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枕営業はビジネスになりうるのか?

離婚問題

皆さま、こんにちは。

早速ですが、ご結婚されている皆さま、配偶者の不貞行為、いわゆる“不倫”は許せますか。

「考えただけでもはらわたが煮えくり返る」という方から、「もうやることをやったのであればお金を払ってほしい」という方まで、程度の差はあれ、無条件に許すという方は少数派ではないかと感じております。

では、法的な観点からはどのように評価されるのでしょうか。

一般に、配偶者のある者と不貞行為を行った場合には、その配偶者に対する不法行為にあたり、損害を賠償しなければならないことになります(民法709条)。

少し長いですが、判例を引用しますと、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」(最判昭54・3・30民集33巻2号303頁)ということになります。

では、不貞行為の相手方がクラブのママさんだった場合にはどうでしょうか。

2014年4月に出された東京地裁の判決では、かかる行為はいわゆる「枕営業」で「売春と同様、商売として性交渉をしたに過ぎず、結婚生活の平和を害さない」と判断されたようです。

この判決、地裁判決の一つですので、そもそも、どの程度一般化してとらえるべきかについても問題がありますが、その点をおくとしても、一般に、このような結論でよいのか、あるいは、法的に他の判決との整合性が取れるのかについては、意見が割れているようです。

皆様はどのようにお感じでしょうか。
当職も、日頃の事件を通じて感じていることはありますが、今回は、紙面の都合から、問題提起までとさせていただきたいと思います。

弊事務所が運営するサイト「浮気・不倫の慰謝料請求、離婚相談デスク」でもこのテーマを取り上げております。
是非、ご覧ください。
以下に判例全文を記載しておりますので、ご参考になさってください。

損害賠償請求事件

【事件番号】 東京地方裁判所民事第41部/平成25年(ワ)第34252号
【判決日付】 平成26年4月14日判決
【参照条文】 民法709条

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
被告は、原告に対し、400万円及びこれに対する平成25年1月1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、クラブ「D」(以下「本件クラブ」という。)のいわゆるママである被告が、本件クラブの顧客であった原告の夫の甲野太郎(以下「太郎」という。)との間で7年余りにわたる継続的な不貞行為(以下「本件不貞行為」という。)をしたこと及び本件不貞行為発覚後の被告の対応によって甚大な精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為にもとづき、慰謝料及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

