
2026年4月1日から施行される改正区分所有法は、マンション管理のあり方を大きく変える内容となっています。
「修繕や建替えの必要性を理解しているのに、いつまでも決められない」という状況に、心当たりはないでしょうか。今回の改正の本質は、「決められないマンション管理組合」をなくすことにあります。
これまで多くのマンションでは、区分所有者の高齢化や不在、無関心などにより、総会の決議が成立せず、修繕や建替えの判断ができないケースが問題となっていました。
こうした状況を踏まえ、改正法では意思決定のルールが見直され、より現実的に管理運営ができるよう設計されています。
しかし、裏を返せば、管理組合の意思決定に伴う責任や法的リスクが、これまで以上に高まることも意味します。
このコラムでは、区分所有法の主な改正ポイントを整理し、管理組合に求められる対応や弁護士の関与が必要となる場面などを、不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
今回の区分所有法改正は、単なる制度変更ではありません。マンション管理の現場で長年問題となってきた課題に対応するために行われたものです。
特に、近年のマンションを取り巻く環境の変化が大きく影響しています。
区分所有法とは、分譲マンションのように、一つの建物を複数の人が区分して所有する場合における権利関係や、建物の管理方法などを定めた法律です。専有部分の所有関係だけでなく、共用部分の管理や管理組合の運営ルールなど、マンション生活の基盤となる重要な事項が定められています。
区分所有法は長年にわたり基本的な枠組みが維持されてきましたが、近年では前提となる社会状況が大きく変化したため、法改正が行われました。
現在、築40年を超えるマンションが急増し、今後も増加が見込まれています。
国土交通省によると、築40年以上のマンションが2014年には48.5万戸だったのに対し、2024年は148万戸まで増加。さらに10年後の2034年は293.2万戸、20年後の2044年は482.9万戸まで増加すると予想されています。
築年数の古いマンションの増加に伴い、大規模修繕や建替えといった重要な判断が必要な場面が増えていきます。しかし、実際には、次のような状況が生じ、必要な対応が先送りされるケースが少なくありません。
その結果、建物の老朽化が進み、資産価値の低下や安全性の問題に発展する事例も少なくありません。
従来の区分所有法では、多くの重要事項について、区分所有者の全体を分母とした厳格な多数決が求められていました。たとえば、建替え決議には原則として5分の4以上の賛成が必要とされており、現実的にはハードルが非常に高いものでした。
また、総会に出席しない区分所有者も母数に含まれるため、実際に反対しているわけではなくても、意思決定が成立しないケースが多くありました。
こうした制度のもとでは、「重要な事項があっても決められない」という構造的な問題が生じていたのです。
今回の改正区分所有法では、管理組合の運営に直接影響する重要な見直しが複数行われています。主な改正ポイントは以下のとおりです。
それぞれのポイントについて詳しく見ていきます。
改正前の区分所有法では、共用部分の変更(大規模修繕など)の決議において「全区分所有者」の多数決を原則としていました。そのため、会合に参加しない無関心な所有者が実質的な「反対票」となり、必要な工事が可決できないという構造的な課題がありました。
改正後は、建替え決議など区分所有権の処分を伴う一定の決議を除き、修繕などの事項については、出席者(議決権行使書・委任状提出者を含む)を基準とした多数決による決議が可能となります。
さらに、外壁剥落の危険防止やバリアフリー化といった特定の事由がある場合には、共用部分の変更などに求められる特別決議の要件が、従来の4分の3から3分の2に緩和されます。
これにより、管理組合は現状の出席状況に即した、より現実的で迅速な意思決定を行えるようになります。
相続未了や連絡先不明の区分所有者が増えている問題に対し、改正法では強力な対応策が講じられます。まず、必要な調査を尽くしても所在が分からない所有者については、裁判所の認定を受けることで、すべての決議の母数(分母)から除外して決議を行うことができるようになります。
また、「ゴミ屋敷」化したり、配管の腐食を放置して漏水被害を及ぼしたりしている空き室への対応として、「管理不全建物管理制度」という財産管理制度が新設されます。裁判所が選任する管理人にゴミの処分や補修のほか、裁判所による許可のもとで専有部分の売却まで任せることができます。
加えて、海外居住者などの所有者に対して、国内で事務を行う「国内管理人」の選任を規約で義務付けることも可能になり、連絡がつかないことによる管理の停滞を防ぎます。
ただし、所在不明といえるかどうかの判断や、どの程度の調査を行うべきか、さらには通知や公告の方法が適切であったかといった点が、後から厳しく検証される可能性があります。
