今年4月16日、法務省は離婚届の様式を見直すことを発表しました。
具体的には、離婚時に取り決めておくべき子どもの養育費や面会交流などの諸手続きをまとめた法務省のサイトに簡単にアクセスできるよう、離婚届にQRコードを掲載するようになりました。
また、養育費の未払いがあった際に、強制執行を即座に申し立てることができる公正証書を作成したか否かを確認する項目も追加されました。
そこで今回は、離婚時に夫婦間で決めておくべき子どもの事柄について、弁護士が分かりやすく解説します。
離婚する夫婦間に、未成年の子どもがいる場合、父親あるいは母親のどちらかを親権者に指定しないと離婚は認められません。
離婚届にも親権者を記載する欄があり、親権者を記載しないと離婚届の受理すらしてもらえません。また、現行の法制度上、離婚をした夫婦が共同親権を行うことはできません。
また、親権以外にも子どもの監護をする監護者について定めておく必要があります。監護者とは、通常、親権者の中に含まれていますが、子どもを自分の手元に置き、子どもの教育や身の回りの世話をする役割の人のことを指します。
監護者と親権者は、必ずしも同一人物である必要はありません。たとえば、財産管理などの親権は父親が行い、通常の身の回りの世話、つまり、監護権は母親にすることもできます。
また、親権者は父親あるいは母親のどちらかでなければなりませんが、監護者は父母以外の者が行うこともできます。
たとえば、父親を親権者とし、監護者を父親の母親(つまり祖母)が担うことも可能です。
なお、一度決めた親権者を変更する場合、当事者の合意だけでは成立せず、家庭裁判所へ親権者の変更の調停または審判の申し立てを行わなければならないことも覚えておきましょう。
そして、家庭裁判所は、親権者の変更が子どもの利益になるか否かを重要視し、変更の有無を決定します。
そして、調停成立日または審判確定日から10日以内に親権者変更の手続きを市区町村役場で行うことにより、親権者変更の手続きは完了となります。
一方、監護者の変更については、市区町村役場への届け出は不要のため、父母の合意があれば、家庭裁判所を通さず、話し合いだけで行なうことが可能です。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に監護者変更の調停または審判を申し立てます。裁判所の手続きにおいて、子どもの利益が重要視されることは、親権者の変更と同じです。
離婚して、子どもと別々に暮らすことになっても、親は子どもが経済的に自立するまでの間、子どもを扶養する義務を負います。
そして、子どもと一緒に暮らしている側の親は、子どもと別居している側の親に対して、子どもの衣食住に関する生活費や教育費などの養育費を請求する権利が認められます。
また、子どもと別居している側の親は、自分と同程度の生活を過ごせる程度の養育費を支払い分担する義務を負います(生活保持義務)。
養育費の金額は、父母の資産や収入、子どもの人数など個別具体的な事情を考慮して、両親が話し合って取り決めます。
しかし、話し合いがまとまらない場合は、親権者と同じように、家庭裁判所に養育費の調停を申し立て、養育費の金額を定めることになります。
裁判では、裁判所が作成した「養育費算定表」にもとづき、養育費が決定されます。
養育費は、子どもが成長するまで約定通りに支払われることの方が少ないという統計結果が発表されています。
そのため、養育費に未払いが発生した際に、速やかに強制執行を申し立てられるように、裁判上での取り決めや強制執行認諾条項付きの公正証書を作成しておくことをお勧めします。
子どもと離れて暮らすことになった親が、子どもと直接会って一定時間、一緒に過ごしたり、連絡を取る権利のことを面会交流権とよびます。
面候交流権は、親の権利であると、同様に、子どもの権利でもあることが条文上明確に示されています。
民法第766条第1項
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
面会交流権は、当事者間での話し合いによって取り決められ、当事者間での解決が難しい場合は、他の手続きと同様に、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
そして、面会交流について取り決める場合は、できるだけ具体的に決めておいたほうがトラブル防止に繋がります。
具体的には、面会交流の頻度、時間、方法(対面または電話やメール、SNSなど)などです。
また、面会交流についても、養育費の未払いと同じように、事前の取り決め通りに履行されないことが少なくありません。
調停や審判で取り決めた面会交流が、正当な理由がなく履行されない場合は間接強制により、面会交流を実現させることが可能です。
間接強制とは、裁判所が、「子どもに会わせない側の親が、会わせてもらえない側の親に対し、金銭を支払え」という罰金のような制度です。
なお、面会交流が行われないことによる間接強制の申し立ては、裁判所が関与した調停調書や審判書が必要になります。
当事者間で作成された離婚協議書や公正証書では認められませんので注意が必要です。
これまでは主に、子どもに関する取り決めについて説明しました。
最後に夫婦間における取り決めについても少しだけ触れておきましょう。
離婚をする際に、夫婦の一方は、他方に対して、結婚中に築き上げた財産(預貯金や不動産など)の分配を請求することができます(財産分与)。
財産分与は夫婦共働きのときはもちろん、どちらかが専業主婦(夫)である場合も認められる権利です。
また、不貞行為など相手に責任のある離婚事由により離婚する場合、他方に対する財産分与のほかに、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。
このうち、財産分与については離婚が成立してから2年を経過すると時効が成立してしまいます。
親権や養育費など子どものことに気を取られ、ご自身の請求できる権利を忘れてしまった、ということにならないように気をつけましょう。
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