2022年6月22日に、約10億円もの持続化給付金を不正受給して、詐欺容疑で逮捕された事件が発生し、話題となりました。
それ以前にも、不正受給は相次いで発生しており、2022年6月23日時点の中小企業庁が作成した「持続化給付金不正受給認定一覧」によると、個人事業主・法人合わせて1,285者が不正受給をしたと認定されています(被害額は約13億円)。
そこで、今回のコラムでは、不正受給をした場合にどのような法的責任や罪に問われるのか、弁護士が詳しく解説します。
不正受給の判断は、2つの基準によって行われます。
1-1. 虚偽の基本情報を記載する
持続化給付金の申請時には、すでに受給している事業主や受給対象外である事業主に受給することを防ぐために、屋号・商号や所在地などを示さなければいけません。
この申請に必要な基本情報を偽って受給すると、不正受給となります。
1-2. 収入の状況を虚偽申告する
持続化給付金の受給対象は、2020年1月以降において、売上が前年同月比50%以上減少している事業主です。
これに該当する場合には、中堅・中小企業、小規模事業主では上限200万円、個人事業主(フリーランスを含む)では上限100万円の給付金が支給されます。
申請書類には、確定申告書類の控えや売上台帳の写しなどを提出する必要がありますが、売上が50%以上減少したように売上を偽って記載した書類を提出したり、売上減少の理由が新型コロナウィルスの影響によらないのに申請したりして、給付金を受け取った場合は不正受給となります。
※なお、2021年2月15日時点で、持続化給付金の申請は終了しています。
持続化給付金を不正受給すると、下記の法的責任を問われ、また、刑罰の対象となります。
2-1. 給付金の全額返還・延滞金などの支払い義務
持続化給付金の不正受給による法的責任をまとめると、次の通りになります。
出典:持続化給付金規定第10条
このように、不正受給した給付金の全額返還を求められるだけでなく、延滞金や加算金を合わせて支払う必要があります。
なお、個人事業主が不正受給をした後、給付金の返済ができないがために自己破産をしたとしても、不正受給した給付金の返還義務は無くなりません(非免責債権)。
つまり、不正受給した持続化給付金は必ず返還することになります。
また、給付金の返済ができないことで法人が自己破産した場合には、詐欺破産罪(破産法265条)に問われる可能性がありますので、注意が必要です。
2-2. 詐欺罪・私文書偽造罪などの刑罰
そもそも事業の実態がない、収入は減ったが過少申告した、収入が減っていないなどの理由で申告した場合は、詐欺罪に該当する可能性があります。
詐欺罪は、罰金刑がありませんから、有罪判決が確定した場合、10年以下の懲役刑となります(刑法第246条)。
また、収入が減少したことを証明する確定申告書などの書類を偽造して使用した場合には、「私文書偽造罪」(同法第159条)および「偽造私文書行使罪」(同法第161条)が成立します。
そして、不正受給の場合、「牽連犯」(同法第54条)扱いとなり、もっとも重い罪で処罰されます(科刑上一罪)。
このように、不正受給をした場合、複数の刑罰に当てはまる可能性があります。そして、不正の内容が悪質な場合は、刑事告発を受ける可能性が高いです。
不正受給をして逮捕された後の流れや弁護士ができる対応方法を合わせてご紹介します。
3-1. 不正受給が発覚してから逮捕された後の流れ
不正受給が発覚してから後の流れは、下記の通りとなります。
持続化給付金の不正受給の内容が悪質と判断されると、主に給付元である役所から告発されます。
不正受給という詐欺事件の場合、関係者が証拠隠滅する可能性や逃亡のおそれが高いことから逮捕されるケースが多いです。
そして、給付金詐欺は複数の人間によって組織的に行われることも多く、共犯者は誰か、共謀の状況など、捜査すべき点も多岐にわたることから、逮捕に続いて身柄を勾留される可能性が高いです。
その後、捜査が終結すると、検察官が起訴または不起訴の判断を決定しますが、不正受給の金額が高額であること、また、虚偽の申請書類などの証拠書類が残っていることから、起訴される可能性も高いです。
起訴されてから約1か月半後に、公判が開かれ、裁判の内容に争いがなければ1回の公判で終了します。公判終了後、1~2週間で判決が言い渡されます。
3-2. 弁護士ができる対処方法
刑事事件において、弁護士ができる一般的な刑事弁護は下記の通りです。
段階 | 弁護士ができること |
---|---|
告訴 | ・示談交渉ができる ・告訴された後の対策ができる ・告訴されないよう事前に対策することができる |
逮捕 | ・早期に接見ができる ・取調べへのアドバイスができる ・早期の身柄解放が実現できる ・家族への連絡ができる |
勾留 | ・早期釈放を目指した活動を行う ・接見禁止の解除を目指した活動を行う ・不起訴を目指した弁護活動を行う |
起訴 | ・裁判に向けた準備を行う ・保釈を目指した活動を行う |
裁判 | ・無罪に向けた弁護活動を行う ・執行猶予や減刑などを目指した弁護活動を行う |
このように、弁護士であれば刑事事件の流れに応じた対応を行うことができます。
持続化給付金を不正受給すると、詐欺罪などの罪に問われ、刑事事件になる可能性が非常に高いです。
そして、刑事事件はスピード勝負です。迅速な対応が何よりも肝心です。
逮捕から検察官への送致までは48時間以内、勾留の期間は最大20日など、期間制限が定められており、これを過ぎてしまうと、弁護士でも対応が難しくなってしまいます。
また、経済産業省が「持続化給付金を誤って受給された方へ」という案内を掲載しています。
この案内では、不正受給をしてしまった場合の給付金の自主返還を呼びかけており、すみやかに返還を行えば、実刑を免れる可能性があります。
なお、不正受給をする目的ではなく、単純な見落としや誤った記載がある場合は、不正受給とはなりません。
しかし、それでも、虚偽の申告をしたとして疑われてしまうことも考えられます。
不正受給を行ってしまった場合や逮捕された場合、不正受給を疑われた場合には、すみやかに弁護士に相談してください。
弁護士であれば、手遅れになる前に最善の対応をすることができます。
たとえば、不正受給ではないと具体的な証拠を示すことで逮捕を免れる可能性がありますし、受給した給付金の返還のみで済むなど、穏便な解決を目指すこともできます。
持続化給付金の不正受給について、お悩みがございましたら、弁護士法人プロテクトスタンスに遠慮なくご相談ください。