
未婚率の上昇やライフスタイルの変化、長寿化などを背景に、単身で生活する「おひとりさま」が増えるなか、「自分の死後、財産や身の回りのことはどうなるのだろう」と不安を感じる方も少なくありません。
一方で、「配偶者も子どももいないのだから相続トラブルは起きない」「最後は行政が何とかしてくれるだろう」と考え、特に準備をしていない方も多いのではないでしょうか。しかし、“揉めない”ことと“問題が起きない”ことはまったく別です。
何も対策をしなければ、自分の意思とは無関係に財産の行き先が決められてしまいます。それだけでなく、葬儀や住居の明け渡しなどの手続きが滞り、周囲に負担をかけてしまう可能性もあるでしょう。
さらに、生前に判断能力が低下すると、財産の管理や介護サービスの契約などに支障が生じることが考えられます。
おひとりさまにとっての相続対策とは、単に財産を分ける準備ではなく、人生の最終章を自分の意思で整えるための備えなのです。
このコラムでは、相続問題に詳しい弁護士が、おひとりさまの財産の行方から、遺言や死後事務委任契約、任意後見制度の活用といった具体的な対策方法まで、わかりやすく解説します。将来に漠然とした不安を抱えている方や、自分らしい最期を迎える準備を始めたい方は、ぜひお読みください。
おひとりさまが亡くなった場合、何の準備もしていなければ、財産は法律で定められた手続きに沿って処理されていきます。ここでは、順を追って手続きの流れを見ていきましょう。
まず確認されるのは、「法律上の相続人(法定相続人)がいるかどうか」です。
法定相続人とは、民法であらかじめ定められている相続人のことをいいます。配偶者は常に相続人となり、これに加えて次の順番で相続人が決まります。
もし、「結婚していないし子どももいないから、自分には相続人はいない」と思っていても、兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人になるケースは少なくありません。長年交流がなくても、法律上の相続人であれば財産を取得する可能性があります。
相続人の有無は、戸籍を出生時までさかのぼって慎重に調査されます。その結果、たとえ何十年も連絡を取っていない親族であっても、法律上の相続人であることが確認されれば、その人に財産が承継されることになります。
つまり、何も対策を講じていなければ、自分の意思とは関係なく、疎遠な親族へ財産が引き継がれるかもしれません。
戸籍調査の結果、相続人がいないと判明した場合、家庭裁判所は「相続財産清算人」を選任します。
相続財産清算人とは、相続人がいない場合に亡くなった方の財産を管理し、借金の支払いや財産の売却などを行うために選ばれる第三者のことです。多くの場合、弁護士などの専門家が選任されます。
この手続きには申立てが必要で、予納金として一定額を納めなければなりません。そして、清算人の報酬や手続きにかかる費用は、最終的に残された財産の中から支払われることになります。
相続人がいなくても、生前に特に親しくしていた人が財産を受け取れる可能性があります。これが「特別縁故者」と呼ばれる制度です。
特別縁故者とは、法定相続人ではないものの、長年同居していた内縁の配偶者や、献身的に介護をしていた知人など、亡くなった方と特別な関係にあった人を指します。
ただし、特別縁故者は自動的に財産を受け取れるわけではありません。相続財産清算人による清算手続きの終了後、家庭裁判所に申立てを行い、関係性や貢献の程度を証拠で示し、裁判所が「相当」と認めた範囲でのみ分与がなされます。
認められるかどうかは不確実で、多くの財産を渡したいと考えている人がいても、全額を受け取れる保証はありません。
特別縁故者もいない場合や、分与後も財産が残った場合、財産は最終的に「国庫」へと帰属します。つまり、国の財産になるということです。
これは法律で定められた当然の結末ですが、自分の財産の行き先を自分で決めていない限り、意思とは無関係に処理が進むという現実でもあります。

自分が築いてきた財産を、誰に、どのように遺すのかを自分で決める。これは、おひとりさまにとって人生最後の自己決定ともいえる重要な行為です。
その意思を法的に実現するための手段の一つが「遺言」です。遺言は単に財産の分配方法を指示するだけの書類ではなく、次のような価値観を反映するための意思表示でもあります。
遺言を整えておくと、そのままでは法律の仕組みに従って機械的に処理される財産の行方を、自分で決められるようになります。
ここでは、おひとりさまが知っておきたい遺言のポイントを解説します。
「遺言」とは、自分が亡くなった後の財産の分け方を法的に指定できる制度です。
おひとりさまの場合、遺言の役割は特に大きくなります。なぜなら、法定相続人がいない、あるいは疎遠な親族しかいないケースでは、自分の意思を確実に反映させる中心的な手段となるからです。
たとえば、次のような希望を持っていても、遺言がなければ実現は極めて困難です。