2 原告の主張
(1)請求原因は、別紙の「請求の原因」に記載のとおりである。
(2)最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・判タ383号46項以下(以下「昭和54年最判」という。)が、ホステスとして勤務していた女性がした不貞行為について、夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為が成立するための要件は、故意又は過失により他人の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害したことをもって必要かつ十分としており、愛情の有無等は不法行為の成否に影響しないとしていること、最高裁第三小法廷平成8年3月26日判決・判タ908号284項以下(以下「平成8年最判」という。)が、接客社交係の女性が肉体関係を結んだ事例について、昭和54年最判を引用して、夫婦の一方配偶者と肉体関係を持った者の他方配偶者に対する不法行為の成立を原則として肯定しながらも、夫婦の婚姻関係が破綻した後に肉体関係を持った場合には、特段の事情がない限り、不法行為責任を負わないとしており、これらの判例を反対解釈すれば、夫婦間の婚姻関係が破綻しているという事情のない限り、第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことは、原則として、他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為として、不法行為を構成するのであり、不貞の相手の職業や目的は考慮されないことが明らかである。この判例法理を本件に当てはめれば、被告は、太郎に妻子がいることを認識した上で、太郎と交際を開始し、7年を超える長期間にわたって、自分の意思で、太郎との肉体関係を継続していたものであり、原告夫婦の婚姻関係が破綻していた事情はないから、原告が、被告の不貞行為によって、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を害されたことは明らかであって、被告が不法行為責任を負うことは明らかである。
(3)また、ソープランドに勤務する女性がその男性客と肉体関係を持つことは、いわば同女の仕事の中身そのものであるから、同女の行為が男性客の妻との関係において、いわば正当業務行為として、その違法性が阻却され、不法行為の成立を妨げるという立論にも一理あるが、バー、キャバレー、クラブ、料亭などの酒席における接客社交係としての女性にとって、男性客と肉体関係を持つことは仕事の中身に含まれない。中には営業目的で男性客と肉体関係を持つ者もいようが、それは当該女性の自由意思にもとづく行為であって、この点において、ソープランドに勤務する女性の場合と決定的に異なり、このような自由意思にもとづく不貞行為を正当化することは上記判例を踏まえれば困難といわざるを得ず、これが男性客の妻との関係において不貞行為となることは上記判例から当然のことである。なお、スナックやクラブのホステス、接客業に従事している女性が既婚者男性と肉体関係を持ったとして、その妻から慰謝料請求を容認した裁判例として、大阪家裁平成21年3月27日判決・第一法規データーベース及びその控訴審である大阪高裁同年11月10日判決・第一法規データーベース(以下「大阪事件判決」と総称する。)があり、この裁判例においては、被告女性側の飽くまでクラブのホステスとその客としての遊びの関係に過ぎなかった等の主張に対し、そうであっても不貞行為であることに何ら変わりがない(上記家裁判決)、妻があることを知った後も男女関係を継続したことは、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を違法に侵害した共同不法行為を構成する(上記高裁判決)として、不法行為の成立を認めている。
(4)さらに、本件においては、被告が営業目的をもって太郎との肉体関係に及んだとの主張は、いずれの訴訟当事者からも提出されていないだけでなく、クラブの営業目的からでた肉体関係が7年以上にわたって継続する訳でもなく、7年以上にわたって原告の夫と肉体関係を持ち続けた被告の行為は、異性としての好意がなければ存続し得ないものであって、原告に対する不法行為となることは明らかである。
3 被告の認否・反論
(1)被告は、太郎の不貞行為の相手方ではない。
太郎には、付き合っている別の女性がおり、その女性との間に肉体関係もあったが、原告に問い詰められた際、困って、咄嗟に被告の名前を出したに過ぎない。
(2)原告の本訴請求は、太郎が本件クラブで遣った金員が勿体なくなって、夫婦協力の下、その金員を取り返そうとするものであると理解される。
(3)原告指摘の判例や裁判例は、本件とは事案が全く異なる。被告は、原告指摘の判例等にみるような同棲もしていないし、子供を出産したりもしていない。原告指摘の判例等は、ホステスと客との関係を遥かに超えている事案である。
被告と太郎は、本件クラブのママと客との関係であり、それ以上ではない。ママという立場にある以上、店の売上げに対する責任は重大であり、大事なお客様とは、食事やお花見もするものであり、そうやって、店の外である程度の付合いは当然あるべきものである。
(4)被告は、太郎から、原告の言動や性格に辟易しており、できれば離婚したい、寝室も別であると聞かされていたから、原告の夫婦関係は円満ではなかった。

