5月に急逝し、その死因や人間関係が連日のように報道された「紀州のドン・ファン」こと野崎氏について、8月に入ってから新たな展開がありました。彼は生前に「遺言書」を作成しており、その内容が全財産を故郷の田辺市に寄付するというものだと報じられたのです。
「遺言書」とは、死後に財産を残す被相続人が、その財産を相続する相続人の間で争いが起きないように、または希望通りに財産を分割するために、財産の処理方法を書面で定めたものです。しかし、単に書面を作成するだけでは、有効な遺言書として扱われません。民法の相続に関する規定にしたがった作成をしなければならないのです。
今夏、その民法が、約40年ぶりに改正されました。
今回のコラムでは、遺言書について改正された民法を踏まえて、弁護士が分かりやすく解説していきます。
民法には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」という3つの形式が、普通方式の遺言書の書き方として定められています。以前の別コラムに詳しくまとめておりますので、ぜひご覧ください。その中でも今回の改正で、「自筆証書遺言」が大きく変わりました。
遺言者が、特定の財産を特定の相続人に相続させる場合、その財産を特定できるもの、たとえば、不動産の登記事項などを財産目録として別紙で添付することがあります。現行法(現在有効な法律)では、その財産目録を含めた全文を自筆しなければ遺言書として認められません。
しかし、改正法では、財産目録を別紙として添付する場合に限り、各ページに署名・押印をすれば、パソコン作成の資料や通帳などのコピーを添付することが可能となります。方式の緩和により、遺言書作成の負担が軽減され、より作成が簡単になりました。
「自筆証書遺言」は、一般的に遺言者が保管するものです。しかし、それでは遺言書の存在を他人には隠せますが、家族に見つけてもらえなかったり、紛失や偽造されたりする恐れがあります。そこで、「自筆証書遺言」を法務局で保管する制度が新設されました。
この制度では、法務省令で定める様式で作成した無封の遺言書について、保管を申請することにより、必要となるときまで法務局で保管してもらえます。そして、遺言者は、いつでも遺言書の返還および閲覧が可能です。
被相続人が死亡すると、遺言者の関係相続人などは、遺言書情報証明書や遺言書保管事実証明書の交付、遺言書の閲覧を法務局に請求し、その遺言書の内容にもとづいて相続の手続きを開始することができます。また、法務局へ申請すると、他の相続人などの利害関係者に遺言書の保管が通知されます。
さらに、法務局指定の形式で作成しますので、これまで必要であった家庭裁判所による「検認(遺言書を検査し認定すること)」の必要がなくなります。自筆証書遺言は家庭裁判所が検認しないと、法的に有効な遺言書として認められなかったのですが、検認は家庭裁判所への申立てなど複雑な手続きがあり、また、不備があれば無効とされてしまいました。法改正後は、事前に法務局の形式審査を受けて、より確実な「自筆証書遺言」を作成する方が望ましいでしょう。
遺言書に自分の相続分の記載が一切なかったとしても、諦めることはありません。遺言者の配偶者や子どもの場合、特別に最低限の財産の取り分(「遺留分(いりゅうぶん)」といいます)を取り戻すことができる「遺留分制度」があります。詳しくは別コラムに詳しくまとめておりますので、こちらもぜひご覧ください。
今回の法改正により、遺留分があることを裁判所に請求する「遺留分侵害額の請求」が主張しやすくなりました。現行法では、現物での返還請求のみを認めるのが原則でしたので、金銭の返還請求は例外的な扱いでした。しかし改正法では、金銭債権の返還のみの請求が認められるようになりました。そのため、相続において不動産をめぐる複雑な共有関係などを考慮しなくて済むので、遺留分にもとづく主張がしやすくなり、権利の処理も簡単になることが期待されています。
これら民法の改正部分は、遅くとも2019年7月12日までに施行されます。ただし、このコラムで解説した「自筆証書遺言の方式緩和」ついては2019年1月13日に、「自筆証書遺言の保管制度」については、2020年7月12日までには施行されることになっています。施行までまだ時間がありますが、遺言書の作成には慎重な検討と様々な準備が必要となりますので、今から時間をかけて作成するのもよいでしょう。
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