新型コロナウィルスの感染防止のためにテレワークが普及し、「テレハラ」といった新たな言葉が生まれるなど、パワハラが再び注目を浴びるようになっています。また「テレハラ」に限らず、パワハラは根強い問題です。職場におけるパワーハラスメントに関する労働基準監督署等への相談件数は依然として増加傾向にあります。
また、職場におけるパワーハラスメントは、被害者だけにとどまる問題ではありません。 パワーハラスメントを行った加害者も、会社から解雇や懲戒処分といった処分を下されたり、被害者から訴訟を起こされたりといったリスクがあります。
そればかりではなく、企業にとっても、パワハラの実態を把握しながらも、何ら対策をせず放置した場合、被害者から裁判を起こされ、使用者としての責任を問われることもあります。
さらに、改正された労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)では、労働局からパワハラ対策の不備を指摘されたにも関わらず改善されない場合、企業名が公表されることになっており、企業のイメージダウンにもつながります。そして、企業名が公表されるだけではなく、ハローワークへの求人申し込みが受理されなくなる可能性すら生じます。
つまり、経営者にとってのパワハラ対策は、もはや必須のタスクといえるでしょう。それでは、どのような対策をしていくべきか、厚生労働省が発表したパワハラマニュアルを紐解いてみましょう。
パワハラは一度発生してしまうと、被害者・加害者・企業にリスクが発生しますので、企業としては、できるだけパワハラの発生を未然に防ぐ体制作りが最も大切です。
厚生労働省は、まず、代表者や経営陣などが「パワハラは絶対に許さない」というメッセ―ジを社内に発信することを推奨しています。トップからメッセージを発することにより、より深く個々の従業員のパワハラに対する認識が生まれるからです。
次に、どのようにしてパワハラを予防すべきか、たとえば、1年に1回パワハラに関する研修を行うといった具体例や、実際にパワハラが発生した場合どのように対策すべきかを、社内規定や就業規則、懲罰規定などに文章化しておけば、実際にパワハラが発生した場合に、加害者に対して何らかの懲罰を与える際の根拠にもなります。
なお、就業規則を変更する場合には、労働組合や従業員代表から意見を聞いたり、新たな就業規則を労働基準監督署へ提出し、従業員らに対する周知を行わなければなりません。これらも忘れないように注意しましょう。
次に、企業がなすべきことは、従業員に対するパワハラに関する教育および企業の方針の周知です。パワハラに関する教育のその具体的な中身は、企業が行っているパワハラ対策だけではなく、どのような行為がパワハラに該当するか否かといったレクチャーも必要です。
自分が知らず知らずのうちにパワハラの加害者となっていることも少なくなく、事態が深刻化する前に、加害者が自発的にパワハラ行為を止めることも大切だからです。予防という観点から考えれば、従業員に対してどういった行為がパワハラに当たるかを理解してもらうことが肝要といえるでしょう。
次に、企業が行うべき対策は、実際にパワハラが発生した場合に備えて、できるだけ初期の段階で解決できる仕組みの構築です。
具体的には、従業員などから相談があった際に速やかに対応できるよう、最初の窓口となる専門部署や担当者の設置です。
厚生労働省が発表した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」は、相談があった際の流れを次のように説明しています。
上記はモデル対応ですが、その際に注意すべきことは、被害者はもちろんのこと、加害者や関係者のプライバシーの保護に配慮しなければなりません。被害者が企業にパワハラの相談をしたことにより、二次被害が発生したり、被害が悪化する事態は避けるべきでしょう。
その他、相談者の意向に反して、企業が加害者や関係者に対してパワハラの実態聴取を行ってしまい、相談者が企業に不信感を持ってしまうことは、対応がうまくいかないパターンの一つです。
また、今回の法改正では、パワハラだけではなく、セクハラや妊娠や出産・育児に関するマタハラに対する措置も企業に求めています。
たとえば、上司が部下に対して性的嫌がらせを行ったなどパワハラとセクハラ行為が同時に発生することもあります。そのため、企業はパワハラだけではなく、セクハラやマタハラに対する対策も同時にしなければなりません。
そして、パワハラの被害が明らかになり、企業が加害者に対し何らかの処分をする場合、過剰な対策となっていないか、就業規則違反となっていないかにも注意すべきです。
紛争の長期化が予想されたり、事案が複雑な場合は、手遅れにならないように弁護士や社会保険労務士に相談すべきでしょう。
また、被害者の状態によって産業医や臨床心理士の受診をすすめるとか、再発防止という観点から加害者にパワハラに関するセミナーの受講をさせるといったことも検討すべきでしょう。
以上のように、企業にとって、パワハラ対策は必須です。パワハラ被害が発生した場合、被害者から裁判を起こされたり、対応の不備による企業名公表というコンプライアンス上のリスクがあるからです。
そればかりではなく、従業員の労働環境を整備するといった取り組みは、従業員の企業に対する悪いイメージを払拭し、求職者や離職者の減少を防ぐというレピュテーション対策にもつながります。
しかし、パワハラ対策に関するソフトインフラを構築することは簡単ではありません。また、従業員が少ない規模の企業では、関係者のプライバシー保護にも限度があります。
そのため、パワハラ対策のルール作成や周知、相談窓口の設置や再発防止策といった一連の業務をすべて外部に委託するのも、方法の一つでしょう。
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さらに、公益通報者保護法や消費者庁の定めるガイドラインにもとづいた内部通報(公益通報)窓口の委託業務も積極的に承っております。
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