部品や商品の製造などを発注する企業から、代金の減額や納期の変更を一方的に求められるなど、不当な要求に悩んでいる企業は少なくありません。
発注側の企業は受注側の企業に比べて、立場が優位であるケースが多いでしょう。立場を利用して発注側の企業が不利な取引条件を押し付け、受注側の企業に不利益を与えることを、一般的に「下請けいじめ」と呼びます。
下請けいじめを受けていても、大切な取引先を失いたくないと考え、泣き寝入りしている企業もあるかもしれません。しかし、下請けいじめは法律違反にあたる可能性があるほか、泣き寝入りすれば被害が拡大する危険性もあるため、適切に対処することが重要です。
そこで今回のコラムでは、違法となる下請けいじめの具体的な行為や事例、被害を受けた場合の対処法などを、企業法務に詳しい弁護士が解説します。発注元からの不当な要求にお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
下請けいじめとは一般的に、発注側の企業である親事業者が優位な立場を利用して、受注側の下請事業者に不当な要求をする行為です。たとえば、下請代金の金額や支払期日を守らない、下請事業者に責任がないのに注文品を受け取らないなど、不利益が生じるさまざまな行為が該当します。
下請けいじめは「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独占禁止法)や「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)で禁止された違法行為です。違反した事業者は、公正取引委員会による企業名の公表や罰金といったペナルティの対象となる可能性があります。
取引先を失うことをおそれ、不当な要求でも受け入れてしまうケースがあるかもしれませんが、拒否しなければ要求がエスカレートする可能性が高いです。被害の拡大を防ぐためにも、下請けいじめは違法行為であると認識し、毅然とした態度で対応しましょう。
下請けいじめに該当する違法行為は、下請法に列挙されています。具体的には、親事業者による次のような行為が下請けいじめにあたります(下請法第4条1項1号から7号、同条2項1号から4号)。
親事業者からの下請けいじめに苦しんでいる場合、取り締まりを行なっている公正取引委員会や中小企業庁に通報することができます。
通報の対象となった親事業者は、取引内容の報告を求められたり、立ち入り検査を受けたりすることになります。報告や検査の結果、下請法の違反が認められると、親事業者は公正取引委員会などから勧告や指導などの措置を受けます。
勧告を受けた企業は公正取引委員会のホームページ上で公開されるため、社会的に大きなダメージを受けることになるでしょう。
また、取引内容を報告しない、虚偽の報告をする、立ち入り検査を拒否する、妨げるといった行為があると50万円の罰金が科される可能性があります。罰金はこれらの違反行為をした本人だけでなく、法人や代表者も対象となる場合があります(同法第11条、第12条)。
なお、下請けいじめにより損害が発生している場合は、公正取引委員会などへ通報するだけでなく、親事業者に損害賠償を請求することも可能です。
公正取引委員会のホームページでは、下請けいじめに関するさまざまな事例が掲載されています。実際にどのような下請けいじめが行われているのか、事例の一部をご紹介します。
自動車の製造販売を行う親事業者が、部品の製造を委託している下請事業者に対し、下請代金を不当に減額した事例です。
親事業者は、下請事業者に責任がないにもかかわらず、約2年間にわたって36社の下請事業者に対し、合計で30億円以上もの減額を行なっていました。目的は自社の原価低減で、「割戻金」の名目により下請代金から差し引いていました。
この行為は、下請法第4条1項3号に規定された「下請代金の減額の禁止」に違反するとして、公正取引委員会による勧告を受けました。
産業用モータの製造販売を行う親事業者が、部品の製造を委託している下請事業者に対し、製造設備の無償保管などをさせていた事例です。
親事業者は具体的な発注時期を示せない状況にもかかわらず、下請事業者44社に対し、貸与している金型などの製造設備を無償で保管させていました。さらに、現状確認などを目的に年2回の棚卸も行わせており、下請事業者に対して不当に役務を提供させ、利益を害していました。
この行為は、下請法第4条2項3号に規定された「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に違反するとして、勧告の対象となりました。
