厚生労働省によると、2020年度に育児休業を取得した男性の割合は12.65%で、前年度の7.48%から5ポイント以上増えて過去最高となりました。
男性による育休取得は徐々に浸透しつつありますが、実際に取得する人はまだまだ少数派なのが現状です。
また、妊娠・出産した女性に嫌がらせをする「マタニティハラスメント(マタハラ)」や、育休を希望する(取得した)男性への「パタニティハラスメント(パタハラ)」などが話題になり、企業が批判されるケースもあります。
このような状況の中、育児・介護休業法の改正法が2021年6月に成立しました。
改正育児・介護休業法には、「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設や、育休の分割取得など、育休取得を促す様々な制度が盛り込まれ、今年4月から段階的に施行されます。
そこで今回のコラムは、育児・介護休業法の改正のポイントと、法改正にあたり企業側に求められる対応を説明します。
多くの従業員が育休を取得すると、業務に支障が生じると考えるかもしれませんが、育休取得の推進は従業員の定着や優秀な人材の確保に繋がるといった様々なメリットがあります。
ぜひ最後までお読みいただき、育休取得の推進にお役立てください。
現行の育休制度は、原則として子どもが1歳(保育園に入園できないなどの事情があれば最長2歳)になるまで取得できます。
ただし、原則として1か月前までに取得を申請する必要がある、分割して取得できない(子どもの出生後8週間以内に父親が育休取得した場合を除く)、休業中は就労できないといった様々なルールがあります。
改正育児・介護休業法では、育休をより柔軟に取得できるようにするため、以下のような制度が実施されます。
1-1. 産後パパ育休を創設
女性は子どもの出産後、8週間の産後休業が認められていますが、産後パパ育休では、その配偶者も子どもの出生後8週間以内に4週間の休業を、従来の育休とは別に取得できるようになります(2022年10月1日から)。
従来の育休は1か月前までに取得を申請する必要がありますが、「産後パパ育休」は原則2週間前までに短縮されます。
また、2回までの分割取得や、休業中の就業(労使協定を締結し、事業主と従業員の個別合意がある場合)が可能になるなど、従来の育休よりもより柔軟に休業を取得できます。
1-2. 育児休業の分割取得が可能に
産後パパ育休だけでなく、従来の育休についても、2回までの分割取得が可能になります(2022年10月1日から)。
現行の育休制度でも、子どもが生まれてから8週間以内に育休を取得した場合であれば、「パパ休暇」という制度により2回目の育休を取得することができますが、3回目の取得はできません。
一方、今年10月からは、創設される産後パパ育休も活用することで、誰でも4回に分けて休むことができるようになります。
出産のタイミングだけでなく、配偶者の退院や里帰り出産からの帰宅、職場復帰など、出産後の様々なイベントに合わせ、育休を柔軟に取得できるようになるのです。
また、1歳以降の育休取得も柔軟になります。
現行制度では、子どもが1歳になったときに保育所に入所できないといった事情があれば、最長で2歳まで育休を延長できます。
ただし、延長した育休の開始日は、1歳または1歳6か月に限定されるため、これらのタイミングでしか夫婦で育休取得を交代できません。
この点、改正法の施行後は開始日が限定されなくなるため、夫婦が任意のタイミングで育休取得を交代することができるのです。
●現行制度での育休取得の例
●2022年10月からの育休取得の例
※画像引用:厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」
1-3. 有期雇用労働者の育休取得の要件を緩和
現行制度では、有期雇用の従業員が育休を取得するためには、以下2点の要件を満たす必要があります(2022年4月1日から)。
① 引き続き雇用された期間が1年以上
② 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない
今年4月から①の要件が廃止され、②をクリアしていれば育休を取得できるようになります。
ただし、労使協定の締結により、4月以降も①が育休の取得要件となる場合があります。
改正育児・介護休業法の施行に向け、企業側は産後パパ育休の創設に対応する就業規則の見直しなどの対応が必要になりますが、施行後は次の点が義務化されるため注意が必要です。
2-1. 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
従業員が育休や産後パパ育休の取得を申し出やすくなるよう、企業は以下のいずれかの措置を講じなければなりません(2022年4月1日から)。
① 育休・産後パパ育休に関する研修の実施
② 育休・産後パパ育休に関する相談窓口の設置
③ 自社の育休・産後パパ育休取得に関する事例の収集・提供
④ 育休・産後パパ育休制度と育休取得促進に関する方針の周知
①の研修については、厚生労働省の資料があるので、活用してもよいでしょう。
また、上記の措置を講じるだけでなく、短期の育休はもちろん、1か月を超えるような長期休業を従業員が希望する場合も、希望どおりの休業を取得できるようにするための配慮が求められます。
なお、産後パパ育休に関する環境整備は2022年10月から対象になります。
2-2. 従業員への個別の周知と意向確認
本人または配偶者の妊娠・出産などを従業員が申し出た場合、企業側は育休・産後パパ育休について個別に周知するとともに、取得するかどうかの意向を確認しなければなりません(2022年4月1日から)。
周知する事項は、制度の概要や取得の申し出先、育児休業給付や育休期間中の社会保険料の取り扱いについてなどです。
周知と意向確認の方法は、面談(ウェブも可)や書面交付などで行うほか、従業員が希望した場合はファックス、メールも認められます。
なお、環境整備と同様に、産後パパ育休に関する周知と意向確認は、2022年10月から対象になります。
2-3. 育休の取得状況の公表
常時雇用する従業員が1,000人を超える企業は、男性従業員の育休の取得状況などを年1回公表することが義務付けられます(2023年4月1日から)。
公表は、自社のホームページだけでなく、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」などでも行うことができます。
企業が育児・介護休業法の規定に違反すると、企業名の公表や罰金といったペナルティを受ける可能性があるため、改正の内容を理解して適切に対応する必要があります。
対応に不安がある場合は、企業法務や人事・労務に詳しい弁護士、社会保険労務士といった専門家に相談することをおすすめします。
弊事務所は、上場企業からスタートアップのベンチャー企業まで、様々な法人や個人事業主さまと顧問契約を締結しております。
業種も不動産やインターネット関連、医療法人など多岐にわたります。
また、人事・労務の専門家である社会保険労務士など、弁護士以外のプロフェッショナルも在籍しており、改正育児・介護休業法への対応に関するお悩みへの解決策を、ワンストップサービスでご提供することが可能です。
もちろん、マタハラやパタハラといったハラスメント問題など、様々な労働問題に関するご相談も承りますので、どうぞお気軽にご相談ください。