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あおり運転が厳罰化へ 免許取り消しや危険運転致死傷罪の適用も

交通事故

最近、相手方を挑発あるいは威嚇するような急ブレーキや幅寄せ、割り込み運転、クラクションなどの妨害行為、いわゆるあおり運転が社会問題となっています。

2017年6月には、高速道路であおり運転を行って自動車を停止させ、後続のトラックに衝突させた死亡事故が発生しています(「東名高速夫婦死亡事故」)。しかし、これまであおり運転については、何ら法的な定義がされておらず、取り締まりの際に指摘されていました。

この事件をきっかけに、あおり運転が重大な事故を引き起こす可能性があることが問題視されるようになりました。また、実際にあおり運転の被害者から、被害状況を撮影したドライブレコーダーの映像がニュースなどで放映されるなど、あおり運転罰則化の声が日に日に高まってきました。

これらの社会的な影響により2020年6月30日に施行された改正道路交通法について、弁護士がわかりやすく解説します。

改正道路交通法では、あおり運転を「妨害運転」と規定し、取り締まりの対象としました。同法では、妨害運転に該当する具体例として、下記10個の行為を挙げています。

  1. (逆走など)通行区分違反
  2. 急ブレーキ禁止違反
  3. 車間距離不保持
  4. 進路変更禁止違反
  5. 追越し違反
  6. (パッシングなどの)減光等義務違反
  7. 警音器使用制限違反
  8. (幅寄せなどの)安全運転義務違反
  9. (高速自動車国道での)最低速度違反
  10. (高速自動車国道での)駐停車違反

これらの行為を、交通事故など交通の危険が生じるおそれがある状態で行った場合、

  • 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
  • 違反点数25点/運転免許の取消し
  • 免許再取得が可能になるまでの期間が2年の経過が必要(前歴や累積点数がある場合には最大5年)

が科せられます。

さらに、上記違反行為によって、高速道路で他の車を止めさせるといった、著しい交通の危険を生じさせた場合、

  • 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
  • 違反点数35点/運転免許の取消し
  • 免許再取得が可能になるまでの期間が3年の経過が必要(前歴や累積点数がある場合には最大10年)

が科せられます。

なお、上記妨害運転10項目のうち、6.減光等義務違反、9.(高速自動車国道での)最低速度違反、10.(高速自動車国道での)駐停車違反以外の行為については、自転車についても取り締まりの対象としています。たとえば、自転車に乗りながら、自動車の前で急ブレーキをかけたり蛇行運転をしたりといった行為です。

自転車の場合は、3年間に2回以上摘発された場合、安全講習の受講が義務付けられます。

メディアではあまり報道されていませんが、あおり運転に関連して道路交通法以外に改正された法律があります。それは、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称「自動車運転死傷行為処罰法」)です。

これまでは、あおり運転が原因で死亡事故などの重大な交通事故が発生しても、過失運転致死傷罪が適用されませんでした。つまり、不注意やうっかりミスで起こした事故と同様の量刑(最大で7年以下の懲役・禁固)しか科せられませんでした。

しかし、今回の改正により、あおり運転を行い、走行中の車を停止・徐行させ、重大な事故を発生させた場合には、危険運転致死傷罪が適用されることになりました。

危険運転致死傷罪は、アルコールや薬物などの使用で正常な判断ができない状態で運転を行ったり、制御できないほどの法定速度を大幅に超過する速度で運転を行い、交通事故を発生させた場合に適用されます。

あおり運転による交通事故で危険運転致死傷罪が適用されることにより、これまで最大7年以下の懲役・禁固であった刑が、

  • 人を負傷させた場合には懲役15年以下
  • 人を死亡させた場合には懲役1年以上の有期懲役(つまり20年以下)

が科せられることになりました。

その他、ここ数年の悪質な交通事故の増加に伴い、様々な法改正が行われています。主な改正か所を見てみましょう。

●高齢運転者対策の新設

高齢運転者の操作ミスや判断能力の低下による交通事故が相次いで発生し、対策を求める声が日に日に高まっていました。そこで、高齢運転者による交通事故防止対策として、下記要件が新設されました(2017年3月12日施行)。

(1)臨時認知機能検査・臨時高齢者講習制度の新設
75歳以上の運転者が、認知機能が低下したときに起こしやすいとされる一定の違反行為(信号無視、逆走などの通行区分違反、一時不停止)をした場合、臨時の認知機能の検査の受診を義務付けました。

検査の結果、認知機能が低下し、運転に影響を及ぼすと判断された場合には、臨時高齢者講習の受講をしなければなりません。

(2)臨時適正検査の実施
運転免許更新時や、1.の臨時認知機能検査で認知症のおそれがあると判断された場合、臨時適性検査の受診あるいは主治医の診断書の提出が必要となります。

そして、臨時認知機能検査や臨時適正検査を受けなかった場合や、主治医が認知症と判断した場合には、免許取り消しや停止の対象になるとされました。

その他、高齢運転者に対しては、運転免許証の自主返納も求めています。

●携帯電話を使用しながらの「ながら運転」の禁止

スマートフォンや携帯電話の普及に伴い、これらの機器を操作しながら自動車や自動二輪の運転を行い、交通事故を発生させる件数が増加しました。

そのため、スマートフォン等を使用ながら運転をした場合の違反点数・反則金が、改正前の約3倍に引き上げられました。さらに、事故を起こすなどの交通の危険を生じさせた場合は、即免許停止とされました(2019年12月1日施行)。

新型コロナウィルス感染防止のための緊急事態宣言が5月26日に解除され、自動車の交通量は以前の9割にまで回復しました。外出自粛で買い物や経済活動を控えた分、遅れを取り戻そうと無謀な運転をする者が現れたり、外出自粛で溜まったストレスを発生するかの様にあおり運転をする者の出現も予想されます。

運転をする・しないに関わらず、交通事故には十分に気をつけてください。万が一、交通事故の被害に遭われた場合は、治療を最優先としつつも、弁護士に事故後の対応を相談し、間違いのない対策を取ることをおすすめします。

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弁護士法人プロテクトスタンス 代表弁護士 五十部 紀英

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