亡くなった方(被相続人)が残した財産は、配偶者や子どもなど、相続権を持つ人(相続人)が分け合うことになります。
しかし、財産の分け方について相続人同士で話し合いたくても、相続人の中に連絡先が不明の人や、行方不明の人がいるケースは少なくありません。長年、疎遠になっている、親族関係が悪化していることなどが原因で、連絡してもわざと無視されてしまうこともあります。
連絡が取れない人がいても、相続人の全員が揃っていない状況のままでは、相続の手続きを進められない可能性があります。一方、連絡が取れない相続人がいると手続きを後回しにしたくなるかもしれませんが、手続きの放置はさまざまなリスクに繋がるかもしれません。
このコラムでは、行方がわからなかったり、連絡を無視したりする相続人がいる場合の対応について、相続トラブルに詳しい弁護士が解説します。遺産分割の手続きを進められずにお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。
相続人の中に連絡先を知らなかったり、連絡しても無視したりする人がいると、その人を除外して相続手続きを進めたいと考えたくなるかもしれません。しかし、すべての相続人が揃っていなければ、手続きを進められない場合があるため注意が必要です。
相続人が揃っていなくても手続きを進められるかどうかは、被相続人が残した遺言書に従って財産を分け合うか、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で分け方を決めるかによって異なります。
もし、被相続人が有効な遺言書を残しており、すべての財産に対して分割の方法が指定されていれば、手続きを進めるために相続人の全員が揃う必要はありません。
遺言書の内容に従うのであれば遺産分割協議は不要なので、連絡が取れない相続人がいても財産を取得するための手続きを進められるのです。
遺言書が残されていない場合は、財産の分け方について相続人同士で話し合う遺産分割協議を行います。
遺産分割協議はすべての相続人が揃って行う必要があり、連絡が取れない人を除いて合意した内容は無効となります。そして、話し合いの結果は遺産分割協議書にまとめますが、相続人全員の署名・捺印がなければ、やはり無効です。
被相続人が保有していた銀行口座の払い戻しや不動産の売却など、財産を相続するための手続きには、提出書類の一つとして有効な遺産分割協議書が求められます。そのため、連絡が取れない相続人がいたとしても、その人を無視して手続きを進めることはできないのです。
「すぐに欲しい財産があるわけではない」「わざわざ相続人を探して連絡するのが面倒」などという理由で、急いで手続きしなくてもよいと考える方もいるかもしれません。ただし、手続きを放置したままでいると、次のようなデメリットが生じる可能性があるため注意しましょう。
被相続人が亡くなったことを銀行が把握すると、被相続人の銀行口座が凍結され、遺産分割協議書を作成しなければ引き出すことができなくなります。そのため、被相続人の預貯金によって生活が支えられている相続人などは、経済的に深刻な状況に陥るかもしれません。
なお、遺産分割協議の成立前でも、相続預金の払戻し制度を利用することで相続人は預貯金の一部を引き出すことが可能です。ただし、全額を引き出せるわけではないので、できるだけ早く遺産分割協議を成立させることが重要です。
被相続人が土地や建物などの不動産を残していても、相続する人が決まらない間は、相続人全員で不動産を共有している状態になります。
共有の状態で不動産の売却や賃貸、建て替え、増改築、解体などを行うには、すべての共有者が同意しなければなりません。一方、不動産を活用できない状況でも、固定資産税を毎年、支払う必要があります。
また、建物を放置していると、不審者の侵入や不法投棄、放火など、さまざまな犯罪やトラブルに繋がるリスクが高まるでしょう。老朽化により突然倒壊してしまうかもしれません。
このように、被相続人が残した不動産を共有という不安定な状態にしておくと、さまざまなデメリットが生じる可能性があります。できるだけ早く相続手続きを進めて不動産の所有者を決めることをおすすめします。
被相続人が残していた株式も相続することが可能です。株式には配当金が発生するものもありますが、相続手続きを放置していると受け取ることができなくなるかもしれません。
受け取っていない配当金は、証券会社に連絡するなどして請求できますが、法律によって10年間の時効が定められています。さらに、株式を発行している会社によっては3年や5年など、より短い請求期限を設けている場合があるため注意しましょう。
相続財産が一定額以上ある場合、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日である相続の開始から、10か月以内に相続税を申告・納税しなければなりません。そして、遺産分割協議の成立前でも、法律で定められた財産の取り分(法定相続分)を相続したと仮定して、相続税を納める必要があるのです。
また相続税には、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの優遇措置が用意されていますが、協議の成立前には適用されないため、相続税が高額になってしまいます。
なお、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくと、後から優遇措置が適用されます。ただし、申告期限から3年以内に遺産分割を終える必要があるため、早めに手続きを進めることが重要です。
もし、申告期限後3年以内に遺産分割が完了しなかった場合には、配偶者控除や小規模宅地等の特例は最終的に適用されないため、多額の相続税を追加で納めなければならない可能性があります。
相続人の中に住所や連絡先を把握しておらず、行方不明になっている人がいる場合の対応について説明します。
まずは、行方不明となっている相続人の住所を調べるため、その人の「戸籍の附票」を取り寄せましょう。戸籍の附票にはこれまでに住所を移転した履歴が記載されているので、最新の住所が判明する可能性があります。