形式的に処理を進めた結果、手続きに瑕疵があると判断されれば、成立した決議が無効とされるおそれもあるでしょう。
老朽化マンションの再生を促進するため、従来の「建替え」以外の選択肢が大幅に拡充されます。建物の躯体を維持したまま建物全体を更新する「一棟リノベーション」や、全員の同意なしに多数決でマンションと敷地を丸ごと売却できる制度が創設されます。
これらの決議要件は原則5分の4ですが、耐震不足や火災への安全性不足といった客観的な事由がある場合は、建替え決議と同様に4分の3への緩和が適用されます。
また、建替えが決まった際に賃借人が退去しないことが事業を妨げるケースを考慮し、金銭補償を前提として賃借人の退去を可能とする仕組みも導入されます。
法改正によりマンションの管理に関する意思決定のルールなどが大きく変わるため、既存の管理規約では区分所有法に抵触するかもしれません。
この点、国土交通省が、マンションの管理規約を作成・改正する際のひな型として使用できる「マンション標準管理規約」をホームページ上に公開しています。管理規約の内容が法改正に対応していなければ、国土交通省の標準管理規約を参考に、見直しが求められます。

改正区分所有法の施行により、意思決定が進みやすくなること自体は大きな前進といえますが、その一方で、意思決定の内容や手続きの適否を巡る紛争が増加すると考えられます。
トラブルの火種となりやすいのが、総会決議の有効性を巡る争いです。
全区分所有者ではなく出席者の多数決を基準とするということは、裏を返せば、欠席者の意思が反映されないまま重要な決定がなされる可能性があるということでもあります。
そのため、欠席者が後から「十分な説明がなされていなかったのではないか」「手続きが適切ではないのではないか」と主張し、決議の有効性を争点として、決議の無効や取消しを求めてくるかもしれません。
したがって、今後の管理組合に求められるのは、単に決議を成立させることではなく、その決議が後から見ても適法で合理的であると説明できる状態を確保することです。意思決定のスピードと引き換えに、説明責任の重みが増している点は、特に意識しておく必要があります。
意思決定が進みやすくなったことで、これまで棚上げされていた高額な支出が現実の問題として浮上する可能性があります。たとえば、大規模修繕などの費用負担を巡る対立が、これまで以上に顕在化するかもしれません。
さらに、一棟リノベーションなど、建替え以外の選択肢が増えた結果、区分所有者間の利害が対立しやすくなることも考えられます。たとえば、居住を継続したい人と、資産としての売却や再開発を望む人とでは、価値観が大きく異なるため、合意形成がこれまで以上に難しくなる場面も想定されます。
意思決定に向けた過程の中で、費用負担の公平性や工事内容の妥当性などを巡って利害が鋭く対立し、紛争に発展するケースは決して珍しくないでしょう。意思決定の過程における調整や説明の重要性が一層高まることになります。
理事や理事長に対する責任追及も厳しくなるかもしれません。意思決定のスピードが上がることで、理事会の判断がより直接的に結果に結びつくようになります。
そのため、手続きに不備があった場合や、十分な検討を経ずに判断がなされたと評価される場合には、役員個人に対して責任が追及されるリスクが高まります。たとえ善意であったとしても、その判断が結果的に不適切であったと評価されれば、法的な問題に発展する可能性がある点は軽視できません。
管理会社との関係においても、新たな摩擦が生じる余地があります。
実務の多くを管理会社に委ねている場合であっても、最終的な責任主体はあくまで管理組合です。改正に対応した運営が十分に行われていなかった場合には、その責任の所在を巡って、管理組合と管理会社の間で見解が対立する場面も想定されます。
改正区分所有法では、管理組合による対応がリスクの大小に直結します。適切な対応がなされない場合、最も直接的に問題となるのは、総会決議の効力が否定され、解決までに期間やコストを要することです。
手続きに不備があると判断された場合、決議が無効とされるか、あるいは裁判によって取り消される可能性があります。その結果すでに進めていた修繕計画の見直しが余儀なくされ、工事のスケジュールが大幅に遅れるといった事態も現実に起こり得ます。
さらに、契約関係の調整や再度の合意形成が必要となり、想定していなかった追加コストが発生することも避けられないでしょう。
紛争が一度顕在化すると、解決までに相当の時間と労力を要します。訴訟に発展した場合には、解決までに長期間を要することが一般的であり、その間、理事会は継続的に対応を迫られることになります。
こうした状況が続くと、本来優先すべき修繕や管理の施策が後回しとなり、結果としてマンション全体の管理水準が低下するおそれがあります。
さらに深刻なのは、こうしたトラブルがマンションの資産価値に与える影響です。管理体制に不安がある物件や、紛争が頻発している物件は、市場において敬遠される傾向にあります。
結果として、売却価格が下がるだけでなく、買い手がつきにくくなるといった問題にもつながりかねません。
