の法人形態は対象外です。
住所非表示措置は、いつでも申し出ができるわけではありません。次のような登記申請のタイミングにあわせて申し出ることになります。
住所非表示措置はあくまでも、登記事項証明書や登記情報提供サービスなどで表示される住所の一部が非表示となるものです。非表示を申し出たとしても、代表取締役などの住所が登記事項であることは変わりません。
そのため、住所が非表示となった後に引っ越しなどで住所が変更されれば、変更内容を登記する必要があります。もし、2週間以内に変更内容を登記しなければ、100万円以下の過料を科される可能性があるため注意しましょう(同法第976条1号)。
住所非表示措置は、登記申請のタイミングで非表示を申し出た住所を対象としているため、過去に登記された住所は対象外です。閉鎖事項証明書などに表示される過去に登記された住所は、非表示とならないので注意しましょう。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた後、次のようなケースで登記官の判断により住所非表示措置が終了する場合があります。
なお、住所非表示措置を希望しない旨の申し出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。
代表取締役等住所非表示措置には、代表取締役などのプライバシーを守ることができる大きなメリットがあります。一方、経営リスクに繋がる複数のデメリットもあることから、住所非表示措置の申し出には慎重な判断が必要です。
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