ホストなどが、利用客の好意や恋愛感情につけ込んで高額な飲食をさせる、いわゆる「色恋営業」が問題視されています。さらに、「売掛金」などと呼ばれる未払い代金を支払わせるため、利用客に売春や性風俗店での勤務を求める事案も相次いでいます。
このような状況を受け、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下、風営法)の改正法が2025年6月28日に施行されました。
今回の改正では、ホストクラブやキャバクラなどの接待飲食業に対する規制が厳格化され、色恋営業の禁止などが明文化されました。また、性風俗店が女性を紹介された見返りとしてホストやスカウトに報酬を支払う「スカウトバック」も禁止となりました。
ほかにも、無許可営業に対する罰則強化や、風俗営業の欠格事由の拡大など、さまざまな改正点が盛り込まれています。法改正の内容を理解し、適切に対応しなければ、これまで当たり前のように行なっていた営業が実は違法だったという事態が起こってしまうかもしれません。
このコラムでは、風営法が改正された背景や具体的な改正ポイント、事業者が今後、講じるべき対応策などを、企業や店舗の法律問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
風営法は略称で、正式名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」です。風俗営業などが地域の治安や風紀を乱し、周辺環境や青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすことを防止するとともに、これらの営業が適正に行われることを主な目的としています。
規制内容の一例としては、法律が適用される業種に対し、営業に関する届出や許可の申請を義務付けるほか、営業できる時間や場所、構造・設備、接客方法などに関するルールが細かく定められています。
法律が適用される業種については、法律の名称から性風俗店だけをイメージするかもしれません。しかし実際は、性風俗店だけでなくキャバクラやホストクラブ、スナック、パチンコ店やゲームセンター、深夜営業するバーや居酒屋など、幅広い業種が対象となっています。
風営法は1948年に「風俗営業取締法」として制定されて以来、時代の変化に応じて適用対象となる業種の追加や除外、ルールの見直しなどに関する法改正が何度も行われてきました。
最近では、悪質なホストクラブによる色恋営業や、性風俗店によるスカウトバックなどの行為が問題視されるようになったため、新たな対策を講じる改正風営法が2025年6月に施行されたのです。
風営法が改正された背景として、一部の悪質な店舗による不適切な営業と取り締まりの限界などが挙げられます。具体的な問題点について説明します。
近年、ニュースなどでよく取り上げられるようになったホストクラブによる「色恋営業」。ホストが利用客に対して恋愛感情を抱いているように誤解させたり、利用客からの好意や恋愛感情につけ込んだりすることで、高額な金銭を支払わせる営業手法です。
色恋営業によって、「売掛金」と呼ばれるホストへの未払い債務が膨らみ、利用客が経済的・精神的な被害を受けるだけでなく、売春や性風俗店での勤務を強要されるという事例が、若い女性を中心に相次いでいます。
色恋営業で売掛金として多額の借金を背負わされ、人生を狂わされてしまう事態に繋がっており、大きな社会問題として認識されるようになりました。
「スカウトバック」とは、ホストやスカウトから女性を紹介された性風俗店が、紹介の見返りとして報酬(キックバック)を支払うことです。そして、スカウトバックは先ほど説明したホストクラブによる色恋営業の問題と密接な関係があります。
ホストは色恋営業によって売掛金を抱えた利用客に対して性風俗店で働くようにすすめ、その紹介料としてスカウトバックを受け取ります。そして、性風俗店で働くようになった利用客に売掛金を返済させるだけでなく、ホストクラブに通わせてお金を搾り取り続けるという悪循環に繋がっているのです。
単にお酒や食事を提供するだけでなく、利用客の隣に座って接待するようなホストクラブやキャバクラなどの営業形態は風営法上、「風俗営業」の「1号営業」という業態に該当します。
風俗営業は営業形態に応じて5種類に分類されますが、いずれの形態でも営業を行うには、警察署に申請して公安委員会から許可を得なければなりません。
必要な許可を得ないで風俗営業を行うと、風営法に違反したとして罰則の対象となります。しかし、無許可営業の店舗が摘発されるケースが後を絶たないため、抑止力が不十分だと指摘されていました。
風営法違反など、過去に不適切な行為があった事業者が、風俗営業に関与している事例は少なくありません。そのような店舗は、暴力団など反社会的勢力の資金源となったり、詐欺や恐喝などの犯罪行為に使われたりする可能性があります。
風営法には営業が許可されない「欠格事由」が定められていますが、範囲が限定的であり、反社会的勢力が十分に排除されていないという問題がありました。
2025年6月に施行された改正風営法は、上述したさまざまな問題点への対応を主な目的としています。改正ポイントについて解説していきましょう。
風俗営業の1号営業に該当するホストクラブやキャバクラなどが守るべきルール(遵守事項)が追加されました。その一つが、ホストの利用客が高額な売掛金を抱える原因として指摘されていた「色恋営業」の禁止です。
具体的には、次のような状況で利用客を困惑させ、遊興や飲食をさせるための行為が「色恋営業」として禁止されます。
そして、禁止される行為は次の通りです。
このほか、料金の虚偽説明の禁止や、注文していないドリンクなどの提供の禁止も、遵守事項に加えられました。
なお、これらの遵守事項に違反したとしても、刑事罰の対象とはなりません。ただし、改善指示や営業停止、営業許可の取り消しなど、行政処分を受ける可能性があります(風営法第25条、第26条)。
また、次の行為は罰則がある禁止行為として、新たに規定されました。
違反した場合の罰則は、6か月以下の拘禁刑(旧懲役刑または禁錮刑のこと)もしくは100万円以下の罰金、またはその両方(併科)です(同法第53条)。