遺言は「争いを防ぐためのもの」というイメージが強いかもしれませんが、おひとりさまにとっては「想いを形にするための制度」と言えます。
遺言にはいくつかの種類がありますが、おひとりさまが検討する場面で中心となるのは、次の2種類です。
自筆証書遺言は、その名のとおり自分で手書きして作成する遺言です。費用がかからず、思い立ったときに作成できるという手軽さがあります。
一方で、法律で定められた形式を満たしていなければ無効になるおそれがあり、内容が不明確だとトラブルの火種となることもあります。また、保管方法によっては紛失や改ざんのリスクも否定できません。
もっとも、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用すれば、一定の安全性を確保できます。
公正証書遺言は、公証人が関与し、公証役場で作成する遺言です。作成には費用がかかりますが、形式の不備で無効となる心配がなく、原本が公証役場に保管されるため紛失のリスクもありません。
さらに、遺言の執行も比較的スムーズに進みやすいという利点があります。
おひとりさまの場合、遺言の存在を確認してくれる親族がいないことも少なくありません。その意味では、確実性と安全性の高い公正証書遺言を選択することが、より安心といえるでしょう。
遺言によって、法定相続人以外の人や団体に財産を渡すことを「遺贈」といいます。遺贈による財産の渡し方として、主に次のような方法があります。
近年増えているのが、不動産を売却して現金化し、寄付や分配を行う方法です。不動産のままでは受け取りにくい団体でも、現金であれば受け入れやすくなります。
遺言を作成する際に極めて重要なのが「遺言執行者」の指定です。
相続や遺贈によって財産を譲る際の手続きには、銀行口座の解約、不動産の名義変更、相続人や受遺者への連絡などがあり、いずれも非常に煩雑です。遺言執行者とは、実際に遺言の内容を正しく実行するため、これらの手続きを任せる人のことです。
手続きを担ってくれる親族がいないおひとりさまの場合、専門家を遺言執行者に指定しておくことが、遺言を“絵に描いた餅”にしないための決定打となります。この点、弁護士を指定しておけば、法的責任のもとで確実に手続きが遂行されるでしょう。
遺言によって財産の行き先を決めることはできますが、遺言さえ残しておけば、必ずしもすべて安心というわけではありません。
人が亡くなった直後に必要となるのは、「財産の分配」よりも先に行わなければならない数多くの手続きです。たとえば、金銭の支払いや葬儀の方法、部屋の片付けなどについては、法律上の遺言事項ではないため、遺言に書いても必ず実行されるとは限りません。
特に、次のような手続きは、亡くなった瞬間から現実的な問題となりがちです。
遺言だけではカバーできない手続きを任せるため、重要となるのが「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約とは、亡くなった後に必要となる事務手続きを、あらかじめ第三者に委ねておく契約です。これは生前に締結する契約であり、自分の死後に効力が生じます。
おひとりさまの場合、葬儀や住居の整理を担う親族がいない、あるいは頼みづらいケースも少なくありません。何も対策を講じていないと、病院の担当者や賃貸住宅の大家、施設の運営者などが、対応に困る事態が生じるおそれもあるでしょう。
死後事務委任契約を結んでおけば、「誰が」「どの範囲まで」「どのように後始末を行うのか」を明確に決めることができます。これは「迷惑をかけないための契約」であると同時に、「自分の希望を反映させる契約」でもあります。
遺言と死後事務委任契約は、役割がまったく異なります。遺言は「お金など財産の整理」、死後事務委任契約は「現実的な後片付け」と整理すると理解しやすいでしょう。
たとえば、次のような希望を持っているのであれば、死後事務委任契約で具体的に定めておくのが適切です。
遺言ではカバーできない希望に対し、死後事務委任契約も組み合わせることで、死後の不安の多くは解消されると考えられます。
死後事務委任契約を依頼するには、当然ながら費用が発生します。葬儀や家財整理といった手続きにかかる費用のほか、手続きを任せるための報酬なども想定し、生前に資金を準備しておく必要があります。
そのため、多くの場合は「預託金」という形であらかじめ資金を預ける方法がとられます。資金を預けたうえで、死後の手続きを任せる以上は、資金が適切に管理され、契約内容が確実に実行されることが重要です。
誰と契約を結ぶかという点について、死後事務委任契約を受ける側に、特別な資格は必要ありません。家族や親族がいなくても、信頼できる友人や知人に依頼することも可能です。
しかし、実際には次のような問題が生じることがあります。
