育児・介護休業法の改正法が、2025年4月から段階的に施行されます。この法律はこれまで何度も改正されており、育児や介護に関する制度の充実化が進められてきました。
今回も看護休暇や残業免除の対象が拡大するなど、育児をサポートする制度が強化されるほか、介護離職の防止に向けた取り組みも推進されます。そのため、子育て中の人だけでなく、介護中の人にとっても、仕事との両立が図りやすくなるよう、企業側には勤務環境の整備が求められます。
このコラムでは、間もなく施行される育児・介護休業法の改正ポイントと企業に求められる対応などを、企業法務や労働問題に詳しい弁護士が解説します。育児や介護中の方はもちろん、人事・労務の担当者の方もぜひ最後までお読みください。
育児・介護休業法の改正法には、育児と介護の両分野で多岐にわたる改正事項が盛り込まれています。2025年4月から施行される主な改正事項は次の通りです。
改正内容の詳細を、育児に関するものと介護に関するものに分けて解説します。
今回の改正では、3歳ごろから小学生までの子どもを持つ人を対象とする支援などが充実します。また、育児と仕事の両立が図りやすくなるよう、テレワークの推進も盛り込まれました。
子の看護休暇の対象となる子どもの範囲および休暇の取得可能事由が拡大され、休暇がより取得しやすくなります。また、名称が「子の看護等休暇」に改められます(改正育児・介護休業法第16条の2)。
具体的な変更点としては、対象となる子どもの範囲が従来の小学校就学前までから、小学校3年生までに拡大。休暇を取得できる事由についても、病気・けが、予防接種・健康診断に限定されていましたが、感染症による学級閉鎖時や、入園(入学)・卒園式への参加などが追加されます。
また、労使協定により、継続雇用期間が6か月未満の労働者を看護休暇の対象外にできる規定が廃止されます。
改正前 | 改正後 | |
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名称 | 子の看護休暇 | 子の看護等休暇 |
対象となる子の範囲 | 小学校就学前まで | 小学校3年生修了までに延長 |
取得事由 | 病気・けが 予防接種・健康診断 | 左記に加えて 感染症に伴う学級閉鎖等 入園(入学)式、卒園式を追加 |
労使協定の締結により 除外できる労働者 | (1)引き続き雇用された期間が6か月未満 (2)週の所定労働日数が2日以下 | (1)を撤廃し、(2)のみに |
※出典:「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント」(厚生労働省)を加工して作成
一定の年齢に達するまでの子どもを養育する労働者が、残業の免除を請求した場合、所定労働時間を超えた労働が制限(禁止)されます。
2025年4月以降は、残業の免除を請求できる対象者が拡大されます。具体的には、これまで「3歳未満の子を養育する労働者」が請求できましたが、今後は「小学校就学前の子を養育する労働者」が請求できるようになります(同法第16条の8)。
3歳未満の子どもを持つ労働者が短時間勤務を希望すれば、企業側は勤務時間を6時間まで短縮しなければなりません。もし、短時間勤務を認めることが難しい場合、代替措置として、次のいずれかを講じる必要があります。
2025年4月以降は、これらの代替措置にテレワーク(在宅勤務)が追加されます(同法第23条2項)。
3歳未満の子どもを養育し、育児休業を取得していない労働者がテレワークを選択できるよう、必要な措置を講じる努力義務が企業に課されます(同法第24条2項)。
あくまでも努力義務であり、企業は必ず対応が求められるわけではありませんが、子育てと仕事の両立をサポートするため、必要な措置を積極的に講じることが期待されます。
現行制度では、常時雇用する労働者が1,000人を超える企業に対し、男性労働者の育休取得状況などを年1回公表することが義務化されています。2025年4月以降は、300人を超える企業まで公表義務の対象が拡大されます(同法第22条の2)。
「常時雇用する労働者」とは、雇用形態を問わず期間の定めなく雇用されている労働者が該当します。期間の定めがあっても、過去1年以上引き続き雇用されている労働者や、雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる労働者なども含まれます。
公表する必要があるのは、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」で、公表前事業年度の終了後おおむね3か月以内に、インターネットなどで公表しなければなりません。
※育児休業等とは、育児・介護休業法に規定する以下の休業のことです。
・育児休業(産後パパ育休を含む)
・法第23条第2項(3歳未満の子を育てる労働者について所定労働時間の短縮措置を講じない場合の代替措置義務)又は第24条第1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置を講じた場合は、その措置に基づく休業