理事や役員個人に対する影響も無視できません。対応の過程で不適切な判断があったと評価されれば、損害賠償請求などの形で責任を問われる可能性があります。
もともとボランティア的な性格を有していた役割であっても、改正後はより高度な判断が求められる場面が増えるため、結果として個人の負担やリスクが増大することになります。
何よりも重要なのは、こうした問題の多くが、トラブルが表面化した時点ですでに手遅れになっているという点です。決議の有効性や手続きの適否は、意思決定の過程ですでに決まってしまっているため、後から修正することは容易ではありません。
改正後のマンション管理において求められるのは、問題が起きてから対処する姿勢ではなく、問題が生じないように事前に準備するという発想です。適切な準備と手続きの積み重ねが、結果として大きなリスクの回避につながることを意識する必要があります。
マンション管理におけるトラブルは、一度顕在化すると関係者間の利害が複雑に絡み合い、解決までに多大な時間と労力を要することが少なくありません。さらに、対応を誤った場合には、紛争が長期化したり、管理組合の意思決定そのものが無効と判断されたりするリスクも生じます。
トラブルの発生を防止したり、解決したりするための手段として、早い段階で弁護士に相談することを検討してもよいでしょう。弁護士は、紛争が生じた後の解決だけでなく、そもそも紛争が生じないようにするための予防的な関与においても重要な役割を担います。
では、どのような場面で弁護士に相談すべきなのでしょうか。
まず重要なのは、トラブルが発生してからではなく、回避できる段階で相談することです。
法改正後のマンション管理においては、意思決定のスピードが上がる一方で、手続きの適法性や内容の妥当性が厳しく問われるようになります。そのため、総会終了後や問題が顕在化した後に対応しようとしても、すでに手続きのやり直しが困難となっているケースも少なくありません。
このような事態を避けるためには、総会の準備段階や議案の検討段階など、意思決定の前段階で法的チェックを受けておくことが極めて重要です。
具体的には、次のようなタイミングが考えられます。
これらの段階で適切な助言を受けることで、後の紛争リスクを大幅に低減することが可能です。
もちろん、トラブルが発生した際も、弁護士に相談することで解決に向けた交渉や訴訟などの対応を任せることが可能です。
トラブルを予防・解決する手段として弁護士への相談は重要ですが、管理組合が顧問契約を締結し、日頃からサポートを受けることも非常に有効です。
顧問弁護士というと、企業が利用するものというイメージがあるかもしれません。
しかし、管理組合は、区分所有者全体の財産や生活環境に関わる重要な意思決定を担う主体であり、その運営には法的な判断が不可欠となる場面が少なくありません。そのため、必要に応じてその都度相談するのではなく、継続的に弁護士の関与を受けることには大きな意義があります。
顧問弁護士がいない場合、問題が発生するたびに個別に相談することになりますが、その多くは意思決定が終わった後の対応となりがちです。その結果、対応が後手に回り、リスクが顕在化してから対処せざるを得ないケースも少なくありません。
これに対し、顧問弁護士がいる場合、総会の準備や議案の検討といった意思決定の前段階から関与することが可能となります。そのため、問題が発生してから対応するのではなく、問題が生じないように事前にリスクをコントロールすることができます。
また、トラブルが発生した場合にも、状況を把握している顧問弁護士が迅速に対応できるため、解決までの時間やコストを抑えることができます。さらに、理事会や総会の運営に関する助言を継続的に受けることで、管理組合全体のガバナンス強化にもつながります。
つまり、あらかじめ顧問契約を締結しておくことで、日常的に法律面での助言やサポートを受けられるため、トラブルの防止や解決がスムーズになる体制がより強固になるでしょう。

2026年の区分所有法改正は、マンション管理にとって大きな転換点となります。
意思決定がしやすくなる一方で、その適法性や妥当性がこれまで以上に問われるようになります。今後は、単に管理を行うだけでなく、法的リスクを踏まえた運営ができるかどうかが、マンションの価値を左右する重要な要素となるでしょう。
管理組合として適切な対応を行うためには、専門家の知見を活用しながら、早い段階から準備を進めることが不可欠です。改正を機に、マンションの管理体制を見直すことを検討してもよいでしょう。
その一つの選択肢として、顧問弁護士の継続的な関与を取り入れることも考えられます。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、建築・不動産関連を含む多くの会社と顧問契約を締結しており、マンションの管理に関するトラブルもご相談いただけます。マンションの資産価値を維持したいとお考えなら、ぜひ顧問弁護士をご検討ください。