夫婦が離婚してから300日以内に生まれた子どもは、嫡出推定規定により元夫との間に生まれた子どもと推定されます。
嫡出推定規定があることで、実際は元夫と血縁関係がなくても戸籍上は元夫との子どもとして扱われてしまうという問題が生じています。この問題は「離婚後300日問題」と呼ばれています。
また、嫡出推定規定により元夫の子どもとして扱われるのを避けるため、母親が出生届を出さないケースがあります。嫡出推定規定は本来、父親を早期に確定して子どもの権利を守るための制度ですが、子どもが無戸籍となる原因の一つとして問題視されていました。
このような問題を背景に、1898年(明治31年)から120年以上続く嫡出推定規定が、民法改正により2024年4月から見直されることになりました。さらに、女性にのみ設けられていた離婚後100日間の再婚禁止期間も廃止されるなど、離婚や子どもに関するさまざまなルールが同時に変更されます。
今回のコラムでは、嫡出推定規定や無戸籍の問題について解説するほか、民法改正の内容を離婚問題に詳しい弁護士が説明します。
妻が婚姻中に懐胎(妊娠)した場合、子どもは夫との間に生まれた子どもと推定されます(民法第772条)。この制度が「嫡出推定規定」です。
そして、婚姻の成立から200日を経過した後、または婚姻の解消や取り消しから300日以内に生まれた子どもは、婚姻中に懐胎したと推定されます(同条第2項)。
つまり、夫と離婚した日から300日以内に生まれた子どもは、出生届を提出すると実際の血の繋がりとは関係なく元夫の子どもと推定されるのです。
なお、いわゆる授かり婚(できちゃった婚)などで、婚姻の成立から200日以内に生まれた子どもは、夫との子どもと推定されません。しかし、戸籍の実務上は、父子関係に争いがなければ出生届を出すことで夫との子どもと推定されます。
親には子どもを扶養する義務があります。嫡出推定規定は、扶養義務を負っている父親が誰かを早期に確定し、子どもの権利を保護する目的で設けられています。
しかし、嫡出推定規定があることで離婚後300日問題が発生し、無戸籍の子どもが生まれている事態にも繋がってしまっているのです。
離婚する前から元夫以外の男性と肉体関係に及んでいると、離婚から300日以内にその男性との子どもが生まれる可能性があります。
夫と離婚し、子どもの実父である男性と再婚しても、離婚から300日以内に子どもが生まれた場合、出生届を提出すると元夫との子どもとして扱われてしまいます。
これが、嫡出推定規定によって生じる離婚後300日問題です。
嫡出推定規定により、子どもの戸籍上の父親が元夫となることを避けるため、母親が出生届を提出しないケースがあります。そのため、戸籍がない人(無戸籍者)が全国に存在しているのです。
出生届を提出せずに無戸籍のままでいると、行政上のサービスを受けられない、権利を行使できないといったデメリットが生じる可能性があります。
具体的には、次のようなデメリットが考えられます。
離婚後300日以内に子どもが生まれたとしても、嫡出推定規定によって必ず元夫が父親になるわけではありません。元夫が父親となることを避けるための手段として、次のような方法があります。
離婚後300日以内に子どもが生まれた場合でも、医師の診断を受け、離婚後に妊娠したことを証明できれば、元夫が父親になることを避けられます。具体的には、診断した医師が作成した「懐胎時期に関する証明書」を、出生届と一緒に提出することで、元夫を父親としない出生届が認められるのです。
ただし、この手段が認められるのは、あくまでも離婚後に妊娠したことが証明できるケースです。証明ができない場合や、妊娠のタイミングが離婚前の場合、この手段は利用できません。
嫡出否認の訴えを起こすという手段もあります。嫡出否認の訴えとは、嫡出推定によって親子と推定された父親と子どもの親子関係を否定するための裁判上の手続きです。
嫡出否認の訴えには調停前置主義が適用されるため、訴訟で争う前に調停を通じて夫と子どもの親子関係について話し合うことになります。話し合いが合意に至れば、元夫と子どもが親子ではないと認められるのです。
しかし、嫡出否認の訴えを提起できるのは父親だけです。そのため、元夫が訴えの提起に協力してくれない、元夫に連絡したくないといった理由で、訴えを提起することができないケースが少なくありません。
離婚後300日問題や無戸籍の問題の解決などを目的とする民法の改正法が2022年に成立しました。改正されるポイントの一つが嫡出推定規定の見直しで、2024年4月1日から新たな嫡出推定規定がスタートします。
見直しの内容としては、離婚後300日以内に生まれた子どもでも、出産の時点で母親が再婚していれば、再婚した夫の子どもと推定されるようになります。
つまり、離婚してから子どもが生まれるまでに再婚していれば、嫡出否認の訴えなどの手続きをしなくても、再婚後の夫を父親とする出生届が認められます。
なお、離婚後300日以内に再婚しなかった場合は、従来通り元夫の子どもと推定されます。
2024年4月から見直されるのは、嫡出推定規定だけではありません。離婚や親子の問題に関する主な制度変更として、次の2点があります。
夫と離婚したり、死別したりした女性には、100日間という再婚禁止期間が設けられています。そのため、離婚から100日が経過しなければ、女性は再婚することができません。
再婚禁止期間が設けられているのは、離婚後に生まれた子どもの父親について、元夫と再婚後の夫で、推定が重なる期間が生じるのを避けるためです。
嫡出推定規定により、婚姻から200日を経過した後、または離婚から300日以内に生まれた子どもは、婚姻中に生まれた子どもと推定されます。そのため、再婚禁止期間がなく離婚日と同日に再婚できる場合、100日の推定が重複する期間が生じることになります。
しかし、嫡出推定規定が見直されることで、離婚後300日以内に再婚していれば生まれた子どもは再婚後の夫の子どもと推定されます。元夫と再婚後の夫で推定が重複する期間がなくなるため、再婚禁止期間が廃止されることになったのです。
現行制度では、嫡出否認の訴えを提起できるのが父親だけなので、元夫に協力を求めなければなりません。このルールが訴えを提起するためのハードルとなっており、子どもが無戸籍となる一因とも指摘されていました。
2024年4月からは、母親や子どもも訴えを提起できるようになります。元夫が訴えの提起に協力してくれない場合や、協力を求めることができない場合でも、母親や子どもが手続きを進めることができるのです。
また、嫡出否認の訴えの提起には、夫が子どもの出生を知ってから1年以内という出訴期間が設けられています。2024年4月からは出訴期間が1年から3年に延長されます。
嫡出推定制度の見直しは、離婚後300日問題や子どもが無戸籍となる問題の解決に向け、大きな前進となるかもしれません。
しかし、夫婦の離婚によって生じる問題は多岐にわたります。
たとえば、子どもがいる夫婦が離婚する場合、親権や養育費が争いになるケースが少なくありません。また、夫婦で多額の財産を保有していれば、財産分与を巡ってトラブルになることが考えられます。
これらの問題を夫婦で話し合って解決を目指そうとしても、感情的になってしまい、より深刻なトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
そのため、離婚に向けた話し合いは、弁護士に代理人を依頼することをおすすめします。弁護士が交渉することで、冷静に話し合いを進められますし、不利な条件で離婚に応じてしまうリスクの回避が期待できます。
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