成人年齢を18歳に引き下げる改正民法が2022年(令和4年)4月1日から施行されました。18歳になると親権に服さないことから、新成人は親の同意なしに単独で契約を行えるようになりました。
また、インターネット上のECサイトが普及し、非対面での契約行為が簡単になったことから、消費者と事業者間におけるトラブルが噴出しています。
実際に、消費者庁がまとめた2020年の消費生活相談の内容では、「通信サービス」に関するトラブルが最も多いとされています(15.4万件)。
今後も、ますます消費者保護の必要性が高まるといえるでしょう。
このような背景から、2022年6月1日に改正消費者契約法が公布され、公布日から起算して1年を経過した日に施行されることになっています(以下、本改正を「令和4年度改正」と呼びます)。
そのため、ECサイトなどを運営している事業者は、令和4年度改正の内容を正しく理解し、適切な対応を行っていく必要があります。
そこで、今回のコラムでは、消費者契約法における令和4年度改正のポイントを消費者問題に詳しい弁護士が解説していきます。
改正のポイントを解説する前に、まずは消費者契約法の目的やその意義について、見てみましょう。
消費者契約法とは、消費者と事業者間で行われる取引についての情報量や知識、交渉力の格差などを踏まえ、不利な立場にある消費者を保護することを目的にしています(消費者契約法第1条)。
そもそも、契約の内容や方式、その締結の判断などは、当事者の自由意思にもとづいて行われるのが原則です(契約自由の原則:民法第521条)。
しかし、消費者と事業者間で行われる契約では、消費者が一方的な不利益を被ってしまう危険性が非常に高くなります。
これを防止するため、2001(平成13)年に消費者契約法が制定されました。
同法は、不当な勧誘により締結した契約の取り消しや不当な契約条項を無効とするなどの内容を規定しており、消費者保護の観点から大きな意義を有しています。
また、時代に即した内容とするため、これまでも数回にわたって改正が行われています。
そのため、同法の改正が行わるたびに、事業者はその改正の趣旨を正確に認識し、改正内容に則した事業活動を展開していかなければなりません。
それでは、令和4年度改正のポイントを、以下に詳しく解説します。
現行の消費者契約法では、消費者が契約の重要事項について、事業者から事実と異なることを告げられた場合(不実告知)や、消費者の不利益になることを告げなかった場合(不利益事実の不告知)などでは、契約を取り消すことができると定められています。
そして、令和4年度改正では、この取消権について下記の場合が追加されました。
従来の不当勧誘の類型には「退去妨害」(同法第4条3項2号)があります。
これは、たとえば、「帰りたいのに帰してくれない」という場合が該当しますが、(1)は、そもそもこのような状況に陥ることを事前に防止するために規定されました。
また、(2)の通り、消費者が取引について第三者に相談することを、事業者が威迫する言動を交えて妨害した場合も取消権の対象となります。
ここでいう「威迫」とは、「脅迫に至らない程度の人に不安を生ぜしめるような行為」と考えることができます(経済産業省通達「特定商取引に関する法律等の施行について」)。
たとえば、「買ってくれないと困る」などと大声で荒げる行為や「残金を支払わないと現住所に住めなくする」と言われた場合などが該当します。
(3)は、原状回復を著しく困難にする範囲が拡大し、「事業者による義務の内容の実施ではないもの(本来ならば事業者が行う必要がなかったもの)」が含まれるとされました。
たとえば、契約をする際に商品の実物に触れるためとして、購入予定の商品パッケージを事業者が開封してしまうことなどが該当します。
事業者が新たに追加された(1)~(3)の行為を行った場合には、取消権の対象となるため、このような行為を行わないようにしなければなりません。
現行の消費者契約法第9条では、契約の解除に伴う損害賠償や違約金の金額について、平均的な損害額を超えるもの(同条1項)や、年率14.6%で算出した額を超える(同条2項)場合は、無効であると定めています。
この点、令和4年度改正では、契約解除に伴う損害賠償の額を予定し、違約金の請求を定める場合に、消費者から説明を求められた際には、これらの金額の算定根拠を説明する努力義務が新設されました。
なお、「適格消費者団体」とは、内閣総理大臣が消費者契約に関する差止請求を行うに必要な専門性や適格性を有すると認定し、消費者の利益を擁護する団体です。現在まで、全国に23団体が設立されています。
