2023年4月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、フリーランス新法)が国会で成立しました。
フリーランス新法の成立により、書面による契約条件の提示が義務化されたり、不当な取り扱いが禁止されたりするなど、フリーランスとして働く人の保護が強化されます。
フリーランスに業務を委託する事業者がフリーランス新法に違反した場合、事業者名の公表や50万円以下の罰金といったペナルティを課される可能性があります。
2024年11月から施行される予定なので、フリーランスとの取り引きにおいて義務化、禁止されるポイントなどを把握しておくことが重要です。
そこで今回のコラムでは、フリーランス新法が成立した背景やポイント、事業者に求められる対応などを、企業法務に詳しい弁護士が解説します。
日頃からフリーランスとの取り引きを行うことが多い事業者は、ぜひ最後までお読みください。
2020年に内閣官房が公表した「フリーランス実態調査結果」によると、フリーランスで働く人のうち、約4割が取引先とのトラブルを経験していました。
引用:令和2年5月 フリーランス実態調査結果(内閣官房)
また、具体的なトラブルの内容としては、「発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった」が最も多く、約4割を占めていました。
続いて、「報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった」の回答が約3割でした。
引用:令和2年5月 フリーランス実態調査結果(内閣官房)
多くのフリーランスが取引先とのトラブルを経験している実態などを受け、安心して働くことができる環境整備を目的とするフリーランス新法が成立しました。
フリーランス新法が成立する以前は、「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)により、フリーランスを含む下請事業者が保護されてきました。
たとえば、次のような行為は下請法に違反することになります。
しかし、規制の対象となる発注者は資本金が1,000万円を超える事業者に限定されているなど、下請法による保護では一定の限界がありました。
この点、フリーランス新法では、フリーランスに業務を委託する事業者のほとんどが規制の対象となります。
フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」として、保護の対象としています。
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者で、次のいずれかに該当する人のことです(フリーランス新法第2条)。
「従業員を使用しない」が条件となっているため、1人で働いている人であれば、フリーランスや個人事業主だけでなく、一人会社の社長なども保護の対象となります。
一方、特定受託事業者に業務を委託・発注する側であり、フリーランス新法による規制の対象となる事業者を「特定業務委託事業者」としています。
具体的には、次のいずれかに該当する事業者のことです(同第2条6項)。
「従業員を使用する」が条件となっているため、2人以上が働いている事業者が法律の対象となります。
つまり、フリーランス同士や一人社長とフリーランス間での業務委託などは、基本的に法律の対象外ですので、注意が必要です。
フリーランス新法により義務化されたり、禁止されたりするポイントを説明します。いずれも、フリーランスに業務委託する事業者は対応が求められるため、内容を把握しておきましょう。
具体的には、次のような事項が義務化・禁止されます。
フリーランスに業務を委託する事業者は、書面(メールなども含む)により、契約条件を提示することが義務付けられます(同第3条)。
書面に記載する主な項目は次の通りです。
なお、契約条件の提示については、フリーランス同士や一人社長とフリーランス間での契約であっても義務付けられます。
事業者は、フリーランスから給付を受領した日から60日以内、かつ、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を設定しなければなりません(同第4条)。
もしも、支払期日を定めていない場合は、給付を受領した日が支払期日となります。
また、受領日から起算して60日より長い支払期日を設定していた場合、給付を受領した日から60日を経過する日が支払期日となります。
なお、フリーランスに委託した事業者に元委託者がいて、事業者がフリーランスに再委託する場合、事業者からフリーランスへの支払期日が異なります。
具体的には、元委託者から事業者への支払期日から30日以内、かつ、できる限り短い期間内に支払期日を設定する必要があります。
広告などでフリーランスを募集する際、虚偽の表示をしてはならず、正確で最新の内容を掲載しなければなりません(同第12条)。
虚偽の内容や誤解を招く内容を掲載しないことはもちろんですが、報酬単価などを変更したような場合は、掲載情報を常に更新することも必要です。
フリーランスに対して、次のような不当な取り扱いが禁止されます(同第5条1項)。
これらの禁止事項については、フリーランスに一定期間、継続的に業務委託する場合が対象です。具体的な期間など、継続的な業務委託に関する詳細は、今後、政令で定められます。
また、次のような取り扱いも禁止されます(同第5条2項)。
フリーランスに一定期間、継続的に業務委託を行う事業者は、フリーランスが妊娠や出産、育児、介護と両立しながら業務に取り組めるよう配慮する必要があります(同第13条)。
フリーランスがパワハラやセクハラ、マタハラなどを受けても泣き寝入りすることがないよう、事業者は、相談体制の整備といった必要な措置を講じなければなりません(同第14条)。
また、フリーランスがハラスメント被害について相談したことを理由とする契約解除といった不利益な扱いも禁止されます。
フリーランスに一定期間、継続的に業務委託を行う事業者は、契約を解除する場合や更新しない場合、30日前までに予告しなければなりません(同第16条)。
また、契約解除などの理由について尋ねられた場合は、理由を開示する必要があります。
フリーランス新法に違反した事業者は、公正取引委員会から必要な措置を講じるよう勧告を受けることになります(同第8条、18条)。
勧告を受けたにもかかわらず必要な措置を講じなければ、勧告を受けた措置について命令を受けるとともに、事業者名を公表される場合があります(同第9条、19条)。
命令にも違反した場合は50万円の罰金が科せられます。この罰金刑は、両罰規定により、違反者だけでなく法人にも科せられる可能性があります(同第24条、25条)。
フリーランス新法が施行されると、フリーランスへの業務委託について、さまざまな事項が義務化、禁止され、適切に対応しなければペナルティの対象となります。
特に、事業者名の公表は大きなイメージダウンにつながるおそれがあるため、フリーランスと取り引きをする機会が多い事業者は、対応方法を検討しておくことが重要です。
たとえば、フリーランスに口頭で依頼しているような場合、今後は書面による条件提示が必要となるため、書面の様式を準備しておいてもいいかもしれません。
ただし、フリーランス新法の詳細なルールについては、これから政令によって定められる内容もあり、まだ全容が明らかになっているわけではありません。
今後の対応に不安がある事業者は、企業法務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
特に、IT系やweb系に代表されるような専門性の高い領域においては、事業規模にかかわらず、フリーランスの人材を活用することがよくあります。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、これまでに東証プライム上場企業からスタートアップ段階のベンチャー企業まで、業種も規模も幅広い数多くの法人、個人事業主と顧問契約を締結してきました。
また、上場企業の法務部で企業内弁護士として勤務した経験がある弁護士も在籍しております。
そのため、企業法務の経験が豊富であり、受発注のトラブル防止や契約書のチェックなど、安心してお任せいただくことができます。どうぞ、ご相談ください。