2022(令和4)年6月13日に改正刑法が成立し、同年7月7日に施行されました。
この刑法の改正により、侮辱罪の法定刑が引き上げられ、厳罰化されました。
侮辱罪が厳罰化された背景には、インターネットやSNS上で相次ぐ誹謗中傷を抑止するという目的があります。
特に、心無い誹謗中傷が繰り返され、うつ病やストレス障害などの精神疾患を患う人が増加し、芸能人や著名人が自殺するという痛ましい事件も相次いだため、今回の改正に至りました。
このコラムでは、侮辱罪の厳罰化されたポイントやどのような行為が罪に該当するのかなど、詳しく解説します。
侮辱罪は、インターネットやSNSでの誹謗中傷を抑止するために、下記の通りに厳罰化されました。
刑法第231条(改正前) |
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事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。 |
刑法第231条(改正後) |
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事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 |
次に、侮辱罪が成立するための要件や刑罰について詳しく解説していきます。
1-1. 侮辱罪が成立する要件(構成要件)
侮辱罪が成立するためには、下記の4つの要件を満たす必要があります。
侮辱罪は、事実ではない単なる憶測や感想などの抽象的批判を適示した場合に、成立する可能性があります(具体例は下記3-1をご参照ください)。
ここでいう「事実の適示」とは、「〇〇さんには前科がある」といったような事実を示した場合が該当します。
この場合、事実を適示しているため、侮辱罪は成立しません。
事実を適示して他人の人格を軽視した場合には、別の犯罪である「名誉棄損罪(刑法第230条)」が成立する可能性があります。
「公然と」とは、発信した内容を「不特定多数の人が認識し得る状態」のことをさします。
実際に、何人が認識したのかという点は要件ではなく、あくまで、誰でも認識し得る状態であれば該当します。
自分が侮辱されたかわからない人(新生児など)や会社などの法人であっても、侮辱罪は成立する可能性があります。
ただし、侮辱の対象が抽象的な場合(「男は○○」、「女は○○」など)や物(ペット含む)に対する侮辱の場合は、侮辱罪は成立しません。
侮辱とは「他人の人格を蔑視する価値判断を示すこと」をいいます。
「○○はバカ」「○○はチビ」などといった書き込みは、他人の人格を軽視する価値判断に該当します。
また、侮辱罪の成立には、侮辱された本人の感情は関係ありません。
客観的にみて、言動や書き込みの内容が他人の人格を軽視していると判断されれば、侮辱した行為と判断されます。
以上の要件を満たしている場合に、侮辱罪が成立する可能性があります。
1-2. 侮辱罪の刑罰
改正前の侮辱罪の刑罰は、「拘留または科料」という比較的軽いものでした。
また、犯罪の刑罰が「拘留または科料」のみである場合、①被疑者が住所不定である、②被疑者が正当な理由なく出頭の要求に応じない場合のいずれかの条件に該当しなければ、逮捕することはできませんでした(刑事訴訟法第199条1項)。
改正前の侮辱罪も、この条件のいずれかに該当する場合でなければ、逮捕することができませんでした。
この点、後述しますが、厳罰化したことから逮捕要件が緩和されました(詳細は2-3をご参照ください)。
ここでは、侮辱罪が厳罰化されたポイントについて詳しく解説していきます。
2-1. 法定刑の引き上げ
改正前の刑罰は「拘留または科料」でしたが、今回の改正により「1年以下の懲役もしくは禁固もしくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料」と改正されました。
懲役刑・禁固刑・罰金刑が設けられたことにより、刑罰の厳罰化が行われました。
2-2. 公訴時効期間の延長
公訴時効期間とは、「被疑者を起訴することができる期間」のことをいい、犯罪の刑罰ごとに期間が異なります。
改正前の刑罰は「拘留または科料」のみであったため、公訴時効期間は「1年」でした(刑事訴訟法第250条2項7号)。
しかし、改正後は、懲役刑・禁固刑・罰金刑が新設されたことにより、公訴時効期間が「3年」となりました(同第250条2項6号)。
これにより、SNSなどの投稿日から3年が経過するまでは刑事告訴ができるようになりました。
2-3. 逮捕要件の緩和
前述した通り、改正前の侮辱罪で逮捕するためには、一定の条件が必要でした。
しかし、法定刑が厳罰化されたことにより、下記の要件を満たすことで、通常の逮捕ができるようになりました。
これにより、誹謗中傷などの摘発・逮捕件数の上昇に期待されています。
ネット内で誹謗中傷したからといって、その行為が必ずしも侮辱罪に該当するわけではありません。
それでは、どのような書き込みが侮辱罪に該当するのでしょうか。
3-1. 侮辱罪になりうる行為
たとえば、下記のような書き込みは、侮辱罪になる可能性があります。
この場合、「バカ」「不細工」などの書き込みは、事実ではなく、投稿者の憶測にもとづいて侮辱しているにすぎません(「事実を適示しなくても」の要件を満たす)。
また、インターネットやSNSへの書き込みは、基本的に誰でも見ることができます(「公然と」の要件を満たす)。
そのため、侮辱罪に該当すると判断することができます。
そして、個人名を書き入れて投稿した場合は侮辱罪になる可能性が高いです(「人を」「侮辱する」の要件を満たす)。
なお、匿名で投稿していた場合でも、投稿内容の前後関係などを確認して、誰に向けて投稿しているのか特定できる場合には、侮辱罪に該当する可能性があります。
3-2. 侮辱罪が成立しないケース
今度は逆に、事実を適示して投稿をした場合は、侮辱罪ではなく、別の犯罪である名誉棄損罪が成立する可能性があります。
また、個人間でのやりとり(DMなど)の場合、侮辱罪の要件である「公然と」を満たしませんので、侮辱罪には該当しない可能性が高いです。
今回の改正では、厳罰化したことによる影響や状況について、施行から3年を経過した際には、下記のような検証・見直しが行われることになっています。
侮辱罪が厳罰化されたことにより、正当な批判や意見を言えず、委縮していた場合には、表現の自由など、憲法上認められている権利や自由を制約しかねません。
そのような事実が発生していないかどうか、有識者などの専門家を交えた検証が行われます。
ネット内の書き込みによって侮辱された場合、まずは加害者に投稿の削除を求めてください。
投稿者が請求に応じなかった場合は、サイトやSNSの運営者に対して、削除してもらうよう依頼をしてください。
メディアごとに、削除を依頼する方法が異なりますので、事前に、利用規約などを確認し、適切な方法で依頼するとよいでしょう。
それでも削除されなかった場合には、裁判所から削除命令を出してもらうという方法があります。
ただし、裁判所への申立に必要な手続きは複雑で、誹謗中傷による侮辱を証明することは困難ですので、弁護士に依頼することが得策です。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、誹謗中傷に関する相談・解決実績が豊富にあり、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しております。
誹謗中傷されてお悩みの際は、遠慮なくご相談ください。