事業者は、適格消費者団体からも損害賠償の額および違約金の算定根拠を説明するよう要請を受けた場合、これに応じるよう努めることが新設されました(ただし、営業秘密を除く)。
努力義務ではありますが、事業者は、日頃から損害賠償の額および違約金の算定根拠の説明を求められた場合に備えておく必要があります。
消費者契約法第8条には、事業者の損害賠償責任の免除や事業者に責任の有無を決める権限を付与する条項は無効であると規定されています。
この点、令和4年度改正では、下記の条項が新設されました。
たとえば、「軽過失の場合は、1万円を上限として賠償します」といった内容は有効となりますが、「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します」といった内容の条項は無効となります。これは、軽過失による行為にのみ適用されるかどうかが不明確であるためです。
そのため、EC事業者などが利用規約の免責規定で、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項を設けている場合、軽過失による行為のみに適用されることを明確にするよう改訂しなければなりません。
そして、令和4年度改正では、契約の締結時のみでなく、契約の解除時にも、解約料の算定根拠の説明を含め、契約解除に必要な情報を提供することが事業者の努力義務として新設されました。
これには、いわゆる、サブスク(サブスクリプション・サービス)の解約に伴うトラブルが急増している中、適切な解約手続きを行わせる狙いもあります。
改正法では努力義務に留まりましたが、今後は、より強制力のある規定に改正されることも視野に入れなければなりません。
消費者契約法は、その名の通り、主に契約時のルールを定めた法律でしたが、解約時の規定が新設されたのは初めてのことです。それだけ、消費者保護の高まりが事業者に求められています。
また、事業者は、契約の条項として定型約款を使用する場合、消費者に定型約款の表示請求権があることを示し、その行使方法について必要な情報を提供することも努力義務として新設されました。
このように令和4年度改正では、事業者の努力義務が拡大し、契約の締結時のみでなく、解除時においても、解除に必要な情報提供を円滑に行うよう努めていかなければなりません。
消費者とのトラブルを避けるためにも、利用規約などの改訂や入念な準備が必要です。
そのため、次に記載している対策方法を参考として、速やかに取り組むとよいでしょう。
令和4年度改正により、消費者契約における消費者保護の観点から、事業者はこれまで以上の対策が必要です。
たとえば、損害賠償の額や違約金を定める際に、平均額よりも高額な場合には、消費者や適格消費者団体から算定の説明を求められる可能性が高くなります。 また、消費者契約の解除に係る情報提供についても、応じるように努めなければなりません。
このような事態を事前に回避できるよう、ECサイトを運営している事業者の場合は、その利用規約などの見直しを速やかに行うことが大切です。
この他にも、社内に消費者契約法の内容を周知し、コンプライアンスを高める、また、消費者契約法に詳しい弁護士に相談できる体制を整えるなどの措置をしておくとよいでしょう。
消費者契約法は、時代に即した内容とするため、今後も複雑な法改正が行われていくと考えられます。
改正の度に社内で利用規約などの改訂を行うことは容易ではありませんし、民法や刑法はもちろんのこと、特定商取引法や景品表示法といった、消費者契約法に関連する法令の理解も求められる場合があります。
サービスの提供フローが不適切であったり、利用規約の改訂内容が不正確な場合や、社内の従業員に正しく周知していなければ、消費者契約法に違反しかねません。
このようなリスクを排除するために、消費者契約法や消費者問題に詳しい弁護士に相談することが最善です。
この点、弁護士法人プロテクトスタンスであれば、ECサイト対策(スキーム、契約書、利用規約などのリーガルチェック)を始め、顧問弁護士はもちろんのこと、ベンチャー法務など、法人様向けのリーガルサービスを数多く取り揃えております。
また、弊事務所であれば、税理士や弁理士、行政書士、司法書士など各専門家が連携して、窓口ひとつのワンストップサービスをご提供することができます。
消費者契約法や消費者問題などに関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。