2021年3月に「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。これにより2023年4月1日から、遺産分割のルールが変わります。
具体的には、特別受益と寄与分の主張がある場合には、相続開始時から10年以内に行わなければならなくなります。
そこで今回のコラムでは、改正された遺産分割のルールのポイントや留意点について、相続に詳しい弁護士が解説します。
まず、相続は法定相続分に従った割合で行われるのが原則です。
法定相続分とは、遺産の総額に対して各法定相続人が取得できる遺産の取得割合のことで、民法に定められている割合のことを指します。
たとえば、相続人が配偶者と子どもの場合はそれぞれ2分の1ずつ相続しますが、相続人が配偶者と被相続人の親の場合では、配偶者が3分の2、親が3分の1になるなど、相続人の立場によって異なります。
これに対して、法定相続分をベースとして、後述する特別受益や寄与分がある場合に、これらの要素を加味して相続分を修正することができます。これを具体的相続分と呼びます。
そして、改正民法の施行後に、具体的相続分にもとづく割合で遺産分割を希望する場合は、10年以内に特別受益や寄与分を主張する必要があります。
10年が経過した場合には、具体的相続分ではなく、原則として法定相続分で相続することになります。
特別受益とは、被相続人から生前贈与や遺贈などにより得た利益のことを指します。
遺産分割協議をする際、特別受益を受けた相続人がいる場合は、持戻し計算が行われ、すでに財産を受け取った相続人の相続財産が、法定相続分より少なくなります。
なお、特別受益に該当するケースは、次のものが考えられます。
寄与分とは、特定の相続人が、被相続人の財産の増加・維持に特別な貢献をした場合に認められる遺産取得割合のことです。
たとえば、被相続人の介護をするために仕事をやめ、献身的な介護をしていた場合などに認められる可能性があり、このような場合には法定相続分よりも高い割合で相続することができます。
なお、次の要件を満たした場合に寄与分が認められる可能性があります。
≪寄与分の認定要件≫
特別受益や寄与分の制度があることで、公平な相続を実現することができます。
しかし、相続開始時から10年が経過した場合は、特別受益や寄与分を加味した具体的相続分での相続ができなくなりますので、注意が必要です。
10年が経過した後でも、次の①または②の場合は、例外的に具体的相続分での相続ができます。
≪10年経過後に具体的相続分で相続できる場合≫
相続開始時から10年が経過する前に、家庭裁判所へ遺産分割請求(調停や審判の申立て)が行われていた場合。
相続開始時から10年の期間が満了する前の6か月以内に、遺産分割の請求ができないやむを得ない事由があった場合、その事由が消滅した時から6か月経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求の調停や審判の申立てを行っていた場合。
遺産分割や相続人・遺産の範囲などに争いが生じている場合、遺産分割協議が成立せず、協議が決裂することがあります。
2023年4月1日以降は、10年以内に遺産分割協議が成立しなければ、法定相続分での相続になりますので、具体的相続分で相続したい場合は10年以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。
もし協議が決裂した場合には、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を請求しましょう。
相続開始時から10年が経過する前に家庭裁判所へ遺産分割調停・審判が請求されていた場合は、たとえ10年経過後でも、特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分での相続が可能です。
また、相続開始時から10年が経過する前の6か月以内に、やむを得ない事由(被相続人が遭難して死亡したが、死亡の事実が明らかでないことから遺産分割請求ができないなど)があり、この事由が消滅したときから6か月以内に、家庭裁判所へ遺産分割調停や審判を請求した場合には、具体的相続分で相続することができます。
そのため、遺産分割協議がまとまらない、やむを得ない事由がある場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停・審判を請求するとよいでしょう。
改正民法が施行される2023年4月1日以降、すでに相続開始時から10年以上経過していたり、遺産分割協議を5年以上しているなど、様々なケースが考えられます。
また、相続開始時から10年以上経過している場合には、特別受益や寄与分の主張ができないのか、不安に思う方もいることでしょう。
この改正民法の適用時期には、次のような経過措置が設けられているので、10年が経過していても、特別受益や寄与分を主張することができます。
≪改正民法における経過措置≫
特に、改正民法が施行されたときに、相続開始時からすでに5年が経過している場合は要注意です。
相続開始時から10年以上経過していたり、5年以内の場合は、5年の猶予期間が付与されますが、相続開始時から5年を経過している場合は、猶予期間は付与されず、満10年が経過するまでに遺産分割を成立させる必要があります。
相続では、遺産・相続人の範囲や遺産分割の内容について相続人全員が納得せず、協議が決裂し、争いに発展することがあります。
このことを、いわゆる「争族」と表現しますが、もし、争族になってしまった場合には、相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、依頼者に代わって、他の相続人と交渉することができますし、遺産分割の前提である遺産・相続人の範囲が決まっていない場合も、調停や審判、場合によっては訴訟手続きも任せることができます。
弁護士に依頼することで、借金などのマイナスな財産の取り扱い(相続放棄)や、相続手続きの手間を省くことができるだけでなく、相続人全員が納得する内容で相続することができます。
相続の協議が進まないなどのお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人プロテクトスタンスにご相談ください。