商品やサービスの内容が、実際よりも著しく優れていると消費者に誤解させる広告表示などは、「不当表示」として法律で禁止されています(改正景品表示法第5条1号)。禁止に違反した事業者は、措置命令や課徴金納付命令といったペナルティの対象となります。
この点、改正景品表示法が2024年10月から施行され、事業者が自主的に不当表示などの違反行為の是正に取り組むことでペナルティを回避できる「確約手続き」が導入されます。一方、課徴金の加算や「直罰規定」の導入といった罰則強化も行われるため、改正内容を把握しておくことが重要です。
このコラムでは、2024年10月から施行される改正景品表示法の主な改正のポイントを、企業法務や広告の表示ルールに詳しい弁護士が解説します。広告の管理やSNSの運用といった業務を担当されている方は、ぜひ最後までお読みください。
景品表示法(景表法)の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」と呼びます。景品表示法は、企業が商品やサービスを販売する際、一般消費者の誤解を招くような表示や過大な景品の提供などを禁止・制限する法律です。
主に、次のような禁止や制限が法律で定められています。
これらの禁止・制限に違反した場合、措置命令や課徴金納付命令などのペナルティを受ける可能性があります。措置命令は違反行為の中止や是正などを命じられ、課徴金納付命令では、違反行為により得られた利益の一部を課徴金として納付するよう命じられます。
不当表示などの違反行為に厳しい目が向けられており、2023年10月からステマ(ステルスマーケティング)が不当表示に指定されるなど、規制に関する取り組みが進んでいます。
そして、2024年10月には、違反行為の是正に向けた自主的な取り組みの促進や、悪質な事業者に対する罰則規定の拡充などを目的とする改正景品表示法が施行されます。
改正景品表示法には、多くの改正内容が盛り込まれていますが、業務に対する影響が特に大きいと考えられる主なポイントは次の通りです。
従来の景品表示法では、不当表示などの違反行為が認められた場合、措置命令や課徴金納付命令の対象となります。また、違反行為とは認められなくても、違反のおそれがあると消費者庁などが判断すれば、行政指導の処分を受けます。
措置命令や課徴金納付命令は、違反行為が意図的ではなく、積極的に是正に取り組んだ場合でも、違反行為が認められれば避けることができません。そのため、自主的な申告や改善の取り組みなど、是正措置を講じる意欲が失われていると問題視されていました。
この問題点を改善するため、景品表示法の改正により確約手続きが導入されます(同法第26条~33条)。確約手続きは、事業者が自主的に是正措置を講じることで措置命令や課徴金納付命令を回避できる制度で、違反行為の迅速な解消が期待できます。
確約手続きの流れとしては、違反が疑われる行為が見つかった場合、内閣総理大臣が疑いの理由となった行為の概要などを行為者に通知します。通知を受けた行為者は、是正に必要な措置に関する計画(是正措置計画)を作成し、通知を受けてから60日以内に内閣総理大臣に申請します。
是正措置計画の内容が十分であると内閣総理大臣から認められると、措置命令や課徴金納付金命令を受けないことが確約されます。ただし、計画通りに是正措置が行われない場合や、虚偽または不正な事実によって認定を受けたような場合は認定が取り消され、措置命令や課徴金納付命令の対象となります。
確約手続きは、違反行為をしたすべての事業者が利用できるわけではありません。次のようなケースでは、確約手続きの対象外です。
不当表示を行なった事業者には、課徴金の納付が命じられます。
不当表示に対する措置命令を受けたにもかかわらず命令に違反した場合、違反者や違反者が所属する法人に対して、罰金が科せられる可能性があります。しかし、罰金には上限があるため、不当表示によって多額の利益を得ていると、違反者の手元に利益が残るという不都合が生じます。
課徴金は、このような不都合を解消し、不当表示を抑止するために設けられた制度です。課徴金制度について、景品表示法の改正により次のような見直しが行われます。
課徴金の金額は、不当表示が行われた商品やサービスの売上額に3%を乗じて計算します。
課徴金を計算するためには、課徴金の対象となる商品やサービスの正確な売上額について、事業者から報告を受けることになります。しかし、売上データを把握していない事業者から適切な報告が行われず、課徴金の計算に時間がかかるケースが少なくありませんでした。
そのため、売上額が適切に報告されなくても迅速に課徴金納付命令を出せるよう、課徴金計算の基礎となる売上額を推計できる規定が整備されました(同法第8条4項)。
不当表示により、措置命令や課徴金命令を受けたにもかかわらず、違反行為を繰り返す事業者も一定数います。現行の命令では抑止力が決して十分ではないため、違反行為を繰り返した事業者に納付が命じられる課徴金の金額が加算されます。
具体的には、違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある場合、課徴金が1.5倍(売上額の4.5%)まで加算されます(同法第8条5項、6項)。
不当表示によって被害を受けた消費者に対し、返金を行うことで課徴金が減額されたり、納付が免除されたりします(返金措置)。しかし、2016年12月から2024年8月までに実施された返金措置は4件に留まっており、頻繁に制度が利用されている状況ではありません。
そこで、返金措置が積極的に活用されて被害回復が促進されるよう、電子マネーによる返金が認められます。
不当表示のうち、優良誤認表示と有利誤認表示に対して「直罰規定」が導入されます(同法第48条)。
直罰規定とは、違反行為に対する措置命令などの処分を経ることなく、即座に罰金の対象とできる規定です。優良誤認表示または有利誤認表示をした場合、直罰規定により100万円以下の罰金が科されます。
適格消費者団体は、不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するため、消費者契約法上の差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として、内閣総理大臣の認定を受けた法人です。
適格消費者団体が事業者に対し、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を事業者に対して要請できるようになります。要請を受けた事業者は、営業の秘密が含まれるなどの合理的な理由がある場合を除き、要請に応じる努力義務を負います(同法第35条)。
不当表示などの違法行為を行なったとしても、景品表示法の改正で導入される確約手続きを利用すると、措置命令や課徴金納付命令の対象になりません。つまり、意図せずに不当表示をしてしまった場合でも、適切な是正措置を自主的に講じれば、大きな不利益を受けることを回避できる可能性があるのです。
一方、優良誤認表示や有利誤認表示に対しては直罰規定が導入されますし、不当表示を繰り返すと課徴金が加算されるため、やはり、不当表示を行なわないよう細心の注意を払う必要があることは変わりありません。
違反行為をしないためには景品表示法上のルールを把握しておくことが重要ですが、非常に複雑な内容も含まれるため、法的な専門知識がなければ正しく理解できない可能性が高いです。
弁護士法人プロテクトスタンスは、数多くの法人・個人事業主さまと顧問契約を締結しており、広告表示に関する規制などについても、多岐にわたる分野で精通しております。
不当表示などの違反行為は、課徴金や罰金の対象となるだけでなく、会社に対する社会的な信用の低下という大きなリスクが生じます。広告表示などのお悩みは、ぜひ弁護士へご相談ください。