2021年(令和3年)3月1日から改正会社法が施行されました。そこで、今月のコラムでは約6年ぶりに行われた会社法の改正についてお伝えしていきたいと思います。
今回の会社法の改正の大きなポイントは、コーポレート・ガバナンスの観点から経営の透明性をより確実なものにするため、取締役や株主総会に関する規定の見直しが行われたことです。
決算期が迫っている会社経営者の方は、株主総会の準備などの対応も早めに迫られる可能性があるので、注意が必要です。
公開会社の場合、従来の規定では、株主総会に関する資料は株主総会の2週間前までに発送しなければなりませんでした。
また、原則的に資料は書面で送付しなければならず、インターネットを通じた資料を提供するためには、株主の個別の同意を得なければならないとされていました。
しかし、この2週間という期間については、内容を精査するには短いとの批判が数多くの投資家からなされていました。
また、資料が多い場合、郵送料などのコストが負担になるという会社側の問題もありました。
そこで、改正法では、株主総会の資料提供に関し、株主の個別の同意を得なくともインターネットを通じた提供が可能になりました(改正会社法第325条の2)。
具体的な手順としては、次の通りとなります。
そして、この制度を利用するためには、定款の変更が原則必要ですが、改正会社法の施行日に上場会社である場合には、定款変更の決議をしたものとみなされます(整備法第10条2項)。
なお、定款変更をした際には登記変更が必要となります。
定款や登記を変更しなければならないことから、少し手間がかかるようにも思えますが、株主総会の開催に合わせて、膨大な資料を印刷・郵送するコストと比較すれば、今回の制度新設は会社側にとってもメリットがあるといえます。
改正前の会社法においては、株主総会において株主が提出できる議案の数に制限はありませんでした。
そのため、1人の株主が数十個、数百個の株主提案を濫発したりする事態が起こっていました。株主提案が出されると、株主総会はその提案の対応や検討に多大な時間や費用を要することになります。
そこで、改正法では、株主総会の適切な運営のために、取締役会設置会社の株主が、株主総会で議案を提出することができる数の上限を10個までと定められました(改正会社法第305条4項)。
この10個という数字ですが、具体的には
とされています。
よく、議題と議案を混同されている方がいらっしゃいますが、議題と議案は異なるものであり、今回の規定の対象となるのは議案の方です。
また、株主提案権のうち、比較的提案数が多いのが、役員に対する選任・解任です。これについては、議案の数や人数にかかわらず、1個の議案とみなされます。
具体例 | 議案の数え方 | |
---|---|---|
① | 取締役Aを選任する | 1個の議案 |
② | 取締役A、監査役Bを選任する | 1個の議案 |
③ | 取締役Aを解任し、取締役Bを選任する | 解任で1個の議案、選任で1個の議案、合計2個の議案 |
なお、株主総会の運営を妨害するための不当な目的で行使される株主提案を防ぐため、数だけではなく、株主提案の目的や内容にもとづく制限も検討されていましたが、今回の改正法では見送りとなりました。
改正前の会社法では、指名委員会等設置会社以外の株式会社においては、取締役の報酬については、定款あるいは株主総会の決議によって定める必要があるとされてきました。
正確にいえば、株主総会で決議する場合には、取締役全員の報酬額の上限を決めていればよいとの規定がありました。つまり、取締役の個々の報酬額については、株主総会で定める必要はないというのが従来の解釈でした。
実務上は、株主総会で定めた上限の枠内で、個々の取締役報酬の額については、代表取締役に一任されている企業が数多く存在しました。
しかし、このやり方では、代表取締役が自分の意見に従う取締役の報酬を高く設定してしまう、という、いわゆる「お手盛り」が可能であるとの批判がなされてきました。
そこで、改正法では、①公開会社であり、かつ、大会社、②監査等委員会設置会社、のいずれかの取締役会は、取締役の報酬の決め方について、決議をした内容と方針、概要の開示を求めることを義務付けられました(改正会社法第361条7項)。
上記以外にも、会社法の改正箇所は多岐に渡ります。取締役に関する規定だけでも、他にもたくさんの改正点があります。たとえば、
などがあります。
また、役員が業務上発生した損害について、株主から株主訴訟などで損害賠償請求を起されることがあります。これらの事態に遭遇した場合、役員が負担する損害賠償金を一定の範囲で保険会社が補填する役員等賠償責任保険(D&O保険)の新設(改正会社法第430条の3)などがあげられます。
今回の会社法の改正は、上場会社については決算期・株主総会が迫っている場合、速やかに手続きの変更に着手しなければならない箇所も含まれています。
弊事務所では、企業法務に精通した弁護士のほか、司法書士も在籍しており、会社法の改正対応に関連した法律相談から登記の変更手続きまでワンストップでサービスをご提供しております。
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