「高額報酬」などの甘い言葉で応募者を巧みに誘い、犯罪行為に手を染めさせる「闇バイト」。若者を中心に逮捕される人が後を絶たず、連日のようにニュースをにぎわせています。
SNSやインターネット掲示板などから軽い気持ちで応募しても、逮捕されれば厳しい刑罰を受ける可能性があるため、絶対に関与してはいけません。もし、一度でも闇バイトの募集に応じると、首謀者から脅されて抜け出せず、最後は捨て駒として扱われてしまうでしょう。
そのため、闇バイトに引き込まれてしまわないよう、勧誘の手口などを理解しておくことが重要です。このコラムでは、闇バイトに関与するリスクや見破るポイントなどを、刑事事件に詳しい弁護士が解説します。
闇バイトとは、あたかも簡単に高額な報酬が得られると見せかけて、実は犯罪行為に加担させるアルバイトのことです。
以前は、SNSなどで闇バイトの応募者を探したり、一目で怪しいと分かるような内容で募集したりするケースが少なくありませんでした。しかし、募集の手口が徐々に巧妙化するようになり、闇バイトかどうか見分けるのが難しくなっています。
闇バイトかどうかは、求人情報の内容や募集の方法などから、通常のアルバイトではないことを簡単に見破れると考えるかもしれません。ところが、注意しなければ「応募してみたら実は闇バイトだった」という事態も起こり得るのです。
そのため、闇バイトの応募者を集める手口を把握しておきましょう。
闇バイトの最も大きな特徴は高額な報酬です。人手不足に伴い時給を高額にしている店舗や企業も増えていますが、闇バイトは一般的な時給相場を大幅に上回る報酬を提示します。
もし、短時間の簡単な業務で、10万円を超えるような異常に高額な報酬が提示されている場合、闇バイトを疑ったほうがよいでしょう。
闇バイトを募集する際は、怪しまれたり通報されたりすることを避けるため、犯罪を連想させる内容を求人情報に記載するわけではありません。むしろ、「誰でもできる簡単な作業」「リスクなしで安全に稼げる」など、いわゆる「ホワイト案件」を装って募集しています。
また、業務内容の説明が不明確な場合も注意が必要です。たとえば「荷物を受け取る、運ぶ」「電話をかける」「現地調査」など、曖昧な業務内容だけが記載されているようなケースです。
これらの業務は、振り込め詐欺(特殊詐欺)や違法な薬物の受け渡し、強盗の下見など、さまざまな犯罪に加担することになってしまうでしょう。
闇バイトはこれまで、SNSやインターネット掲示板などを使って募集することが一般的でした。しかし最近では、大手の求人サイトに求人情報を掲載するなど、まるで通常のアルバイトのように闇バイトの応募者を集めているケースもあります。
有名なサイトでも安心せず、求人情報などをよく読んで、不審な点がないか確認することが重要です。
闇バイトの主な特徴は、高額な報酬や曖昧な業務内容などですが、ほかにも見破るためのポイントがあります。たとえば、求人情報などに次のような点があれば、疑ってもよいでしょう。
通常のアルバイトであれば、勤務先となる店舗や会社の住所、電話番号などが求人情報に記載されています。一方、闇バイトは首謀者の身元が特定されないよう、住所や電話番号が隠されていたり、虚偽の情報が掲載されていたりすることがあります。
応募後のやり取りに、電話やメールといった一般的な連絡手段ではなく、特定のSNSやアプリの使用を求められた場合も注意しましょう。特に「テレグラム」など、秘匿性の高いメッセージアプリを指定された場合は、闇バイトである可能性が高いと考えられます。
通常のアルバイトでも、履歴書や本人確認書類(身分証明書)の提出を求められることが一般的です。ところが闇バイトでは、必要以上にさまざまな個人情報の提出を指示されることがあります。
たとえば、家族や友人、恋人といった周囲の人、職場、学校に関する情報や写真などです。また、自宅近辺を撮影した写真や動画を求められる場合もあります。
これらの情報は、闇バイトのグループから抜け出そうしたり、首謀者を裏切ったりできないよう、応募者を脅すための材料として集められます。
