パタハラとは、いわゆる「パタニティハラスメント」のことで、主に男性労働者が育児のために、育児休業(育休)、時短勤務などの制度の利用を希望した場合や、これらの制度を使ったことを理由として、上司や他の労働者から嫌がらせを受けたり、就業環境が害されることを指します。
パタハラも、その他のハラスメントと同様に、重大なハラスメントの1つであるため、事業主はパタハラを未然に防止するための措置を講ずる必要があります。
そこで、このコラムでは、パタハラの定義や、パタハラに対する事業主・労働者の責務、パタハラ防止のために講ずべき措置などを労働問題に強い弁護士が解説していきます。
パタハラとよく似た言葉・概念に、「マタハラ」があります。
これは、「マタニティハラスメント」のことで、女性労働者が妊娠・出産したこと、産前・産後休業や育休取得を実際に取得したことのみならず、取得を希望したことに対して、上司や他の労働者から、嫌がらせや不利益な扱いを受けることを指します。
わかりやすく言うと、育休取得などに対して、男性社員への心無い言動や不利益な取り扱いは「パタハラ」、女性社員に対しては「マタハラ」ということになります。
ただし、言葉や概念は異なりますが、同じハラスメントであるため、ハラスメントの種類にかかわらず、事業主はこれらのハラスメントを防止する必要がある点については変わりません。
実際にパタハラを受けた労働者から裁判を提起され、パタハラが認められた裁判例があります。
ここからは、パタハラの裁判例を、ご紹介します。
【ケース】
病院に勤務している男性が、2010年に育児休暇の取得を申請したところ、これを理由に2011年度の職能給の昇給が認められず、昇格試験も受験できなかった事例です(医療法人稲門会(いわくら病院)事件)。
【判決】
判決では、これらの対応は育児・介護休業法に違反するとされ、企業側に慰謝料15万円の支払いが命じられました。
【ケース】
スポーツメーカーに勤務する男性社員が、育休からの復帰直後にオフィス勤務から、経験のない物流センターへ部署異動させられた事例です(アシックス事件)。
【判決】
明確な内容は明らかになっていませんが、本件に関しては和解が成立したといわれています。
パタハラの発生防止義務は法律上の義務ですが、上記の通り、裁判でもパタハラが認定されていることから、事業主はパタハラが発生せぬよう防止することが強く求められています。
しかし、具体的にどのような対応をすればよいのか、不明点も多いことでしょう。
まず初めに、事業主の不利益な取り扱いの禁止に関する規定や、パタハラ防止に関する事業主の責務を解説します。
なお、事業主のみでなく、労働者にもパタハラに関する責務がありますので、こちらもあわせて解説します。
育児・介護休業法第10条では、労働者が育休取得を申し出たことや、育休を取得したことに対して、事業主による不利益な取り扱いを禁止しています。
具体的には、以下の行為などが不利益な取り扱いに該当する可能性があります。
先に解説した裁判例では、降格、不利益な配置転換が該当します。
この他にも、男性社員が育休取得を申し出たことを理由とした解雇や、減給などもパタハラとなります。
パタハラを防止するため、事業主には、次の責務が課されています(同法第25条の2第2~3項)。
事業主自らも、パタハラに関する理解を常に深める必要があります。
そして、自社が雇用する労働者に対して、パタハラやその他ハラスメントに関する研修を実施するなど、必要な対応を行う必要があります。
パタハラ防止に関する責務は、労働者にも課されています(同法第25条の2第4項)。
労働者自身も、パタハラに関する理解を深め、他の労働者の就業環境を害さないように努める必要があります。
また、事業主が行う、パタハラなどのハラスメントに関する研修などにも参加するよう努めなければなりません。
なお、これらの不利益な取り扱いの禁止、事業主や労働者の責務は、パタハラのみに関する規程ではありません。
マタハラやケアハラ(介護休暇の利用に関するハラスメント)など、その他職場におけるハラスメントを防止するために行う必要があります。
事業主には、上記の責務に加えて、マタハラを未然に防止するために、雇用管理上、次の措置を講ずる義務が課されています(男女雇用機会均等法第11条の3、育休法第25条の2)。
パタハラ防止に関する方針を明確にするとともに、その方針を労働者(管理職・役員を含む)に周知する必要があります。
そして、その方針には以下の内容を定める必要があります。
なお、これらの内容は、就業規則や服務規律などに記載すると効力が強まり、雇用契約の内容にすることができます。
事業主には、パタハラなどを含めた職場におけるハラスメントに関する相談体制を設置する義務があります。
なお、職場ではパタハラ以外にも、パワハラやセクハラ、マタハラ、ケアハラなど、様々なハラスメントが発生する可能性があります。
そのため、各ハラスメントに対して一元的に対応できる窓口を設置することが望ましいです。
どんなにハラスメント対策を実施していても、パタハラなどのハラスメントが発生してしまう可能性は否めません。
万が一、パタハラが発生してしまったら、次の通りに迅速・適切に対応する必要があります。
パタハラ発生の事実を知った場合、事実関係を正確かつ迅速に確認することが重要です。
また、発生したパタハラに対して適切な措置を行うのみでなく、再発防止に向けた措置を講ずる必要もありますので、注意してください。
パタハラが発生してしまった場合、その原因や要因を解消するための措置を講じなければなりません。
パタハラが発生する原因は、様々なものが考えられますが、この原因を放置しておくと、パタハラが再発してしまう危険性があります。
また、上記で解説した、再発防止の措置に関する規定にも反することになります。
万が一、パタハラが発生してしまった場合は、その原因を適切に捉え、迅速に解消していくようにしましょう。
ここまでまとめた通り、事業主は、日頃からハラスメントを起こさない体制を整備していく必要があります。
しかし、事業主が実施しなければならない措置や義務の内容を把握しても、具体的な対応方法について、不明点や懸念点などが生じることが予想されます。
このようなときには、パタハラを含めたハラスメント対策に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、企業の環境や事情に合わせた対策案を検討することができ、就業規則や服務規律などの改定をサポートすることができます。
また、弁護士が各ハラスメントなどの外部通報窓口として対応することもできます。
会社を守るためには、隙のない正確な内容での改定が必要ですし、労務対応は間違いのない手続きを踏む必要があります。
ぜひ、ハラスメントなどの労働問題に強い弁護士に相談してください。
弊事務所には、企業法務の中でも労務問題を得意としており、実績豊富な弁護士が在籍しています。
また、グループ法人に社会保険労務士も在籍しているため、ワンストップで労務問題の対応をすることが可能です。
さらに、内部通報(公益通報)窓口の委託業務も積極的に承っております。
弁護士を通報窓口とすることで、ハラスメントなどのさまざまな問題に適切に対応できるため、企業の不利益を最小限に抑えられることが期待できます。
もし、ハラスメント対策にお悩みの際には、弁護士法人プロテクトスタンスまで、遠慮なくご相談ください。
なお、企業が行う必要のあるパワハラ対策や、マタハラを防止するための方法も、下記のコラムで解説しております。こちらもあわせてご覧ください。