2023年12月より、一定台数以上のいわゆる「白ナンバー車」を使用する企業に対し、アルコール検知器を用いた飲酒運転のチェックが義務化されます。
目視によるチェックや、チェック記録の作成と1年間の保存はすでに義務付けられていますが、検知器を使ってより厳しく確認しなければなりません。
従業員が飲酒運転による交通事故を起こしてしまう事態を回避するためにも、検知器を使ったアルコールチェックの適切な実施が重要です。
今回のコラムでは、検知器によるアルコールチェック義務化のポイントを、企業法務や労働問題、交通事故などの分野に詳しい弁護士が解説します。
これまで、トラックやバス、タクシーなど、いわゆる「緑ナンバー車」を使用する企業に対しては、アルコールチェックが義務化されていました。
しかし、2021年に千葉県八街市で飲酒運転のトラックに児童がはねられ、5人が死傷するという痛ましい事故が発生しました。
事故を起こしたトラックは緑ナンバー車ではなく、まだアルコールチェックが義務付けられていなかった白ナンバー車でした。
この事故により道路交通法施行規則が改正され、一定台数以上の白ナンバー車を使用する企業もアルコールチェックが義務化されることになったのです。
「白ナンバー車」とは自家用車など、白地に緑文字のナンバープレートを付けた一般的な車両のことです。従業員が営業先を訪問したり、自社商品を取引先へ運んだりするなど、自社の社員や荷物を無償で運ぶような企業も、白ナンバー車を使用します。
運賃を受け取って人や荷物を運ぶ事業用の自動車は、緑地に白文字のナンバープレートを付け、いわゆる「緑ナンバー車」と呼ばれます。
アルコールチェックが義務付けられるのは、「安全運転管理者」を設置しなければならない企業です。具体的には、次のいずれかの企業が該当します。
該当する自動車は、車種や車両の用途は問わず、軽自動車(黄色ナンバー)も含まれます。原動機付自転車を除く自動二輪車も含まれ、1台を0.5台として計算します。
企業の安全運転管理者に対し、次の2点を行うことが2022年4月からすでに義務化されています。
そして、2023年12月から検知器によるアルコールチェックを含む次の業務が、新たに義務付けられます。
なお、検知器によるアルコールチェックは、2022年10月から義務化される予定でした。しかし、検知器の供給が追い付かなかったため、2023年12月に延期されました。
新たに義務化される検知器を用いたアルコールチェックを行ううえで、留意すべきポイントについて、警察庁が公開するQ&Aを参考に説明します。
安全運転管理者は運転をしようとする、また運転を終了した運転者に対し、アルコールチェックを行う必要があります。
ただし、必ずしも個々の運転の直前や直後に確認する必要はありません。
運転を含む業務の開始前や出勤時、業務の終了時や退勤後に確認すれば問題ありません。
対面で確認することが原則ですが、運転者が直行直帰する場合もあるでしょう。このような場合、運転者に携帯型の検知器を持たせるなどしたうえで、次のような対応により、対面での確認と同様に扱うことができます。
アルコールチェックの業務は安全運転管理者が行いますが、不在時などは副安全運転管理者や業務の補助者が行なっても構いません。
ただし、安全運転管理者以外がチェックし、酒気帯びを確認した場合、安全運転管理者への速やかな報告や対応の指示を受けることなどが必要です。
また、安全運転管理者が運転の中止を指示するなど、安全運転を確保するための対応を確実に行うことが求められます。
アルコールチェックの実施や結果の記録などの義務を怠ったこと自体に対する直接的な罰則はありません。
しかし、義務の違反が発覚した場合、公安委員会から安全運転管理者の解任を命令される場合があります(道路交通法第74条の3第6項)。
一定台数以上の白ナンバー車を使用する企業は、安全運転管理者の設置が必要なので、解任された場合は新たに選任しなければなりません。
資格要件を満たす人を安全運転管理者に任命し、公安委員会に届け出るといった対応が必要になるため、業務に支障をきたす可能性があります。
また、解任命令に従わなかったり、安全運転管理者の設置義務に違反したりすると、50万円以下の罰金が科せられる場合があります(同第119条の2)。