もし、闇バイトへ応募してしまうと、数多くのリスクが伴います。特に最も大きなリスクは逮捕、起訴されて有罪判決を受けることでしょう。
逮捕されると、テレビや新聞、ウェブニュースなどで実名報道されるかもしれません。犯罪者として全国に名前が知れ渡ってしまえば、社会的に大きな不利益を受けてしまいます。
また、強盗などの重大な事件で起訴された場合、初犯であっても重い刑罰を科せられる可能性が高いです。社会復帰後も前科が付いてしまうため、就職活動で不利になるなど数多くの社会的な不利益がつきまといます。
さらに、被害者から高額な損害賠償を請求されることも考えられるでしょう。
もし、「応募してしまっても犯罪に加担する前に逃げればよい」と考えているのであれば注意が必要です。闇バイトに関与するリスクは決して甘くはありません。
すでにご説明した通り、闇バイトへ応募する際は必要以上にさまざまな情報の提出を求められ、その情報は応募者を脅すための材料として使われます。
もし、犯罪行為の実行役になることを知り、断ったり逃げ出そうとしたりしても、自宅や職場、学校まで押しかけられて脅されるかもしれません。家族や友人、恋人、同僚など、周囲の人に被害が及ぶことも十分に考えられます。
結局は闇バイトを断ることができず、逮捕されるまで抜け出せなくなってしまうのです。
10万円を超えるような高額な報酬が支払われると説明されていても、必ず受け取れるとは限りません。むしろ、闇バイトを募集するのは凶悪な犯罪グループであり、応募者は騙されていると考えた方がよいでしょう。
危険を冒して犯罪行為に及んでも、説明された金額よりも大幅に少ない報酬しか受け取れないどころか、まったく支払われない可能性もあります。
闇バイトによって逮捕されるのは、犯罪行為の実行役となった応募者だけというケースも少なくありません。
闇バイトの首謀者は、所在地や連絡先を隠して応募者を集め、やり取りには秘匿性の高いアプリを使います。そのため捜査の手が首謀者まで及ばない可能性があり、逮捕された応募者は使い捨てにされてしまうのです。
報酬を受け取れないどころか、いつまでも闇バイトから抜け出せず、最終的には自分だけが逮捕されて重い刑罰を受ける。このように、闇バイトにはリスクしかないため、絶対に手を出してはいけません。
それでは闇バイトへ応募すると、どのような犯罪に加担することになるのでしょうか。闇バイトによる犯罪行為の一例や、有罪となった場合に科せられる刑罰をご紹介します。
「強盗で捕まった犯行グループが闇バイトで集められていた」というニュースをご覧になった方も多いかもしれません。
ターゲットの自宅の下見や犯行時の見張りだけでなく、実際に被害者から金品を奪い取るなど、さまざまな役割で関与することになります。強盗の刑罰は重く、「5年以上の有期懲役」(刑法第236条)です。
もし、強盗によって被害者を負傷させたり死亡させたりした場合は、さらに厳しい刑罰が科せられます。負傷させた場合の刑罰は「無期または6年以上の懲役」で、死亡させた場合は「死刑または無期懲役」です(同法第240条)。
「特殊詐欺」とは、被害者に電話するなどして親族や行政機関、警察などになりすまし、指定した口座に現金を振り込ませたり、キャッシュカードを騙し取ったりする詐欺のことです。
特殊詐欺の実行役には、次のような役割分担があります。
被害者を騙して現金を振り込ませたり、キャッシュカードを受け取ったりする行為は詐欺罪に該当し、有罪となった場合の刑罰は「10年以下の懲役」です(同法第246条1項)。
闇バイトの応募者は、具体的な中身を知らされずに、受け子役を指示されるケースも少なくありません。しかし、詐欺に加担している認識(故意)があったと判断されれば、起訴されて有罪判決を受ける可能性は十分にあります。
「運び屋」とは、大麻や覚せい剤といった違法薬物や、違法な方法で集められた現金などを、指定された場所や人物まで運ぶことです。
たとえば、覚せい剤を運んでいる最中に逮捕され、覚せい剤の所持により有罪となった場合の刑罰は「10年以下の懲役」です(覚醒剤取締法41条の2第1項)。もし、海外まで運ぶように命じられて現地で捕まると、日本の法律よりも重い刑罰を科せられる可能性があります。
