広告・マーケティング業界では、「薬機法の改正」がターニングポイントになるといわれています。特に健康食品やサプリメント、化粧品といったヘルスケア業界への影響度は高く、担当者は広告技術やクリエイティブ制作の前に、薬機法の知識と法令順守が必須となります。
また、ヘルスケア関連の広告は、一般消費者の方が日常的に触れる機会の多いものです。
そこで今回は、2021年8月1日に施行される薬機法の改正について、弁護士が解説します。
薬機法とは、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』といいます。かつては、薬事法と呼ばれていました。
薬機法は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品といった、人体に影響のある商品(医療品等)の広告行為に適用される法律であり、過剰または虚偽の広告で消費者に間違った認識を与えることを防止するために定められています。
このような「医薬品等」ヘルスケア関連商品の需要増加にともない、広告市場も拡大し、虚偽・誇大広告も急増していきました。今までの薬機法では増え続ける悪質な広告を抑制しきれなくなったため、消費者の安全を守るために改正が行われたという背景になります。
2021年8月の薬機法改正では、課徴金制度が導入されます。その概要は次の通りです(薬機法第75条の5の2第1項)。
大切なポイントは、利益に対して課徴金が課されるのではなく、売上に対して課されるという点です。
たとえば、1,000万円の売上で利益が100万円だった場合、45万円を課徴金として納付しなければいけません。4.5万円ではないのです。
このケースだと、薬機法違反があった場合は、利益の約半分を課徴金で失うことになります。
金銭的な損失のほかにも、企業ブランドの失墜や消費者によるネット炎上・ネットリンチなどにもつながりかねないため、薬機法違反による損失は計り知れないほど甚大であるといえるでしょう。
また、規制対象者は企業だけではありません。薬機法の規制対象には「何人も」と規定されており(同法第66条1項および第68条1項)、広告主、広告代理店、アフィリエイター、インフルエンサーといった、広告に関わるすべての事業者や個人が規制対象となります。
従来の薬機法にはこの課徴金制度がなかったため、悪質な広告であったとしても起訴・有罪にされない限りは罰金等を徴収することが困難でした。
そのため、抑止効果が働きにくく、虚偽・誇大広告が多く出回り、直截的な表現をすれば「やったもの勝ち」「結果として逃げ得」といった状況が長らく続いていました。
また、コロナ禍が長期化するとともに、除菌効果をはじめ免疫力アップや感染予防などを標榜する広告・商品が市場に増加しました。
そのような効能効果をうたう広告の中には、優良誤認表示として行政処分を受ける事例なども相次ぎ、以前より求められていた法整備による広告市場の健全化への動きが加速化しました。
こういった背景事情もあり、悪質な広告を排除し消費者の安全を守るため、薬機法が改正されて課徴金制度が導入されたのです。
前述した通り、薬機法の規制対象は企業や法人だけではありません。「何人も」と規制対象が設定されていることから、違反広告に関わった全ての関係者が対象となります。
そのため、医薬品等(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品)に携わる仕事をしている方は避けて通れない法律です。
「法の不知はこれを許さず」との法諺にもある通り、「知りませんでした」では済まされず、あまりに悪質な場合は逮捕に至るケースもあります。
抜本的な対策としては、薬機法を理解・遵守した広告や企業活動を行うよりほかありません。この分野に詳しい弁護士によるリーガル・チェックを受けることは必須ですし、ヘルスケア業界に携わるすべての方は、今回の改正をきっかけに薬事法へのリテラシーをしっかり高める必要があります。
2021年8月の薬機法改正により、課徴金制度が導入された背景と理由について解説しました。
今回の改正では、基本的な部分は大きく変わりませんが、抑止効果を狙った課徴金制度が追加されたという結論になります。
そして、この背景には、増加する虚偽・誇大広告による違法行為を抑制し、消費者の安全を守る目的があります。
また、薬機法は、課徴金制度の導入をはじめとして、近年厳罰化の傾向も見せています。
2020年に起こった通称「ステラ漢方薬事件」では、広告主や広告代理店関係者が逮捕され、広告業界に震撼が走りました。
その後も、薬機法違反商品の広告を出稿していた単品通販会社をはじめ、関連の広告代理店勤務者が逮捕されるケース、個人アフィリエイターやインフルエンサーが摘発を受けるケースなども出ているため、決して他人事ではないといえるでしょう。
薬機法をしっかり理解することはもちろんですが、弁護士によるリーガル・チェックを徹底するなど、万全を尽くした対策を行うことをおすすめします。
弊事務所では、広告・マスコミ業界はもちろん、医療・美容・化粧品関連業界などの法律顧問を数多く務めております。
弁護士によるリーガル・チェックにもスピーディに対応しておりますので、自社の薬機法対策にお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。