元号が令和に代わり、はじめて迎えたこどもの日。総務省の発表によると、15歳未満の子どもの推計人口は約1533万人とのことであり、毎年減り続けています。
その一方で、ペットとしての犬と猫の飼育数は、合計約1855万2000頭(一般社団法人ペットフード協会調べ、2018年12月)にも及んでいることをご存知でしょうか。
古き昭和の頃、ペットといえば、防犯目的も兼ねた番犬のような飼い方をすることが一般的でした。しかし、時代は大きく変わりました。ペットは室内で飼われるようになり、ペット可のマンションが増え、ドッグランやドッグカフェのように、ペットと一緒に出掛けられる施設が増えました。
ペットのためのトリミングサロンや旅行中のホテルに留まらず、ペットのためのマッサージ店、ファッションブティック、スイーツショップ、お葬式、お墓など、新しいサービスが登場し始めています。
折しも、本国会では、動物愛護法(「動物の愛護及び管理に関する法律」)の改正案が提出され、動物虐待を防止するための刑の厳罰化を含めた様々な議論が行われています。
そう、ペットはもはや大切な「家族の一員」なのです。
わが子のように大切にペットを育てている家庭や夫婦もたくさんおり、少子高齢化が進む日本では、これからもペットが子ども代わりとなる家庭が増えていくことでしょう。
そのような夫婦が離婚することになったとき、離婚した後のペットの扱いは、大きな問題となってきます。夫(妻)とは別れたいけど、愛犬や愛猫とは別れたくないと考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回のコラムでは、離婚とペットの法律問題について、弁護士がわかりやすく解説していきます。
まずは前提として、ペットが法律上どのように扱われるのかを説明しましょう。実は、残念なことに、法律上ペットは「モノ(物)」という動産として扱われます。
子どもに対する親権のような制度はなく、所有権の対象である物として扱われます。そのため、離婚時には夫婦のどちらがペットを引き取るかという、財産分与の問題になります。
婚姻前の独身時代からペットを飼っていれば、その飼い主の特有財産として所有権が認められます。しかし、婚姻期間中にペットを飼い始めた場合は、夫婦の共有財産となり、財産分与において所有権を決めなければならないのです。
財産といってもお金のように分割できませんので、夫と妻のどちらが引き取るのか、愛着が強いほど争いになることが多くなります。引き取りを希望する側としては、相手方に評価相当額の補償金額を支払ったり、他の経済条件を譲歩したりするなどの対応が必要になるかもしれません。
ペットを飼っている方はご存知のことですが、フード代やおもちゃ代を始めとして、トリミング費用、狂犬病予防接種やワクチン予防接種、ノミダニ薬代など、ペットを育てるには様々な費用が発生します。
それでは、子どもの養育費のように、別れた相手にペットの養育費を請求することはできるのでしょうか。
養育費とは、子どもが成年に達して自立するまでの間、子どもを監護・教育するために必要な費用(衣食住の費用や医療費、教育費など)のことです。親は未成年の子どもに対して扶養義務があり、離婚しても何ら影響を与えるものではありませんので、毎月の養育費が必要となります。
しかし、現行の法制度では、ペットはモノとして扱われますので、養育費のような権利はありません。また、所有権のある所有者(飼い主)は、その物から発生する利益を享受できる反面、その費用も負担しなければなりませんので、ペットにかかる諸費用は自分で負担し、相手には請求できないのです。
未成年の子どものいる夫婦が離婚する場合、父母のどちらかを親権者として決めなければなりません。離婚成立後、親権者にはなれず子どもと離れて暮らすことになった親が、子どもと直接会って一緒の時間を過ごしたり、誕生日プレゼントを受け渡したり、Eメールや写真の送付など、親子間で定期的に交流することができる権利を面会交流権と呼びます。
それでは、ペットの場合も、引き取れなかった一方が、離婚後にペットに会ったりすること(面会交流)を権利として請求できるのでしょうか。繰り返しになりますが、法律上、ペットは物として扱われ、法律関係の権利義務の帰属主体としては扱われませんので、面会交流という民法上の考え方は当てはまりません。
離婚協議の中で話がまとまらなかった場合、家庭裁判所に対して調停を申し立てることができます。財産分与を巡る調停のなかで、ペットを夫と妻のどちらに引き取らせるのが適切かについて、調停委員という第三者が調整役として介在してくれます。
調停による話し合いでも解決しない場合は、最終的には訴訟によって裁判所の判断を仰ぐことになります(民法768条3項)。
同条文には「一切の事情を考慮」して裁判所が財産分与を決めると規定されていますが、具体的な判断基準は何も示されていません。なぜならば、夫婦の数だけ個別具体的な離婚事情が異なるからです。しかし、逆にいえば、ペットの引き取り(財産分与)を有利に進めるために様々な準備をすることができることも意味しています。
ペットに親権や養育費や面会交流が認められなくても、離婚条件を巡る話し合いのなかで、相手と取り決めをすることは可能です。
仮にペットの所有権が認められなかったとしても、幾らかの経済的な負担と引き換えに定期的にペットと会えるような内容を求め、離婚協議書に記載しておくことができます。
この点、離婚手続の専門家である弁護士であれば、離婚条件の交渉を依頼者にとって有利に進め、的確な離婚協議書を作成することができますので、不満や不安が残るようなこともありません。
また、話し合いではまとまらず、ペットの所有権に関して(財産分与について)訴訟になった場合でも有利に進めることができます。
ペットの引き取り手として相応しい適格があると主張するための根拠資料や交渉材料を揃えたり、戦略的な訴訟対応を進めていくことができるのです。
たとえば、狂犬病やワクチン予防接種の登録名義、動物病院の診察券の名義、医療費の領収書の名義、ペット保険の名義など、あなたが実質的な飼い主であったことを伺わせ
る資料を準備するようアドバイスできます。
また、これまで夫婦のどちらがペットの世話をしてきたのか、ペットはどちらに懐いているのか、ペットにとって問題の無い飼育環境はどちらが整っているか、ペットの世話に必要な経済力があるかなど、ペットの引き取り手として相応しい事情について主張していきます。
ペットの引き取りに限りませんが、財産分与に関する話し合いは、近しい人との感情的な対立が多くて、話し合いがまとまらないものです。
弊事務所では、離婚相談を数多く取り扱っており、浮気・不倫の慰謝料問題にとどまらず、財産分与など有利な離婚条件を進めるためのご相談も手掛けております。どうぞ、お気軽にご相談ください。