昨年は、新型コロナウィルス感染症の蔓延という、これまで経験のない一年となりました。
また、今年は早くも11都府県に緊急事態宣言が発令されるなど、2021年も波乱の幕開けとなりました。
先月のコラムでは、昨年秋の臨時国会で民法特例法を中心に、10数本の法律が成立・改正されたことをお伝えしました。
そこで今回は、その中でも著作権法の改正について、弁護士が分かりやすく解説していきます。
著作権法の改正について触れる前に、著作権の侵害について簡単に触れておきましょう。
著作権法上、著作権の侵害行為は、著作者人格権の侵害と著作財産権の侵害とに大きく分けることができます。
著作者人格権の侵害行為とは、たとえば、著作者の同意を得ずに未公表のノベルズを発表したり(公表権の侵害)、マンガの結末を変更したりすること(同一性保持権の侵害)などです。
著作財産権の侵害とは、著作者の許諾を得ずに著作物を利用する行為です。たとえば、インターネット上に掲載されている写真を著作者に無断で自身のホームページに利用したりすれば、複製権や公衆送信権の侵害になります。
そして、著作権の侵害は、①他人の著作物に依拠して(真似て)、その著作物と実質的に同一または類似のものを、③法律で定めている禁止行為(著作権法第21条~28条、同第113条)を行ったかどうかで判断されます。
著作権が侵害された場合、権利者は次のような法的措置を取ることができます。
(1)差止請求
著作権を侵害している者、または侵害するおそれがある者に対して、侵害の停止や予防を請求することができます(著作権法112条)。
この場合、侵害者の故意・過失は必要ありません。
(2)損害賠償請求
著作権の侵害によって生じた損害に対して、その金銭的な賠償を請求できます(民法709条)。
この場合、侵害者の故意・過失が必要であり、3年で消滅時効にかかります。
また、特許権や意匠権などとは異なり過失の推定規定はありませんが、立証の困難さを救済するため、損害額の推定規定はあります。
(3)慰謝料請求
財産的な損害だけでなく、精神的な損害についても、その賠償(慰謝料)を請求することができます(民法710条)。
(4)不当利得返還請求
著作権の侵害によって侵害者が得た財産的な利益は、法律上の正当な理由にもとづくものではありません(民法703条)。
そのため、侵害者に対しては、自己の受けた損失を限度として、その利得を返還するよう請求できます。この場合の消滅時効は10年です。
(5)名誉回復等の措置の請求
著作権の侵害者に対して、名誉・声望を回復するための適当な措置を請求することができます(著作権法115条)。たとえば、新聞やインターネット上への謝罪広告の掲載です。
(6)刑事罰
上記とは別に、著作権の侵害者には刑事罰(懲役刑または罰金刑)が科される可能性があります。ただし、意図的な侵害である故意犯の処罰に限られますので、過失(不注意)による侵害の場合は、刑事罰は科されません。
それでは、昨年の10月1日に施行された改正著作権法について見ていきましょう。この主な改正点は、インターネット上の海賊版対策の強化です。具体的には「リーチサイト」に関する取り締まりが新たに制定されたことです。
これまでは、著作権者の許可なく、著作物を勝手にホームページにアップロードすることが違法となっていました。
しかし、膨大な情報量のあるインターネットの世界では、そのような違法サイトに簡単にアクセスできるように、リンクなどの情報を提供するサイト(リーチサイト)の存在が、著作権侵害を助長しているとの指摘がなされてきました。
そのため、昨年10月からリーチサイトについても取り締まりの対象となり、下記の罰則が科せられるようになりました。
リーチサイトの運営者 | (刑事罰) 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金もしくは両方 |
---|---|
リーチサイトの情報提供者 | (刑事罰) 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金もしくは両方 |
(民事上の責任追及) 侵害行為の差止請求、損害賠償請求など |
リーチサイトが処罰の対象となることで、リーチサイトが無くなり、一般ユーザーからの違法サイトへのアクセスが遮断されることが期待されています。
昨年10月の主な改正点は、違法サイトへの誘導や情報提供を行うリーチサイトの取り締まりを強化したことでした。
これに対し、今年1月から施行された著作権法の改正点は、インターネット上にアップロードされている著作物が、違法であると知っていながら、自分のパソコンやスマートフォンなどにダウンロードあるいは入手した場合の規制が強化されました。
つまり、違法ダウンロードの取り締まりの強化です。
これまで、著作物を違法にインターネットにアップロードをすることが違法とされてきました。
しかし、ダウンロードの場合は、違法にアップロードされた音楽と映像を、違法と知りながらダウンロードをすることが違法とされており、その対象が音楽と映像に限定されていました。マンガやイラストなどは除外されていたのです。
今回の改正では、規制対象が拡大され、すべての著作物が対象となりました。
音楽や映像以外にも、マンガやイラスト、書籍や論文、コンピュータープログラムなども含みます。
そして、たとえ私的利用であったとしても、違法にアップロードされた著作物(海賊版)を入手・ダウンロードすることも取り締まりの対象となりました。
もちろん、ダウンロードそれ自体が直ちに違法となるのではなく、「違法にアップロードされたと知りながら」行うことが前提です。
また、文化庁は、ダウンロードが軽微なものである場合は規制の対象外と説明しています。
たとえば、下記のような行為は規制対象外と位置付けられています。
今回改正された違法ダウンロードに関する罰則をまとめると、次のようになります。
著作物(音楽、映像、書物など)が違法にアップロードされていることを知りながらダウンロード・入手すること | (民事上の責任追及) 侵害行為の差止請求、損害賠償請求など |
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有償で提供されている正規の著作物の海賊版を反復または継続してダウンロード・入手すること | (刑事罰) 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金もしくは両方 |
※いずれも軽微な場合を除く
昨年の10月、今年の1月の2回に分けて行われた著作権法の改正は、私的利用の場合であっても違法ダウンロードは処罰される対象になります。
そのため、見方によっては大変厳しい改正が行われたと指摘する声もあります。
しかし、違法ダウンロードや海賊版といった非正規のルートで入手する方法が常態化してしまうと、権利者が社会的にも経済的にも保護されず、新たな作品を作ることが萎縮されていきます。
最終的には、文化の発展という著作権法が目指す目的が達成されないでしょう。
つまり、私たち一般消費者にとっても、新たな作品や優れた作品に触れる機会を失ってしまうことになるのです。非正規ルートでの違法な入手は、今すぐに止めるべきです。
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