万が一、従業員が飲酒運転をしてしまったら、従業員はもちろん会社の代表者なども処罰の対象となる可能性があります。
飲酒運転による交通事故が発生した場合は、大きく報道されることが予想されるため、企業に対する社会的なダメージも避けられないでしょう。
アルコールチェックを適切に実施し、飲酒運転を防止することが重要です。
検知器によるアルコールチェックの義務化にあたり、企業には次のような対応が求められます。
特に、安全運転管理者の選任は、すでに終えている必要があるため、まだ選任していなければ迅速に対応するようにしましょう。
一定台数以上の白ナンバー車を使用する場合、安全運転管理者を選任しなければなりません。
また、台数が20台以上40台未満の場合は副安全運転管理者が1人、40台以上なら20台ごとに副安全運転管理者がさらに1人必要です。
誰でも安全運転管理者や副安全運転管理者になれるわけではなく、次のような資格要件をクリアする必要があります。
安全運転管理者 | 副安全運転管理者 | |
---|---|---|
年齢 | 20歳以上(副安全運転管理者を選任する場合は30歳以上) | 20歳以上 |
実務経験 (いずれかに該当) | ・運転管理の実務経験が2年以上 ・公安委員会の教習を終了し、実務経験が1年以上 ・公安委員会の認定を受けた | ・運転管理の実務経験が1年以上 ・運転経験期間が3年以上 ・公安委員会の認定を受けた |
ただし、資格要件をクリアしていても、たとえば、次のような欠格事項に該当する人は、安全運転管理者や副安全運転管理者になることができません。
なお、安全運転管理者などを選任した場合は、15日以内に都道府県公安委員会(管轄の警察署)への届け出が必要です。
届け出の際は次のような書類を提出しましょう。
届出書は各都道府県警察署のホームページからダウンロードできる場合があります。都道府県によって提出書類が異なる場合があるので、事前に確認しておくようにしましょう。
アルコールチェックを行うために、検知器を準備しましょう。
検知器の性能は、呼気中のアルコールの有無や濃度を検知し、音や色、数値などで示す機能を有していれば問題ありません。
「検知器を常時有効に保持する」ことも義務化されるため、取扱説明書にもとづき、適切な使用や管理、保守を行うよう心がけましょう。
また、故障していないか定期的に確認し、故障していない検知器を使用することも重要です。
検知器によりアルコールチェックした結果についても、記録と1年間の保存が義務付けられます。チェックの記録を作成するマニュアルを用意するとともに、紙や電子データなど、保存方法を決めておきましょう。
なお、記録する内容には、次のような項目があります。
検知器によるアルコールチェックを適切に実施し、飲酒運転を防止するためにも、従業員もアルコールチェックの重要性を理解することが重要です。
そのため、社内研修を開催するなど、従業員の教育に取り組みましょう。
また、チェックの実施から記録の作成、保存までの流れをルール化し、社内規定などに明記することで、業務が進めやすくなると考えられます。
ほかにも、就業規則を見直して、チェックの拒否や飲酒運転の発覚などに対する懲戒規程などを設けることで、飲酒運転の防止効果がより高まるでしょう。
アルコールチェックの義務化に伴い、安全運転管理者を中心に、企業として正しく取り組まなければ、罰金などのペナルティを受ける可能性があります。
万が一、従業員の飲酒運転を見落として事故が起きてしまった場合、企業が受ける社会的ダメージは計り知れないでしょう。
アルコールチェックの義務化への対応に疑問や不安があれば、弁護士法人プロテクトスタンスにご相談ください。
アルコールチェックを拒否したり、飲酒運転を行なったりした従業員を懲戒処分する場合、適切に手続きしなければ労働問題に発展する可能性があります。
もし、従業員が飲酒運転により交通事故を起こしてしまったら、被害者への補償や謝罪、企業へのダメージ軽減など、さまざまな対応が求められます。
弁護士法人プロテクトスタンスは企業法務や労働問題、刑事弁護など、多岐にわたる分野を取り扱っており、経験豊富な弁護士がサポートいたします。
また、グループ法人に社会保険労務士も在籍しているため、就業規則の見直しや社内規定の整備といった人事・労務面のご相談にもワンストップでお応えいたします。