戸籍の附票は、行方不明となっている相続人の本籍地の役所に申請して取得します。本籍地は、亡くなった被相続人の戸籍を取り寄せることで、把握できる場合があります。
ただし、手続きには手間がかかるため、自身で調べるのが難しければ、弁護士などの専門家に相談してもよいでしょう。
調査によって住所が判明したら、手紙を送るなどして相続手続きを進めたい旨を伝え、返答を求めましょう。相手から返答があれば、手続きを進めることが可能です。
最新の住所が判明したとしても、すでに引っ越している可能性がゼロではありません。現在の所在地を把握できず、行方不明の状態になっているのであれば、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明者の代わりに財産を管理する人のことで、遺産分割協議に参加することもできます。不在者財産管理人になれるのは、相続と利害関係がない第三者や弁護士などの専門家で、裁判所から選任されます(民法第25条1項)。
申し立ての手続きは、行方不明者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。提出書類として申立書のほか、戸籍や財産などに関する資料が必要で、費用については収入印紙代800円と連絡用の郵便切手代などがかかります。
具体的な書類や費用は、申し立てを行う裁判所に確認しましょう。
行方不明(生死不明)の状況が7年以上続いている場合は、不在者財産管理人の選任ではなく「失踪宣告」を申し立てることもできます(同法第30条1項)。失踪宣告とは、家庭裁判所への申し立てにより、長期間にわたって行方不明になっている人を「死亡した」と扱う手続きです。
失踪宣告が認められた相続人は死亡した扱いとなるため、遺産分割協議に参加させる必要がありません。そして、相続人が減ることになるので、自身が相続できる財産が増える可能性があります。
ただし、失踪宣告の申し立ては、不在者財産管理人の選任よりも手続きが煩雑ですし、認められるまでに比較的長い期間を要します。また、行方不明者に配偶者や子どもなどの相続人がいれば、「代襲相続」という仕組みによってその人が協議に参加することになります。
長期にわたって行方不明の相続人がいる場合、不在者財産管理人の選任と失踪宣告のどちらを申し立てるべきか慎重に判断しましょう。
なお、災害や事故などの危難に遭遇して生死不明の場合には、1年で失踪宣告の申し立てをすることが可能です。これを「特別失踪」と呼びます(同条2項)。
住所や連絡先が判明し、手紙を送るなどしても、次のような理由で連絡を無視されてしまうケースもあります。
連絡を無視されている場合、どのように手続きを進めればよいか説明します。
まずは何度か連絡して手続きに参加するよう説得しましょう。単に参加を求めるだけではなく、連絡を無視すると次のようなデメリットが生じる点を説明することで、相手方の姿勢が変化するかもしれません。
いくら説得しても無視を続けるようであれば、遺産分割調停の申し立てを検討していると伝えてもよいでしょう。調停は裁判所での手続きとなるので、余計に大変なことになると考えて連絡に応じる可能性があります。
ほかにも、「手続きが面倒で話し合いに加わりたくない」と考えているようであれば、相続権を手放す「相続放棄」を行うよう提案してもよいかもしれません。ただし相続放棄には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期限がある点に注意が必要です。
また、弁護士に相談して対応を依頼することも有効な手段になるでしょう。他の相続人からの連絡は無視しても、弁護士から連絡があれば「大変な事態になった」と考えて連絡に応じるかもしれません。
遺産分割調停とは、相続人同士で遺産分割協議を進めても結論がまとまらない場合に、家庭裁判所の調停委員を仲介して話し合いを続ける手続きです。そして、連絡が取れない相続人がいる場合も、調停の申し立てが選択肢の一つになり得ます。
調停を申し立てると、家庭裁判所は相手の住所に呼出状を送ります。自分から連絡を取る必要がなくなりますし、裁判所から呼び出しを受ければ「これ以上、連絡を無視することはできない」と考えるようになるかもしれません。
もし調停にも出頭しなかったり、出頭したものの話し合いがまとまらなかったりした場合は、遺産分割審判の手続きに移行します。審判では、裁判官が提出された資料および各相続人の主張を踏まえて遺産分割の方法を判断します。
仮に出頭しない相続人がいたとしても、適切な書類送達や意見聴取が行われたうえで判断されます。そのため、相続人全員が出頭しなくても、手続き自体は進行可能であり、財産の分け方を決めることができます。
遺産分割を進めるうえで次のようなトラブルに直面した場合は、相続手続きに詳しい弁護士へご相談することをおすすめします。
これらのトラブルを自身で解決したいと考える方もいるかもしれませんが、相続に関する専門的な知識がなければ対応に苦慮する可能性があります。また、相続税の納付など、期限が定められている手続きも少なくないので、不利益を受けることを回避するためにもスピーディな対応が求められます。
この点、弁護士であれば現在の状況や希望に応じ、最善の方法を選択して正確かつ迅速に対応することが可能です。
たとえば、連絡が取れない相続人がいる場合でも、戸籍などの資料をスムーズに収集して所在地を把握し、手続きに加わるよう連絡してくれます。遺産分割協議や調停、審判などに進んだ後も、適切な割合の財産を相続できるよう、法的な視点から他の相続人や調停委員、裁判官などに主張してくれます。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、相続に関するご相談やご依頼を数多くお受けし、トラブルの解決実績が豊富な弁護士が在籍しております。また、税理士や司法書士がグループ法人に在籍しており、相続税の計算や納付、相続した不動産の登記なども一緒にお任せいただけます。