また、特殊詐欺の受け子と同様、何を運んでいるか知らなかったとしても、違法行為に加担している認識があったと判断されれば、有罪判決を受けることもあり得ます。
闇バイトで「名義貸し」を募集しているケースも少なくありません。
名義貸しとは、携帯電話の契約や銀行口座の開設などの目的で、他人に自分の名義を貸すことです。そして、名義貸しによる携帯電話や銀行口座は、詐欺などの犯罪行為に利用されます。
名義貸しは、携帯電話会社や銀行に対する詐欺罪に該当する可能性があります。また、自分の名義で契約した携帯電話や、開設した銀行口座を他人に売る行為は、犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法に違反します。
自分名義の銀行口座を売った場合の刑罰は「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」、または懲役と罰金の両方(併科)です(犯罪収益移転防止法第28条第2項)。
自分名義の携帯電話を売った場合は「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」、またはその両方です(携帯電話不正利用防止法第20条1項)。
もし、闇バイトに応募して事件を起こしてしまった場合は、できるだけ早く弁護士へ相談することが重要です。弁護士であれば、処分を回避したり、刑罰を減軽したりするために、さまざまな支援をしてくれます。
たとえば、事件直後で逮捕前の段階であれば、犯人として自ら名乗り出る「自首」や「出頭」を弁護士がサポートします。自首と出頭の違いは名乗り出るタイミングで、犯人として特定される前であれば自首、特定された後であれば出頭となります。
自首すると、刑罰の減軽が認められる可能性があります。出頭は、自首のように減軽が認められるとは限らないものの、自ら名乗り出たことが有利な事情として扱われるかもしれません。
交番や警察署などを訪れ、犯人として名乗り出るのは勇気がいるかもしれませんが、弁護士に相談して同行を依頼することができます。また、名乗り出た後に不当な取り調べや身柄拘束を受け、手続きが不利に進むことがないよう、必要なアドバイスをしてくれます。
被害者との示談交渉も、弁護士の重要な役割です。
被害者に対して損害賠償することで、被害届が取り下げられて不起訴になったり、起訴されても刑罰が減軽されたりする可能性が高まります。もし、警察へ被害が訴えられる前に示談ができれば、事件が発覚する前に解決できるかもしれません。
しかし、被害者の怒りや悲しみが大きく、処罰感情が強ければ、加害者が示談を求めても応じてもらうのは非常に困難です。この点、弁護士であれば、被害者と冷静に話し合いを進め、適切な賠償金額で示談が成立することが期待できます。
もちろん、起訴されてしまい、刑事裁判を受けることになった場合でも、刑罰の減軽や実刑の回避を目指して弁護士が全面的にサポートします。
初犯だった、首謀者に脅されていたなどの事情があっても、犯罪行為の内容によっては、厳罰に処される可能性がゼロではありません。この点、弁護士が被告に代わり、有利な事情として認められる証拠や証言を集め、裁判官に対して法的な視点から主張します。
簡単に大金を手にしたいと考え、軽い気持ちで闇バイトへ応募すると、その後の人生に大きな影を落とすことになるでしょう。
もし、闇バイトに関与してしまったのであれば、弁護士に相談することが重要ですが、弁護士であれば誰でも同じわけではありません。不当な取り調べや身柄拘束を避け、不起訴や刑罰の減軽を目指すには、刑事弁護に関する豊富な知識と経験を持つ弁護士に相談することが重要です。
弁護士法人プロテクトスタンスには、さまざまな事件について刑事弁護を担当した実績がある弁護士が在籍しております。
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