日用雑貨や家具の販売などを行う事業者が、商品の製造を委託している下請事業者に対し、商品の受領後に返品していた事例です。
親事業者は、下請事業者から商品を受領後、受入検査を行なっていないにもかかわらず、商品に瑕疵があるとして引き取らせていました。下請事業者は181社にのぼり、商品を引き取らせる際の送料も負担させていました。
この行為は、下請法第4条1項4号に規定された「返品の禁止」に違反するとして、勧告の対象となりました。
下請けいじめにあった場合、公正取引委員会などへの通報や、損害賠償の請求といった方法で対処することができます。しかし、これらの方法は親事業者との激しい対立に発展する可能性があり、今後も取り引きを続けたいような場合は別の手段を選ぶべきかもしれません。
まずは、下請けいじめに対してどのような対処法があるか確認しましょう。
悪意ではなく、単に下請法に関する知識不足が原因で、親事業者が下請けいじめをしているかもしれません。そのため、違法行為をしてしまっていると、親事業者がそもそも認識していないことも考えられます。
まずは担当者間や上長のレベルで交渉し、下請けいじめを受けていることを伝えて契約内容の見直しや行為の是正を求めましょう。親事業者が自社の違法行為を認識することで、下請けいじめを止める可能性があります。
ただし、交渉するだけでは状況が改善しないようであれば、次のステップに進むことを検討しましょう。
親事業者との交渉がうまくいかなければ、ADR(裁判外紛争解決手続)と呼ばれる調停手続きの利用を検討してもよいでしょう。ADRには、トラブルの内容に応じてさまざまな種類がありますが、下請けいじめに関する問題では、中小企業庁の「下請かけこみ寺」を利用できます。
下請かけこみ寺のADRは、弁護士などの調停人が親事業者との間に入り、話し合いによって解決(和解)を目指す手続きです。訴訟とは異なり非公開の手続きなので秘密を守ることができる、無料で利用できるといったメリットがあります。
手続を利用したい場合、まずは下請かけこみ寺に連絡し、全国に配置された弁護士などに相談したうえで、手続きを申し立てることになります。
親事業者との交渉や、ADRでも解決できない場合や、すでに大きな損害が生じているような場合は、公正取引委員会への通報を検討しましょう。通報を受けた公正取引委員会は、下請けいじめの有無などを調査し、違反事実があれば親事業者に対して指導や勧告をしてくれます。
下請代金の減額を受けた、代金が支払われていない、役務の提供を強要されたなど、下請けいじめにより損害が生じることが考えられます。交渉の成立時や、公正取引委員会が指導・勧告した際、親事業者が損害を補てんする場合もありますが、必ずしも十分な賠償を受けられるとは限りません。
そのため、発生した損害に対しては、交渉や訴訟により損害賠償請求することも検討してください。この場合、未払い代金や支払いが遅れた分の遅延損害金なども請求してよいでしょう。なお、未払いの代金については、民事訴訟のみならず裁判所の支払督促という手続きにより請求することも可能です。
下請けいじめには複数の対処法がありますが、被害の深刻化を避けるために少なくとも泣き寝入りするべきではありません。下請かけこみ寺や公正取引委員会などに対処法を相談してもよいですが、まずは弁護士への相談をおすすめします。
弁護士であれば、「毅然とした態度で対応したい」とか「今後も取り引きを続けるため穏便に済ませたい」など、希望を踏まえて適切な対処法を提案してくれます。親事業者との交渉や、損害賠償の請求など、何らかの手続きを進める際は、代理人として対応を任せられるため、より有利な解決を目指せます。
また、トラブルの発生後に弁護士へ相談してもよいですが、日頃のトラブル対策として弁護士と顧問契約を結んでいるとさらに心強いでしょう。顧問弁護士がいれば些細な疑問でも気軽に相談できますし、そもそも契約書に不利な内容はないかチェックするなど、さまざまな対応を依頼できます。
そして、顧問契約により密なコミュニケーションを取れるため、弁護士は事業の内容や社内の状況などを深く理解してくれます。万が一、トラブルが発生した際は、シチュエーションに即したより最適な解決策を提案してくれるでしょう。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、業種も規模もさまざまな数多くの法人、個人事業主と顧問契約を締結してきました。企業間のトラブルに精通した弁護士が在籍しており、安心してお任せいただけますので、ぜひ一度ご相談ください。