女性を紹介された性風俗店が、見返りとして報酬を支払うスカウトバックも禁止されました。また、女性を紹介したホストやスカウトに対する直接の支払いだけでなく、広告費などの名目で第三者を経由して支払う行為も禁止されています。
色恋営業だけでなくスカウトバックも禁止することで、ホストなどの利用客が高額な売掛金を抱え、性風俗店での勤務が余儀なくされる構造を断ち切ることができると期待されています。
違反した場合の罰則は、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方です(同法第53条)。
従来の風営法でも、ホストクラブやキャバクラといった風俗営業の無許可営業に対し、2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその両方という罰則がありました。
しかし、莫大な利益を得ている店舗に対するペナルティとしては、十分な抑止力が期待できませんでした。
そのため、法改正によって罰則が5年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方まで引き上げられました(同法第49条第1号)。さらに、法人に対する罰則については、従来の200万円以下の罰金から3億円以下の罰金へと大幅に引き上げられています(同法第57条第1号)。
営業許可が取り消されてから5年が経過していない場合、欠格事由に該当するとして、ホストクラブなどの風俗営業が許可されません。しかし、法人格を悪用して事業をグループ内の別法人に移したり、処分の直前に自ら許可証を返納したりする方法で処分を逃れ、営業を継続する悪質な事例が散見されました。
今回の法改正では、処分逃れをした事業者に対して営業が許可されないようにするため、次の欠格事由が追加されました。
このほか、反社会的勢力が風俗営業に参入できないよう、暴力的な不法行為などを行うおそれがある者が、事業活動に支配的な影響力を有する場合も欠格事由に加えられました。
今回の風営法改正では、禁止となる行為が追加されたり、法律違反に対する罰則が強化されたりするなど、ホストクラブなどを運営する事業者に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
法改正に対して必要な対応を洗い出したうえで、適切に取り組むことが重要です。事業者に求められる対応の一例をまとめました。
たとえば、「色恋営業の禁止」「スカウトバックの禁止」は、従業員一人ひとりが正しく理解し適切に行動しなければ、事業者が大きな不利益を受けるかもしれません。
法令遵守を徹底するには、単に口頭で指示するだけでは不十分な可能性があるため、禁止行為などを明確にまとめた業務マニュアルの整備が重要です。
また、色恋営業に繋がるおそれがあるトーク例や、過大な売掛金を抱えないよう、利用客の経済状況を確認する方法などをまとめてもよいでしょう。
単にマニュアルを整備するだけでなく、従業員に内容をきちんと把握させ、遵守させなければ意味がありません。対応策として、次のような方法が考えられます。
法改正によって禁止となった行為を従業員が正しく理解していないと、悪気がなくても法律違反をしてしまうかもしれません。やっていい行為とダメな行為を丁寧にまとめ、周知するようにしましょう。
マニュアルを作って配っただけでは、対策が十分とは言えません。入店直後の従業員はもちろん、既存の従業員も対象に、禁止行為の具体例や接客時の注意点などを解説する研修を定期的に実施しましょう。
また、法令遵守が徹底されているかチェックするには、管理職による定期的な巡回や、覆面調査の実施などが効果的です。ほかにも、監視カメラの設置は従業員の禁止行為を抑止するだけでなく、法令違反がないことの証明にも役立つと考えられます。
トラブルを防止したり、深刻化を回避したりする観点から、利用客からの苦情や従業員からの内部通報を受け付ける窓口の設置、弁護士など専門家へスムーズに相談できる体制整備も進めておきましょう。
罰則の大幅な引き上げにより、無許可営業は非常に大きなリスクとなります。風営法で認められている営業時間や場所、接客方法などを遵守しているか、必要な届出や許可の申請を行なっているかなど、改めて確認しておきましょう。
たとえば、単なる飲食物の提供しか認められないにもかかわらず、許可を得ずに利用客の隣席に座った接客などを行なっているケースがあるかもしれません。違法な営業が確認された場合、営業形態の見直しや必要な許可の申請などを速やかに進めましょう。
欠格事由の拡充により、処分逃れのためにグループ会社に業務を移したり、処分の直前に許可証を返納したりしても、許可されなくなります。処分逃れに該当する行為は厳に慎むことはもちろん、行政から何らかの指示や命令を受けた場合は正しく対応しましょう。
また、反社会的勢力が事業に関与していることも欠格事由となるため、何らかの繋がりがある場合は断ち切らなければなりません。実際は関与がなくても、ちょっとした交流があるだけで厳しい目で見られるかもしれないので、勇気を持って決別することが重要です。
これまで風営法の改正ポイントや事業者が講じるべき対応などを解説しましたが、法律に関する専門的な知識がなければ、対応を誤ってしまうかもしれません。不適切な営業により大きな不利益を被ることを回避するためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、現在の営業形態が風営法などに抵触していないか確認することが可能ですし、従業員向けのコンプライアンス研修を依頼してもよいでしょう。もちろん、何らかのトラブルが生じた際の対応も任せられます。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、経験豊富な弁護士がグループ法人の社会保険労務士や行政書士と連携しているため、法的な問題だけでなく、社内規定の整備や営業許可なども含め、幅広くご相談いただけます。
事業展開や店舗営業に関するお悩みは、ぜひお気軽にお問い合わせください。