12月上旬、臨時国会が閉会しました。今回の臨時国会では、新たに10数本の法案が成立・改正されました。
その中には、新型コロナウイルスのワクチン接種費用を国が全額負担することを定めた改正予防接種法や、ハガキや手紙などの普通郵便の土曜日の配達を休止とする改正郵便法など、私たちの生活にとって身近な内容の法改正も含まれています。
それ以外にも注目すべき法律があります。それは、不妊治療で第三者からの精子・卵子の提供で生まれた場合に、子どもと親の関係を明確に定めた民法特例法の成立です。
不妊治療に関しては、菅総理が保険適用の拡大の方針を打ち出すなど、いま改めて注目されています。
不妊治療や代理出産など、科学の進歩により様々な方法で子どもを授かる夫婦が増えています。
しかし、その一方で、不妊治療や代理出産で生まれた子どもの親が誰であるのかといった問題に対し、現在の法制度は完全に整備されているとはいえません。
そこで、今回のコラムでは、子どもと親に関する法律を見ていくことにしましょう。
親子関係を法的に明確にすることは必要です。なぜなら、民法には「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う(民法第837条)」という規定があり、親権を持つもの、ほとんどの場合、親の子どもに対する義務を明文化しているからです。
そのため、誰が親であるのかを明確にしなければ、子どもの監護や教育を適切に行うことができません。
1-1.父と子の法律関係
法律上、子どもの実の父親が誰になるのかという点は、婚姻関係にある男女の間に生まれた子ども(嫡出子)と、婚姻関係のない男女の間に生まれた子ども(非嫡出子)であるかによって、違いがあります。
嫡出子であれば、夫(父親)は、自分の妻との間に生まれた子どもですから、特別な手続きを経なくても、自分が父親であると名乗ることが可能です。
一方、非嫡出子の場合は、夫つまり父親が、役所に対して認知届を提出することによりはじめて、自分が父親であることを名乗れるようになります。
1-2.母と子の法律関係
一方、誰が母親であるかという点に対しては、認知などの特別な手続きを経る必要はありません。
つまり、出産したという事実により、当然に出産した女性=母であるという母子関係が成立するのが、現在の法制度です。
しかし、体外受精など、第三者からの受精卵などの提供によって生まれた子どもの母親を、実際に出産した女性とするのか、受精卵を提供した遺伝子上の繋がりを持った女性とするのか、長年議論が交わされてきました。
今回成立した民法特例法には、長年議論されてきた体外受精、つまり、第三者から受精卵などの提供を受けて生まれた場合の親子関係について明文化されています。
その具体的な中身としては
であることが明文化されました。
しかし、今回成立した民法特例法では、実際に生まれてきた子どもが、自分の遺伝子上の親が誰であるかを知る「自分の出生を知る権利」については触れられていません。
また、代理出産についても具体的に言及されていません。
代理出産とは、夫婦の受精卵を第三者の女性(代理母)の身体に移植させ、代理母が出産する方法のことをいいます。
この方法では、夫婦の受精卵を使用するので、遺伝的には自分の子どもであることには争いがありません。また、現在の日本においては、法律で禁じられているわけではありません。
しかし、日本産科婦人科学会や政府などにより、代理母となる人物の母体保護や、代理母を生殖の手段の商売道具として扱いかねないという倫理的観点から禁止されています。
そのため代理出産を希望する夫婦は、海外に渡航して代理出産を行っているのが現状です。
そのため、莫大な費用が発生するという経済的な負担が問題視されています。その他、代理母が子どもを引き渡さないトラブルも発生しています。
また、海外で代理出産をする夫婦が多い現状、新型コロナウイルスの渡航禁止の影響を受け、現地で生まれた子どもを迎えに行けないといったトラブルが報告されています。
さらに、現在の法制度では産んだ人(代理母)が母親となるため、夫婦としては、実の子どもとしてではなく、生まれた子どもと養子縁組をしなければ、自分の子どもとして育てる方法がありません。
確かに、代理出産については、医療技術的には可能だとしても、クリアしなければならない問題が数多く残されています。
一方、厚生労働省が行った調査では、代理出産制度を容認すべきとの意見が半数を超えるとの調査結果が公表されています。
加えて、実際に代理出産をした夫婦や、代理出産を経て生まれてきた子どもの保護のために、代理出産に関しても、法律上保護すべきではないかという声も少なくありません。
そのような指摘を受けて、今回改正された民法特例法においても、今後2年を目途に、代理出産などの制度を見直すべきとされています。
現在の法制度の範囲内において、子どもをめぐる法律問題で、弁護士が携われることは、生まれた子どもの認知の訴えなど、限りがあるかもしれません。
しかし、子どもの健全な発育を考えれば、認知の請求や養育費の支払い請求など、可能なことは全て検討すべきです。
今年も養育費の未払い問題について、民事執行法が改正され、以前より未払い養育費が回収し易くなったという事実もあります。
子どもの認知の問題をはじめ、子どもに関する法律問題でお困りの際は、弊事務所までご相談ください。
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