菅内閣が推し進めている行政改革の中に、脱ハンコ・押印廃止の制度改革があります。
たとえば、登記申請の際に実印での押印を求めるなど、厳格な手続きが求められる法律の分野においても、制度改革の対象外とはなっていないようです。
私たちに身近な例でいえば、婚姻届や離婚届の際の押印を廃止する検討が行われているようです。
現行制度では、婚姻や離婚をする際には、当事者や証人が、婚姻届あるいは離婚届に、署名し、印をしなければならないと定められています(戸籍法第29条)。
しかし、押印の書類については、実印で押印しなければならないなどという規定はなく、認印でもよいとされています。
もちろん、第三者が本人になりすましして届け出を行ったり、本人がお酒に酔っていて正常な判断ができない状態で行われたような手続きは、無効になります。
それでは、他にどのようなときに、役所に提出された婚姻届や離婚届が無効になるのでしょうか。
また、浮気や不倫をしてしまった配偶者が反省の証として、「今後浮気・不倫をしたら離婚することに合意します」と離婚届を書いて、もう一方の配偶者に預けることもあります。
このような場合の離婚届はどのように扱われるのでしょうか。
民法では、次の要件にいずれかに該当したときに、婚姻つまり結婚が無効になると明文で定めています。
上記のうち、「人違い」については、お金持ちと思っていたが実はお金持ちではなかったといったような間違いではなく、Aさんだと思って結婚したが、実はBさんだったというような場合です。
また、「婚姻の届出」というのは、婚姻届のことです。
最近、婚姻届を提出しない、いわゆる内縁状態の夫婦が増えていますが、法律上は結婚していないため、相続の分野などで様々な制限を受けることがあります。
それでは、残る「婚姻をする意思がないとき」について実例もふまえながら、詳しく見ていきましょう。
婚姻をする意思がないときというのは、婚姻届を提出するといった形式的手続きに加えて、一緒に夫婦として暮らしていこうという意思がないと判断されたときです。
つまり、夫婦としての生活をしていく意思がなく、配偶者ビザを取得するためだけや、子どもを嫡出子とするだけのための婚姻届は、たとえ署名や押印などの形式的要件が満たされていたとしても無効になります。
また、カップルの一方が勝手に婚姻届を提出したとしても、もちろん無効です。
しかし、この場合、内縁状態であるなど、すでに夫婦としての実態があり、かつ勝手に婚姻届を出された側の配偶者が、「その婚姻届は有効ですよ」という追認をすれば、婚姻届は有効になります。
その他、婚姻の意思は、婚姻届を作成するときと提出するときの両方に必要です。
したがって、婚姻届を作成したときには婚姻をする意思があっても、届け出の際には、気持ちが変わった場合には、仮に婚姻届が提出されたとしても無効になります。
ただし、婚姻届作成時には、婚姻意思があったものの、婚姻届提出時には昏睡状態にあり意識を失っていたときには、婚姻は有効と判断した有名な裁判例があります(最高裁判例昭和44年4月3日)。
離婚についても、婚姻と同じように、離婚届を提出することによって成立します(協議離婚の場合)。しかし、細かな要件が少し異なります。
離婚の場合は、①戸籍法の定めによる離婚の届出が必要であること、②夫婦双方に離婚をする意思がある場合に加えて、③未成年の子(2022年4月からは18歳未満)がいる場合には、父親か母親のどちらかを親権者と指定し、届け出をしなければなりません。
また、離婚をする意思の解釈についても、婚姻のときとは少し異なります。
たとえば、離婚をして別々になるというわけではなく、形式的に離婚をして収入源を減らし、生活保護をもらうために離婚届を提出したとしても、離婚の意思があったと判断され、離婚は有効となります。
また、単に強制執行を免れるために離婚届を出したに過ぎない場合でも離婚届は有効と判断されます。
つまり、婚姻の場合には、婚姻届を提出するという意思と届け出を行うだけではなく、実際に夫婦として暮らしていこうという意思の存在が必要であったのに対して、離婚の場合には、離婚届を提出するという意思があり、届け出を行いさえすれば、離婚が認められる点が大きく異なっています。
別々になろうといった意思は必要とされていません。
よく夫婦喧嘩の勢いで離婚届にサインをしてしまったとか、浮気や不倫が発覚し、反省の証として「今度浮気や不倫をしたら離婚に合意します」と離婚届にサインをし、配偶者に預けておくというのは、決して珍しいことではありません。
しかし、このようなときに作成した離婚届を、後日、勝手に配偶者が提出をしたとしても、離婚は無効になります。
なぜならば、離婚届も婚姻届と同様に、作成時だけではなく、提出時にも「離婚届を提出する」という意思が必要だからです。
ただし、無効とはいえ、勝手に離婚届を提出されてしまい受理されてしまうと、無効であると認められるためには、離婚無効確認調停など、裁判所による手続きを経なければならず、時間と手間がかかります。
勢いで離婚届にサインをしてしまった場合には、ご自身の本籍地あるいは居住地の市区町村役場に「離婚届不受理の申し出」を提出することも検討すべきでしょう。
離婚届不受理の申し出を行っておくと、申し出を行った本人以外、たとえば配偶者などが離婚届を提出しても、受理されませんので安心です。
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