
不動産を持つ人にとって、住所変更の登記はこれまで任意であり、行わなくても特にペナルティのない手続きでした。そのため、転居のたびに法務局へ出向いて登記を更新するような人は少なく、不動産を売却したり担保に入れたりする際に、まとめて手続きするのが一般的でした。
しかし、2026年4月に改正不動産登記法が施行されたことにより、不動産を所有しているすべての人(所有権の登記名義人)を対象に、住所が変更となった場合の住所変更登記が義務付けられました(不動産登記法第76条の5)。
引っ越しなどで住所が変更となったら、変更から2年以内に登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのに申請を怠れば、5万円以下の過料が科される可能性があります(同法第164条2項)。
また、施行日である2026年4月1日より前に行った住所変更についても、義務化の対象です。未登記のままであれば、2028年3月末までに手続きする必要があります。
住所変更登記を怠るデメリットは、過料のペナルティだけではない点にも注意しましょう。特に不動産を相続する場面で、深刻なトラブルに繋がる可能性があるのです。
このコラムでは、相続問題に詳しい弁護士が、住所変更登記の義務化や、相続手続きに与える影響について解説します。不動産をお持ちの方や、将来的に不動産の相続が発生する方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも住所変更登記とは、不動産登記簿に記録されている不動産所有者の住所について、引っ越しなどにより変更が生じた際に、現住所へ更新する手続きです。
これまで住所変更登記は任意とされていましたが、なぜ義務化に至ったのでしょうか。その背景には、日本社会が直面している深刻な問題が存在します。
住所変更登記が義務化された最大の理由は、日本全国で深刻化している「所有者不明土地」の問題です。
所有者不明土地とは、不動産登記簿などを確認しても所有者が判明しない土地や、所有者は判明していても所在不明で連絡が取れない土地のことです。
政府によれば、全国の土地のうち、不動産登記簿のみでは所有者の所在が判明しない土地の割合が約23%。その面積は九州より広いともいわれています(参照:政府広報オンライン)。
こうした土地が放置されると、次のような問題が生じる可能性があります。
そして、この所有者不明土地の発生原因の約3割が、住所変更登記の未実施によるものとされています。
住所変更登記は重要な制度であるにもかかわらず、十分に行われてこなかったのには理由があります。
最大の要因は、これまで義務ではなく、未実施でもペナルティがなかった点です。固定資産税の納付など日常生活に直接の支障がないことも、手続きを後回しにする一因でした。
また、手続きの煩雑さも無視できません。現在ではオンライン申請も可能となり利便性は向上していますが、それでも必要書類の収集や登録免許税の負担などが求められます。
その結果、不動産の売却や担保設定といった「必要に迫られたタイミング」でまとめて手続きを行うことが一般的になっていたのです。
住所変更登記の義務化は、所有者不明土地対策の一環ですが、国が講じた施策はこれにとどまりません。
住所変更登記の義務化に先立って、2024年4月に相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、「相続を知った時から3年以内」に登記申請を行う必要があります。
このように、「相続登記」と「住所変更登記」を一体的に義務化することで、所有者不明土地の発生を抑制しようとするのが制度改正の狙いです。いわば両者は、所有者不明土地の問題に対処するための「車の両輪」に位置付けられています。
不動産を所有した後に引っ越しをしたものの、これまで住所変更登記を行ってこなかった人も少なくないでしょう。
しかし、登記申請が義務化されたため、登記簿上の住所と現住所が一致していない状態を放置することはできません。ここでは、義務化の具体的な内容や注意点を整理します。
住所変更登記の対象となるのは、すべての不動産所有者(所有権の登記名義人)です。
個人に限らず、法人も対象となり、本店所在地の変更についても登記が必要です。また、外国籍の人も、日本国内に不動産を有していれば対象となります。
申請期限は「住所の変更日から2年以内」です。この期間内に手続きを行う必要があるため、転居後に必要な対応として認識しておく必要があります。
注意すべき点として、2026年4月の施行以前に行われた住所変更も、未登記であれば義務の対象となります。つまり、たとえ10年以上前の転居であっても、登記が未実施であれば申請が必要です。
もっとも、制度開始に伴い2年間の猶予期間が設けられているため、2028年3月末までに申請すれば問題ありません。過去に住所変更登記をしていない場合でも、慌てず計画的に対応することが重要です。
変更登記の対象は住所に限られません。個人の氏名変更や法人の名称変更についても義務化の対象となります。
たとえば、結婚や離婚により氏名が変更された場合は、変更日から2年以内に登記申請を行う必要があります。
戸籍上の手続きのみで済ませ、登記の変更を行っていない人も少なくないでしょう。過去に氏名変更があった場合も含め、未実施の登記申請がないか確認しておくことが重要です。
義務化にあわせて導入されたのが、「スマート変更登記(職権登記)」です。
スマート変更登記は、一定の要件を満たすことで、不動産所有者が自ら申請しなくても、法務局が職権で住所変更登記を行う制度です。
利用するためには、あらかじめ個人の氏名(ふりがな)や住所、生年月日、メールアドレスなどの情報を、法務局に提供する「検索用情報の申出」を行う必要があります。その後、法務局が住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の情報をもとに住所や氏名の変更の有無を確認し、本人の同意を経て登記が実施されます。
ただし、法人の場合は商業登記簿との連携により、登記官が職権で登記内容の変更を行うため、同意は必要ありません。
スマート変更登記の利用により、申請漏れの防止や手続負担の軽減が期待されます。もっとも、海外居住者は対象外であることや、法務局の確認が原則として2年に1回なので、変更のタイミングによっては即時に反映されない点に留意が必要です。