第3 当裁判所の判断
1 本件不貞行為の存否(太郎の不貞行為の相手方が被告であったのか否か)については当事者間に争いがあるが、仮に、本件不貞行為の存在が認められるとしても、本件不貞行為の内容は、請求原因によれば、本件クラブのママである被告が、顧客である太郎と、平成17年8月から平成24年12月までの間、月に1、2回、主として土曜日に、共に昼食を摂った後に、ホテルに行って、午後5時頃別れることを繰り返したというものであり、また、太郎の陳述書(甲1)の記載内容も、上記7年間に2、3回、お小遣いとして1万円を渡したことがあったこと、平成24年の後半に入って以降は、太郎の方から積極的に誘うこともなくなり、被告からの連絡も来なくなって、自然消滅のような形で関係が終わったことなどが追加記載されている以外は、上記請求原因と同じである。また、同陳述書及び弁論の全趣旨によれば、太郎は、平成12年から株式会社Eの代表取締役を務めており、本件クラブには、平成17年3月に行って以来、月に1、2回の頻度で通うようになり、一人で行くことが多かったが、同業者を連れて行くこともあったこと、太郎が本件クラブに行ったのは、平成25年4月26日が最後であったことが認められ、この認定に反する証拠はない。
2 第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは、原告も主張するとおり、当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり、ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解される(原告は、当該売春行為が不法行為に該当しないのは、正当業務行為として、違法性を阻却することによる旨を主張するが、違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)
ところでクラブのママやホステスが、自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や、クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために、様々な営業活動を行っており、その中には、顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして、当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。
このような「枕営業」の場合には、ソープランドに勤務する女性の場合のように、性行為や直接的な対価が支払われるものでないことや、ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して、クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら、前者については、「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って、クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって、ソープランドに勤務する女性との違いは、対価が直接的なものであるか、間接的なものであるかの差に過ぎない。また、後者については、ソープランドとは異なる形態での売春においては、例えば、出会い系サイトを用いた売春や、いわゆるデートクラブなどのように、売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから、この点も、「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
そうすると、クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
3 そこで、これを本件についてみるに、上記1の認定事実を総合すると、太郎は、原告が主張し、太郎が陳述する不貞行為開始時点の平成17年8月の約5か月前から、本件クラブに月に1、2回は定期的に通い、企業の社長として同業者を連れて行くこともあったものであって、本件クラブやそのママである被告にとって優良顧客であり、そのような優良顧客状態が本件不貞行為終了時まで続いた上、太郎がしていた不貞行為の態様は、主に土曜日に、共に昼食を摂った後に、ホテルに行って性行為をし、その終了後に別れるというもので、「枕営業」における性交渉の典型的な態様に合致する上、このような態様の性交渉を月に1、2回繰り返したというものであって、その頻度は太郎が本件クラブを訪れる頻度と整合していたのであるから、太郎の性交渉の相手方が被告であるとすれば、当該性交渉は典型的な「枕営業」に該当すると認めるのが相当である。なお、原告は、7年以上にわたって原告の夫と肉体関係を持ち続けた被告の行為は、異性としての好意がなければ存続し得ないなどと主張が、原告主張の本件不貞行為の期間中、太郎が本件クラブの優良顧客であり続けたことは上記認定のとおりであり、そうであるBをAの自宅に通わせて、性交渉を繰り返し、Bが深夜にA宅から出てきた現場をCが押さえたことを契機として、上記海外旅行の事実も発覚して、BとCの婚姻関係を破綻させたと認定しているものであり、AがBと海外旅行に何度も行ったり、Bを自宅に通わせたりしている点で、「枕営業」の範囲を逸脱していることが明らかであるから、本件不貞行為とは事案を異にし、本件に適切ではない。
5 原告は、昭和54年最判及び平成8年最判を挙げて、「枕営業」であろうとも不法行為を構成するというのが判例であるかの如き主張する(なお、原告は、上記各最判の出典として判例タイムズしか挙げていないが、両裁判は、いずれも、最高裁判所民事判例集に登載されている正式の判例である。)が、このうち、昭和54年最判の判示事項は「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至った女性の行為と、右未成年の子に対する不法行為の成否」であって、不貞行為が未成年の子に対しては不法行為を構成するものではないと判示した点のみが判例とされているものである上、当該事件の事案では、確かに肉体関係を持った女性はホステスであったが、相手方男性との間の子を出産し、その後、同棲するに至っていると認定されているから、「枕営業」である本件とは事案を全く異にするばかりではなく、原判決が、相互の対等の愛情にもとづいて生じた関係は当該男性の妻に対して違法性を帯びるものではないと判断した部分について、そうであっても当該妻に対する関係では不法行為を構成するとして、当該原判決を破棄したものであり、「枕営業」も相手方男性の妻に対する関係で不法行為を構成するとしたものではない。また、平成8年最判の判示事項は「婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無」であって、甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないと判示した点が判例とされているものであって、これまた、「枕営業」が相手方男性の妻に対する関係で不法行為を構成するかどうかについて判示したものではない。したがって、原告指摘の上記各最判は、いずれも本件に適切ではなく、原告の主張を採用することはできない。
6 なお、原告は、本件においては、被告が営業目的をもって太郎との肉体関係に及んだとの主張は、いずれの訴訟当事者からも提出されていないと主張するが、不法行為に該当する事実は、請求原因事実であって、その主張立証責任は原告にあるから、原告の上記主張は失当というほかならない。
7 また、原告は、被告が原告の慰謝料請求に対し、本件不貞行為自体を否認し、その請求を拒否していることにより精神的苦痛を受けたと主張するが、被告の上記行動それ自体が独自の不法行為を構成するとみることはできない。

第4 結論
以上によれば、原告の請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判官 始関正光

別紙 省略

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弁護士法人プロテクトスタンス 代表弁護士 五十部 紀英

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