※出典:「2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が従業員が300人超1,000人以下の企業にも義務化されます」(厚生労働省)を加工して作成
介護関係の主な改正内容としては、介護を支援するための環境整備や制度の周知など、介護離職の防止に向けた取り組みが義務化されます。また、介護休暇を取得できる要件の緩和なども実施されます。
介護休暇は、要介護状態にある家族を介護する際に認められる休暇で、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで取得できます。
事業主は労使協定の締結により、一部の労働者を休暇取得の対象外とすることができます。2025年4月からは、介護休暇の対象外にできる範囲が次のように縮小されます(同法第16条の6)。
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継続雇用期間6か月未満の労働者も休暇取得の対象となるため、入社したばかりでも介護休暇を取得できるようになります。
介護離職を防止する観点から、介護休業や介護両立支援制度などの申し出が円滑に行われるようにするための環境整備が、事業主に義務付けられます。具体的には、次のいずれかを実施しなければなりません(同法第22条の2項から4項)。
なお、介護両立支援制度には、次のような制度や措置が含まれます。
介護に直面した旨を申し出た労働者に対し、介護休業制度などに関する次の事項の周知と、介護休業の取得や介護両立支援制度などの利用に関する意向確認を、個別に行うことが事業主に義務付けられます(同法第21条2項)。
個別の周知や意向確認の方法は、面談(オンライン面談)か書面交付、FAX、電子メールのいずれかで、FAXと電子メールは労働者が希望した場合に認められます。
また、介護休業や介護両立支援制度などへの理解と関心を深めるため、労働者が介護に直面する前の早い段階で情報提供することも義務付けられます(同法第21条3項)。
情報提供が必要な期間は、「労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)」、または「労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間」のいずれかです。
情報提供する内容や方法は、介護に直面した旨を申し出た労働者に対する周知・意向確認の内容や方法と同じです。
要介護状態にある家族を介護しており、介護休業を取得していない労働者がテレワークを選択できるよう、必要な措置を講じる努力義務が企業に課されます(改正法第24条4項)。
育児のためのテレワーク導入と同様、あくまでも努力義務ですが、介護と仕事の両立を実現できるよう、積極的な対応が求められます。
改正育児・介護休業法の施行により、育児・介護の支援に関する制度の充実化が進むため、企業側のより積極的な対応が求められます。
法律で義務付けられた事項に正しく対応しなければ、厚生労働大臣から勧告を受け、勧告の内容にも従わない場合は企業名が公表される可能性があります(同法第56条、同条の2)。
企業名が公表されると、育児・介護と仕事の両立に非協力的な企業だと認識されてしまい、社会的に大きなダメージを受けることになるでしょう。そのため、法改正の内容を正しく理解し、適切に対応することが必要です。
2025年4月から、子の看護休暇や残業免除の対象拡大、介護休暇の要件緩和など、休暇や労働時間に関するルールが変更されます。労使協定の締結や就業規則の規定にかかわる事項も多く含まれるため、必要に応じて内容を見直さなければなりません。
見直しを行なった場合は、社内への周知などを迅速に行うようにしましょう。
子の看護休暇や介護休暇の要件緩和により、休暇の取得者が増加することも考えられます。
休暇の増加に伴い業務のしわ寄せが生じ、その結果、休みにくい雰囲気になってしまえば、休暇を取得しやすくなっても職場への不満に繋がるかもしれません。そのため、育児や介護をすることになっても、安心して休暇を取得できる人員の確保が求められます。
特に介護関係の改正では、介護離職を防止する観点から、研修の実施や相談窓口の設置、制度の周知と意向確認など、幅広い対応が必要となります。
家族を介護することになっても安心して働き続けられる環境を整えるため、研修の内容や実施方法、相談窓口の体制整備などについて十分に検討し、適切に対応できるようにしましょう。
改正育児・介護休業法の施行に伴う対応に不安やお悩みをお持ちであれば、ぜひ弁護士法人プロテクトスタンスへご相談ください。
弊事務所には企業法務や労働問題に詳しい弁護士だけでなく、社会保険労務士がグループ法人に在籍しているため、法改正に伴って企業に求められる対応について適切なアドバイスが可能です。
また、法教育にも力を入れており、重要な法改正をわかりやすく解説するセミナーを数多く実施しておりますので、社員向けの研修もお任せいただけます。
もし、いつでも気軽に相談できる顧問弁護士がいない場合は、ぜひ顧問契約の締結もご検討ください。日ごろから密なコミュニケーションがとれるため、弁護士が事業の内容や社内の状況などを正確に把握し、万が一、トラブルが発生しても、最適な解決策をスムーズにご提案いたします。