住所変更登記の義務化に伴い、住所変更があったのに登記申請しなかった場合はペナルティの対象となります。
具体的なペナルティとしては、正当な理由がないのに住所変更登記の義務を怠ると、5万円以下の過料が科される可能性があります。過料は刑事罰である罰金とは異なり前科は付きませんが、行政上の制裁として裁判所の決定により金銭の支払いが命じられる制裁です。
もっとも、義務に違反したからといってすぐに過料が科されるわけではありません。
法務局が義務違反を把握すると、登記申請を求める催告が行われ、催告に応じれば過料は科されません。催告に応じず放置した場合に過料の手続きに進むことになります。
住所の不一致は、ほかの登記申請時や住基ネットとの連携によって把握される可能性があるため、「見つからないだろう」と放置するのは危険です。
過料が科されるのはあくまでも、「正当な理由がないのに怠った」場合です。たとえば、不動産の所有者が次のようなケースに当てはまる場合、変更登記を申請していなくても「正当な理由がある」と認められると考えられます。
また、これらのケースに当てはまらない場合でも、個別具体的な事案に応じて「正当な理由」に該当するかが判断されます。
変更登記を怠るリスクは過料だけではありません。むしろ、より大きな不利益に繋がる可能性があることを理解しておきましょう。
具体的には、不動産を売却したり、担保を設定したりする場合、登記簿上の住所が最新であることが前提となります。もし、住所変更登記をしていなければ事前に手続きが必要となり、取り引きの遅延やスケジュールの見直しを余儀なくされることがあります。
状況によっては、契約条件の不利な変更や取り引き自体が中止するリスクも否定できません。
また、登記簿上の住所が古いままだと、第三者からの連絡や権利関係の確認に支障が生じることがあります。境界確認や近隣トラブルの場面で連絡が届かず、知らないうちに問題が進行してしまう可能性もあります。

住所変更登記の義務化は、相続の場面にも直接的な影響を及ぼします。すでに相続登記が義務化されていることから、複数の義務が重なることで手続きが複雑化し、相続人間のトラブルや取引の停滞につながるリスクが高まる点に注意が必要です。
ここでは、想定されるリスクと対応のポイントを整理します。
不動産を相続した場合、「3年以内の相続登記」と「2年以内の住所変更登記」という2つの義務への対応が必要となるケースが少なくありません。
たとえば、相続により不動産を取得した後、相続登記を行わないまま転居した場合には、両方の登記を並行して進める必要が生じます。このようなケースでは、手続きが一気に煩雑化し、対応の遅れがさらなる負担を招くおそれがあります。
被相続人(亡くなった方)の住所が登記上の住所と一致していない場合、手続きは一層困難になります。
相続登記では、「登記名義人と被相続人が同一人物であること」の証明が不可欠ですが、住所が一致しない場合には、戸籍の附票や不在住証明書などの追加資料を収集しなければなりません。
これらの資料が揃わなければ登記手続きは進まず、不動産の売却や遺産分割のスケジュールにも重大な影響を及ぼします。
住所の不一致による問題は、単なる手続き上の負担にとどまりません。
遺産分割の場面では、一部の不動産について登記が進まないことにより遺産分割協議が停滞したり、売却のタイミングを逃して条件変更を余儀なくされたりするケースもあります。
さらに、相続人間で手続きの負担や対応方針を巡る意見対立が生じれば、紛争に発展する可能性も否定できません。
特に注意すべきは、相続登記が未実施のまま次の相続が発生する「数次相続」です。関係者が増加した結果、所在不明者や非協力的な相続人が含まれると、調停や訴訟といった法的手続きによる解決を余儀なくされることもあります。
登記申請には「2年以内」「3年以内」という期限が定められていますが、こうしたリスクを回避するためにも、可能な限り早期に対応することが重要です。
住所の不一致を契機として、問題が「不動産の権利関係を巡る争い」に発展した場合、もはや単なる手続きの問題ではなく、法的紛争の領域に入ります。
相続人間で意見対立が生じている場合や、遺産分割協議が停滞している場合には、早い段階で弁護士が関与することにより、法的観点からの整理と適切な解決方針の提示が可能になります。
また、調停・審判といった手続きを見据えた対応が必要となる場面では、代理人としての弁護士の関与が不可欠です。
トラブルを回避するためには、まず自身や家族名義の不動産について、登記上の住所が現住所と一致しているかを確認することが出発点となります。不一致がある場合には、早期に是正しておくことで、将来の相続がトラブルに発展するリスクを低減することができます。
もっとも、転居回数が多い場合や被相続人の住所履歴の追跡が困難な場合、すでに相続が発生している場合などには、手続きの進め方を誤ることで、かえって時間とコストが増大するおそれがあります。
住所変更登記は一見すると形式的な手続きに見えますが、手続きの放置が相続全体の停滞や紛争の引き金となることは少なくありません。状況に応じて、早期に弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

登記の不備は、相続が発生して初めて顕在化するケースが多く見られます。住所変更登記や相続登記が未実施のまま放置されていると、手続きの遅延にとどまらず、相続人間の紛争へと発展するリスクがあります。
たとえば、次のような場面では、早い段階で弁護士への相談を検討すべきです。
弁護士が関与することで、問題の全体像を整理したうえで、適切な手続きの順序や解決方針を明確にすることが可能になります。紛争に発展している場合には、遺産分割調停や審判などの法的手続きを通じて、依頼者の権利保護を図ることができます。
また、紛争に至る前の段階であっても、「どこまで自ら対応すべきか」「どの時点で弁護士に依頼すべきか」といった判断について、法的観点から助言を受けることは有益です。
登記の問題は、放置すればするほど解決が困難になります。少しでも不安がある場合には、早期に専門家へ相談することが、将来の紛争予防の観点からも重要といえるでしょう。
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