年末年始になると忘年会や新年会で、社内の人や取引先などとお酒を飲むケースが増えることと思います。よく、「お酒の場なんだから無礼講で」という話を耳にしますが、これが行き過ぎてしまうと、法律違反に該当するケースもあり得ます。本日は、飲み会が増えていくこの時期ならではの、お酒をめぐる法律問題について見ていきましょう。
育児放棄のニュースなどで「保護責任者遺棄(致死)罪」という言葉をよく耳にすることがありますよね。
保護責任者遺棄(致死)罪は、れっきとした犯罪であり、老人や幼児などを保護する責任のある者(たとえば、幼児であれば親など)が、介護や育児といった必要な行為をせずに放置した(法律用語で「遺棄(いき)」と呼びます)、あるいは生きていくために必要な行為をしなかった場合は、犯罪行為として刑法上の罪に問われる可能性があります。
保護責任者遺棄(致死)罪で保護される対象者は幼児や老人・病人といった介護や世話が常時必要とされる人物だけではなく、いわゆる泥酔状態にあり、一時的に一人で何もできない状態の人物も保護の対象とされています。
つまり、飲酒の場において、同伴者などが泥酔状態になり、一人では何もできない状態であるのに「面倒くさいから」といって放置してしまうのは、保護責任者遺棄(致死)罪として罰せられる可能性があるのです。
また、どこまでが保護する義務があるのかについての境界線は難しいところではありますが、少なくとも一緒に飲み会などに出席した人物は、保護責任者としての義務を負うとされています。
なお、飲み会の同席者ではなく、見ず知らずの人が泥酔状態にあるのを道端で見かけたけれども放置した場合は、保護責任者遺棄(致死)罪になりません。しかし、泥酔者が助けを求めたのに無視して放置した場合には、保護責任者遺棄(致死)罪より少し軽い単純遺棄罪の罪に問われる可能性はあり得ます。
そのため、飲み会に参加した人物が泥酔状態にある場合、一緒に飲み会に出席した人は駅や公園のベンチなどで放置したりせず、状況に応じて水を飲ませたり、自宅などに送り届けたり、救急車を呼ぶなどといった対応をしなければなりません。酩酊状態では低体温症を招きやすく、屋外で寝入って凍死してしまう事例も数多く報告されています。同伴者が酔いつぶれた場合は、きちんと最後まで面倒をみてあげましょう。
飲み会のときに見かけることも少なくない「一気飲みコール」。これも嫌がるのに無理やり一気飲みをさせた場合、「強要罪」という刑法上の犯罪行為に該当します。強要罪とは、暴言や暴行、脅迫や地位を利用するなどして、法律上の義務を負わない行為を無理やりさせることをいいます。
飲み会の場に当てはめると、一気飲みコールで一気飲みをせざるを得ない雰囲気を作り出し、無理やり一気飲みをさせたり、上司や先輩などの地位を利用して無理やりお酒を飲ませた場合が強要罪にあたる可能性があります。また、無理やりお酒を飲ませ、その人が急性アルコール中毒などで意識を失った場合は傷害罪(死亡した場合は傷害致死罪)に問われる可能性もあります。
その他、一気飲みなどを直接的に強要しなかったとしても、一気飲みコールをした場合など、傷害になる行為を煽った場合は、傷害現場助勢(じょせい)罪に該当する可能性があります。
特に近年は、アルコール・ハラスメント(いわゆる、アルハラ)という言葉が示す通り、コンプライアンスの観点からも、お酒の強要は大きな問題となっています。わかりやすく単純化して整理してみますと、
アルコール・ハラスメントの類型 | 問われる罪 | その法定刑 |
---|---|---|
暴言や脅迫などして無理やりお酒を飲ませた | 強要罪 | 3年以下の懲役 |
酔いつぶすことを目的に、無理やりお酒を飲ませて酔いつぶした | 傷害罪 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
お酒を強要し、急性アルコール中毒にさせた | 過失傷害罪 | 30万円以下の罰金または科料 |
上記の場合で、飲酒者を死亡させた。 | 傷害致死罪 | 3年以上の懲役 |
周りで一気飲みをコールするなど傷害(致死)罪になるような行為を煽った | 現場助勢罪 | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料 |
一緒に飲み会に参加した泥酔者を放置した | 保護責任者遺棄罪 | 3年以上5年以下の懲役 |
上記の場合で、泥酔者を死亡させた | 保護責任者遺棄致死罪 | 3年以上20年以下の懲役 |
その他、刑法上の責任だけでなく、お酒の強要などで飲酒した者が急性アルコール中毒になって病院に運ばれた、あるいは後遺症が残った・死亡した場合には、参加者や関係者は泥酔状態の人に適切な処置を行わなかったり、泥酔状態になる前に飲酒を止めさせるべきたったとして、慰謝料や治療費などの民事上の損害賠償責任を追及される可能性があることにも注意が必要です。
ニュースなどで、お酒を飲んだ者が傷害あるいは暴行罪を犯して逮捕された場合、「容疑者は取り調べに対し、『当時のことは酔っていてよく覚えていない』と応じている」と報道されることがありますよね。
日本の刑法にはその基本原則として、
との規定があります。
つまり、年少者や知的障害があり、物事の善し悪しの判断がつかない人物(あるいは状態)であれば、罪に問わない、あるいは軽減するとされているのです。このうち、いわゆる泥酔状態は物事の善し悪しの区別がつかない心神耗弱状態にあるとされ、刑が軽減されることがあります。
しかし、現実的には、罪を犯した時点で泥酔状態、つまり心神耗弱状態にあったとしても、泥酔状態になる前に飲酒を止めるべきだったと判断されることがほとんどであり、必ずしも刑が軽減されるわけではありません。その他、自身が泥酔状態になることをあらかじめ予測したうえで勢いをつけるためにお酒を飲み、泥酔状態に至ったうえで犯罪行為を行ったというケースでは、「自身が泥酔状態になることをあらかじめ予測しえた」という点を重視し、飲酒開始時には責任能力があったとして、刑の軽減がなされなかったケースもあります。
また飲酒状態(あるいは薬物を利用した状態)での悪質な交通事故が後を絶たないことを背景に、アルコールや薬物の使用で正常な運転ができない状態で運転を行い、事故を起こして人を負傷させた場合などに適用される、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(略称は「自動車運転処罰法」または「自動車運転死傷行為処罰法」とも呼ばれます)が2014年に施行されたことは記憶に新しいことです。
飲酒の場は節度を守れば大変楽しいものですが、その一方で、羽目を外すと他人に不快感を与えるばかりではなく、アルコール・ハラスメントとして違法なものとなり、また、刑法上の罪に問われてしまうなど、法律上の問題に発展する可能性があります。これから忘年会・新年会を迎えるシーズンですが、くれぐれも飲酒の場においては節度ある飲み方を心がけましょう。