当然、死後の手続きが契約通りに実行されたかどうかを、本人が確認することはできません。そして、受任者にとっても精神的な負担や事務的な負担が大きいものです。
そのため、次のような観点から、専門家に依頼することが現実的な選択となる場合が少なくありません。
特に弁護士は、契約書の作成段階から関与し、法的リスクを整理しながら設計することが可能です。また、万が一紛争が生じた場合にも、法的責任のもとで対応を任せることもできます。
「誰に任せるか」は、死後事務委任契約の核心部分です。自分の死後を託す相手だからこそ、信頼関係だけでなく、実行体制や責任の所在まで含めて検討しましょう。
相続対策というと「亡くなった後」の話に目が向きがちです。しかし、おひとりさまにとって本当に備えておくべきなのは、亡くなる前の期間です。
たとえば、認知症などが原因で判断能力が低下した場合、次のような問題が生じるケースが少なくありません。
判断能力が不十分になると、原則として本人以外は自由に財産を動かせません。その結果、生活や医療に必要な手続きが滞ってしまうことがあります。
この「自分では動けないが、まだ亡くなってはいない」期間への備えも重要であり、活用を検討したいのが、財産管理等委任契約と任意後見契約です。
財産管理等委任契約とは、判断能力があるうちに、自分の財産管理や各種手続きを第三者に委任する契約です。
たとえば、次のような手続きを任せることができます。
この契約の特徴は、すぐに効力を持たせることができる点です。そのため、まだ判断能力がある段階でも、身体的な衰えや入院などに備えて柔軟に活用できます。
おひとりさまの場合、近くに頼れる親族がいないことも多く、日常的な手続きの代行を担ってくれる存在は大きな安心につながるでしょう。
認知症などにより、自分の財産管理や契約行為を適切に行うことができなくなった場合、通常は家庭裁判所が「法定後見人」を選任します。
後見人とは、本人に代わって財産管理や契約手続きを行い、生活や医療に関する重要な判断を法的に支える立場の人です。たとえば、預貯金の管理、不動産の処分、介護施設との契約などを本人に代わって行います。
もっとも、法定後見の場合、誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めるため、自分の希望が必ずしも反映されるとは限りません。
もし、後見人になってほしい人がいる場合に活用できるのが「任意後見契約」です。これは公正証書で締結する必要がありますが、まだ判断能力があるうちに、将来、判断能力が低下した際に後見人となる人をあらかじめ指定する制度です。
任意後見契約を結んでおけば、次のような点を事前に共有し、判断能力が不十分になった際に任せることができます。
自分の将来を「制度に委ねる」のではなく、「自分で選んだ人に託す」ことができる点が最大の特徴です。
死後事務委任契約と同様、財産管理等委任契約や任意後見契約を、知人や友人に依頼することも可能です。ただし、次のような業務を任せることになるため、いずれの契約も想像以上に専門性と責任を伴います。
もちろん、「信頼できる親しい方に任せたい」という考えも大切ですが、大きな負担をかける可能性がある点にも考慮しなければなりません。
金銭管理や法的判断が求められる場面が多いため、専門知識を有し、責任を持って対応できる体制が整った専門家を選ぶことが、合理的な選択といえるでしょう。この点、弁護士であれば、次のような理由から安定した支援が期待できます。
将来の不安に備えるためにも、財産管理等委任契約や任意後見契約を利用するかどうか、また、誰と契約を結ぶかという点を検討してもよいでしょう。

おひとりさまの相続対策は、一つの制度を利用するだけで完結するものではありません。
本コラムでご説明してきたこれらの制度は、それぞれ役割が異なり、相互に補完する関係にあります。そのため、どれか一つだけを利用しても、必ずしも十分とはいえない場合があるのです。
しかし、実際に相続対策を始めたいと考えても、次のようなお悩みを抱える方は少なくありません。
もし、相続対策に関するお悩みをお持ちであれば、ぜひ弁護士へご相談ください。弁護士であれば財産の状況やご希望などを踏まえ、最善の方法や手続きの提案が可能です。
また、対応を任せることで、遺言の作成や死後の手続きはもちろん、判断能力が不十分になった際の支援も、財産管理等委任契約や任意後見契約によって依頼できます。
何も準備をしなければ、死後の手続きは法律の仕組みに従って進められます。しかし、十分な対策を講じておくことで、生前の支援体制から、財産の行方や死後の煩雑な手続きまで、自分で選ぶことができます。
つまり、おひとりさまの相続対策は、「争いを防ぐため」というよりも、「自分の人生を最後まで自分で整えるため」の準備です。
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おひとりさまの相続対策も、ぜひ私たちにご相談ください。